第2話 中
高校2年の春、祐希はすでに次期レッドフォックス番長候補の1人にまで上り詰めていた。
そんな時出会ったのが、玲奈だった。玲奈は隣地区の高校に通っていた。不良の世界とは何も関わりのない女の子だったが、たまたま玲奈がグリーンラクーンのメンバーに絡まれているところを祐希が助けたのが出会いのきっかけだった。
「あの時の祐希はかっこよかったよぉ。1人で3人相手にしてやっつけちゃうんだもん。」
玲奈は隣でうどんを啜りながら言った。
「なんだよそれ、オレは今でもかっこいいだろ?」
祐希は少し辛味の効いた汁を飲み干しながら言った。身体の中が芯からあったまっていくようだった。
「どうだかね。」
玲奈は悪戯っぽい笑みを浮かべながら言った。
その時、祐希のスマホが鳴る。祐希はスマホの画面を見てふっと笑った。
「どうしたの?」
「初詣行かないかって、啓介が。」
玲奈は顔をぱっと輝かせる。
「行きたい!」
高校2年の冬、グリーンラクーンとの全面対決の日が迫っていた。レッドフォックス全員が殺気立つなか、祐希は玲奈の身を案じていた。
玲奈は持病を抱えていて、身体が弱かった。そんな玲奈の体調が最近すこぶる優れないと言う事を玲奈の友達から聞いていた。もちろんそんな悩みを抱えている事は、レッドフォックスのメンバーには言えなかった。
「祐希、最近なんか変じゃね?」
そうやって言ったのは智成だった。たしかその時も啓介と智成と一緒に神社で赤いきつねを食べていたと思う。
「変って、何が?」
祐希は誤魔化して言ったが、いつも行動を共にしている智成に嘘は通じなかった。
「なんか、よくわかんねぇけど、最近変な感じするんよ。グリーンラクーンとの決戦が近づいてるからピリついてるだけかなって思ったけどよ。どうもなんかそんな感じじゃねぇ。」
するとバイクのシートに腰掛けたまま赤いきつねを啜っていた啓介が言う。
「玲奈ちゃんだろ?」
「は?お前、なんで?」
「だってお前が玲奈ちゃんのこと以外で、グリーンラクーンとの決戦前に気ぃ抜くわけねぇだろ?」
祐希は押し黙った。
「玲奈ちゃん、なんかあったの?」
智成は少し躊躇いがちに祐希に尋ねる。
「ああ、玲奈の病気、結構ひどくてさ。最近体調よくないんだ。」
冷たい夜風とともに、沈黙が3人を包んだ。祐希にとってレッドフォックスは何にも変えられない大事なものだった。そこには友達がいて、仲間がいて、ナンバーワンのチームになるという夢があった。しかし、玲奈の存在も祐希にとっては大事だった。喧嘩しか能のない自分を、レッドフォックスのメンバー以外で唯一認めてくれた人物だった。
「あーあ、赤いきつね、冷めちまった。」
啓介が言った。そんな事をいいながらもすごい勢いで麺を啜り、汁をごくりと飲み干す。
「心配すんな!決戦の日にお前がいなくたってオレらは負けやしねぇよ!それぐらいでオレ達はお前をハブにしたりしねぇしな。ただし、レッドフォックスの番長の座はオレのもんだ!」
啓介はにっと笑う。
「さっすが!祐希と並ぶ次期番長候補!」
「お前ら‥」
祐希は涙が溢れそうになる。
「何?祐希泣いてんの?」
智成がすかさず茶化す。
「ばか!赤いきつねの湯気が目に沁みたんだよ!」
「なんだそれ!ダッセ!聞いた事ねぇよ!」
智成と啓介は手を叩いて笑った。
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