第3話 後半
グリーンラクーンとの決戦の日、レッドフォックスのメンバーはいつもの神社に集まっていたが、その中に祐希の姿はなかった。祐希はその日、玲奈の病室のベッドの懐で、彼女の意識が戻るのを祈っていた。前日の晩彼女の持病が悪化し、緊急手術が行われたのだ。
「玲奈‥‥」
祐希は玲奈の手を握りしめた。
「ん、ゆう‥き?」
玲奈は薄く目を開く。握った手にわずかに力が入った。
「玲奈!玲奈!」
「嬉しい‥来てくれたんだ‥」
玲奈は僅かに口元に微笑みを浮かべて言った。それから玲奈は祐希の目をしっかりと見て、弱々しい声で言う。
「でも、友達……置いてきちゃ‥‥ダメだよ。」
「玲奈‥!何言ってんだ!オレはお前の側から離れないから!」
しかし、玲奈は首を横に振る。
「啓介くんと智成くん‥困ってるんでしょ?祐希も言ってたじゃない‥今日は、大事な日だって‥」
玲奈は弱々しい手で、しかし、しっかりと祐希の手を握りなおすと言った。
「祐希、行ってきて。私は大丈夫だから。みんなのことが大事なんでしょ?」
祐希は目から涙が溢れ出した。
「玲奈、死ぬなよ。」
そう言って玲奈の事をそっと抱きしめる。
「大袈裟だよ。」
玲奈も祐希をぎゅっと抱きしめ返した。
「行ってくる!」
家の近所にある神社には屋台が並んでおり、初詣に来た人達でごった返していた。かつては赤色一色の特攻服で、どこに行っても目立ったレッドフォックスの元メンバー達だったが、今ではすっかり社会に溶け込んでいた。
「あ、啓介君と智成君だ!」
玲奈が声を上げる。
「お、いたいた、オレ達の番長がよ。」
「相変わらずあついカップルだなぁ。お前ら早く結婚しろよ。」
そこには高校時代の面影を残しつつ、すっかり社会人になった友の姿があった。啓介は美容師になっており、智成は介護業界で働いていた。
「よっ、久しぶり。」
祐希は自然と笑みが溢れた。
「他のメンバーももう来てるぜ。あと、ビビったんだけど秀先輩が来てたんだ!」
啓介が言う。
「秀先輩が?卒業以来じゃない?」
「びっくりだよな!グリーンラクーンとの決戦の日に遅刻してきたお前が喧嘩で100人抜きした話、秀先輩に聞かせてやれよ!」
「100人は言い過ぎだって。」
そう言って四人で笑った。
お参りを済ませた祐希達をレッドフォックスのメンバーは出迎えてくれた。すでに大量の赤いきつねが地べたに積まれていた。一体どこから仕入れてきたのやら。
「今日2杯目なんだけどな。」
祐希がそう言うと、
「甘いな、オレはこれで5杯目だ!」
と智成が言う。
祐希はこの時間がたまらなく好きだった。高校の時とは違っても、また別の形の幸せがそこにはあった。仲間たちが美味そうに赤いきつねを啜っている。隣で玲奈が熱い麺をふぅふぅと覚ましていた。
そうしてみんなで除夜の鐘を聞く。祐希もうどんを食べてから、温かい汁を飲んだ。今も昔も、甘辛い汁の味が沁みた。
「なぁ、玲奈?」
「ん、何?」
「結婚しようか。」
赤い思い出 上海公司 @kosi-syanghai
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