第59話 繰り返した事による限界

 はぁ。これがリアンの本性か。 


 私は『極の反転』を使った後、あまりにもの眠たさに眠ってしまった。そこで、夢を見た。いや、私が私となる前の記憶を見た。



「やぁ。はじめまして」


 私はパンツスーツで髪を一つにまとめ、いつもの出社スタイルで、よくわからない場所の長椅子に腰を降ろしていた。

 目の前にはミルクティー色の髪に金色の瞳の美しい男性が座っていた。

 だが、なんだか見たことがあるようで無いようなと記憶の海を掻き分けているところで男性が話し出す。


「僕の事がわからないようだね。君がよくしていたゲームって言えばわかるかな?」


「あ、エルドラード」


 確か、こんな感じだったと思う。


「いや、そこはサマをつけてよ」


 細かいな。


「で、そのエルドラードサマが何のようですか?私は死んだと思ったのですが?」


 私は死んだ。手紙の中身を見ずに死んでしまった。あれは何が書いてあったのだろう。


「なんだかサマまで名前のように呼ばないで欲しいんだけど?まぁ、君が言ったとおり君は死んだよ。肉片になるぐらいにグッシャリと」


 その細かさもいらない。


「人の死に方を説明してもらわなくてもいいです。で、用件をどうぞ」


「萌ちゃん。恋人にふられても文句を言いながらゲームをしていた君に頼みたいんだ」


 文句ぐらい言うし!呪いの五寸釘を用意していないだけマシと思って欲しい。


「他を当たってください」


「即答!いや、ね。あのゲームをやってみてどう思った?」


「クソゲー」


 それ以外の言葉はない。


「その割には2回もしていたよね」


「ちっ」


 したよ。エンディング見たさにクソゲーを2回もやったよ。


「あの?僕。神様なんだけど?舌打ちって···はぁ。それでそのゲームの元になった世界があるんだよ」


「あー。そうですか。よかったですね」


「そこでは世界を作った女神が封じられた夫を探して、さまよっているんだけど、毎回人の身で転生するから、その夫の元にはたどり着けないんだよ」


 それは女神の夫ということは神なんでしょうね。それは人の身では難しいと普通は思うでしょ。


「大変ですねー」


「女神の力を持った人の身ではどうしても女神の力をその器が受け止められなくて、か弱い存在になってしまうんだ」


 ああ、そういう設定ね。


「はぁ。そうですかー」


「だから、毎回守護者を女神の転生者に与えるんだけど、何度も転生を繰り返すうちに魂が歪んでしまってね。いつも死んでしまうんだよ」


 死ぬ?女神が?


「ん?女神がですか?」


「死ぬのは女神の方で、歪んだのは転生繰り返しすぎた守護者の方だね。最初は良かったんだけどね。もう、今回で限界かなって思って最後にしようと思ったんだよ」


 限界。転生を繰り返した事による限界。


「最後?」


「そう、女神の願いをいい加減に叶えてあげようと思ったんだよ。だから、魔物の王っていうのを作り出して、守護者に勇者の役目を与えたんだよ」


 魔物の王?魔王!そして、勇者ってことは


「勇者リアン!っていうか魔王を神が作ったの?」


「はぁ。だってさぁ。自分は何もできないからってウジウジと安息を約束された地より出ないんだよ。だから、守護者の勇者に引っ張り出してもらって、旅をしながら夫の元に向かってもらおうって思ったんだよ」


 引っ張り出して旅を?頭の中で検索する。そんなシーンはあった?

 あ!勇者の仲間にできる幼馴染みヒロイン!カスステータスのヒロイン!


「はぁ?もしかしてモナのこと?それは無理ゲーよ!」


「そうみたいだったね。でも、僕は守護者に神託を下した。

 勇者として世界を滅ぼす魔王を倒して欲しい。できれば、君の幼馴染みを連れて旅をして欲しいけど、無理なら強要はしないよ。ただ、幼馴染みに剣を向けることをしては駄目って、

 でも毎回最後には女神の器が殺され、世界が崩壊する。

 世界が崩壊してしまったところで時間を巻き戻してもう一回やり直し、それの繰り返し。世界の時間を巻き戻し続けたことで、おかしいと感づき始めた者も出だしてね。だから、次で最後にしたいんだよ」


 リアンがモナに剣を向ける?モナがリアンに殺される?何で?


「それは頑張ってください」


 ああ、転生の歪みか。女神がいるかぎりその守護者は転生をし続けなければならない。だから、終わらそうと女神を殺す。


「うん。頑張ってね。萌ちゃん」


「は?」


「君が万が一守護者の勇者に恋心を持ってしまったら困るから、恋愛感情は封じてあげるね。それから、君のトラウマは忘れないようにしといてあげる」


 殺される相手に恋心持たないし!私のトラウマって何?何かあった?


「いや、待って!」


「それじゃこの世界を楽しんでいってね」


「どう見ても楽しめないでしょ!」


 ということが、転生前に起こったのだ。エルドラードはクソだった。殴っておけばよかった。

 私がキョウヤを忘れることができなかったのは、私がリアンに恋心を抱かせないようにするエルドラードの策略だったのだ。



 転生前のエルドラードとの邂逅の記憶は封じられていたみたいだけど、モナとしての私はなんとなく覚えていたのだろう。


 物心ついたころは何もわからなかった。リアンも普通だったと思う。


 ただ、腕の骨が折られるという事件が起きたときだ。リアンは『ごめんね。大丈夫?』と言いながら、笑っていたのだ。口を三日月のように歪ませ笑っていたのだ。


 その時、思った。ああ、これはわざとだと。


 普通の子供は折られた痛さに耐えきれず、リアンの心配そうな声は聞こえても人の顔を確認するほどの余裕は無いはずだ。

 だから、ゲームのモナはリアンは自分に優しさを向けてくれていると思ったのだろう。

 そして、リアンは時々私を痛めつけて笑っている姿をみせた。それはいつも人が居ないところで、不可抗力だったというシチュエーションを作り出すのだ。


 だから、私はリアンからちょっかいを掛けられないようにやることを与えた。修行という名の無茶振りの訓練だ。

 どうせ、勇者として村の外に出ていくのだ。何れは必要なことだ。私に関心が向くから駄目であって、それを力をつけるという方向に向かせた。

 これが大いに成功した。村の人達の強さに対する向上心もリアンに影響を及ぼしたのかもしれないが、リアンに肋骨にヒビを入れられるまで、大きな怪我をすることを避けられたのだ。


 リアンは私をかわいい、かわいいと言って他の人の前では好意を示していたけど、それは困っている私を見て可愛いと、私が嫌な顔をして可愛いと口にしていたのだ。


 そして、エルドラードとの邂逅の記憶を取り戻して、全てに納得がいった。リアンの好意は私への殺意だったと。




 今、私の目の前にはあの時と同じように口を歪ませて笑っているリアンがいる。


 実は私を突き刺した後のリアンの行動は、私の予想を口にしたのだ。


 リアンのルナルナ攻撃は正に私への嫌がらせであったのだろう。モナがもしリアンに好意を持っていればルナに嫉妬することだっただろう。

 しかし、私は苛つくだけで、ルナに嫉妬心を向けることはなかった。 


 だから今度は、私に私の所為でルナが死んだと思わせようとしたのだ。心優しいモナ彼女なら、あのひと目で死んでいると分かるルナの姿を目にして、それに縋り付くリアンというシチュエーションに心を痛め、自分を責めたかもしれないが、私は心優しいモナじゃない!

 リアンはルナを見殺しにして私への当てつけにしたのだろうと予想を立てたのだけど、当たっていたようだ。


 リアンの歪んだ笑顔が全てを物語っていた。


「あは☆モナは凄いね。いつも、いつも、いつも、いつも、いつも俺を頼りにして、俺以外を見ないのに、モナはいろんな事をしようと、いろんなことに興味を持って、俺以外の守護者を得た。すごいね。最後には女神の願いを叶えたって?それって何だったのかな?いつもいつもいつも聞いても答えてくれなかったのに、自ら守護者を得たら叶ったのかなぁ」


 なんか、リアンが一回り大きくなった気がするんだけど?っていうか、その私は私じゃなくて女神の欠片の方だからね。それに女神が愛した神を自ら封じたと、そして、その神に会いたいなんて言えるはずはないでしょ。


「ふん。元々私の守護者になる気なんて無かった癖によく言うよね」


「うん。無かったね☆」


 また、大きくなった気がする。何が起こっている?

 ジュウロウザは私を抱えながら、刀を抜いた。シンセイは戟をリアンに向けて構えた。


 私はリアンを視る。


 ····


ryアぃnンンン


 職sユゥゥゥゥ  ユアァァァァ




 え?ごめん読めないよ。名前と職種の時点で何が表記されているのか、わからなくなっている。

 あれか、エルドラードが魂が歪んでいると言っていたやつか。え?これってどうすればいいのだろう。


「ねぇ☆モナ。願いが叶ったのなら死んでもいいよね。俺のために死んでくれる?」


 嫌だよ。私が答える前にリアンの姿が消えた。

 ジュウロウザが前方に刀を構えたかと思えば『ガキン!』という衝撃が空気を伝って響いてきた。リアンが···いや、キラキラの髪がくすんだ灰色になっており、青い澄んだ空の色をしていた目は黒く濁った者が剣を振り下ろしていた。


 ジュウロウザが押されている?あの歩く災害と言っていいステータスを持つジュウロウザが?


 その時リアンが後方にふっ飛ばされた。側に居たシンセイが繰り出した戟の突きによって飛ばされたようだ。


「将よ。これはちと分が悪いようであるぞ」


「ああ、何かはわからんが人ならざるものに成ったのだろう」


 攻撃特化型のジュウロウザとシンセイがいても分が悪いってどういうこと?


「あれは魔人じゃ!一度だけ見たことがある。魔に囚われた人が魔に落ちた姿じゃ!」


 博識のロリババアが言うのだ間違いはないのだろう。


「その時はどうしたのですか?」


「その時の聖女が己の生命と引き換えに封じたのじゃ」


 えー!ここに聖女なんていないし、無理ゲーすぎる。それも封じるだけ?

 風が横切ったと感じると同時に響く金属音。ふっ飛ばされたはずのリアンが剣を振り切った姿でいた。

 どうしよう、これじゃ私がジュウロウザの邪魔をしている。でも、リアンが狙っているのは私。 


 考えろ、どうすればいい?そもそも魔人とはなんだ?ゲームではそのような者は出てこなかった。


 魔人。魔に落ちた人。


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