二話 秋区予選 中編
「「...は?」」
あっけにとられるカンナとソウ。
「僕は神権とか日本の季節とかどうでもいいのでー!やる気のある人たちだけでお願いしまーす!」
来賓席の大国主が館内放送でナガトに問う。
「それは降参ということでええんか?」
「そうでーす!だからそっち行ってもいいですかー?」
やや困惑した様子でカンナはソウに尋ねる。
「オイ、あのバカどォすんだよ」
「...私は構わん。戦う気がないのならばいるだけ邪魔だろう」
「儂としては三人全員暴れてくれた方が面白かったんじゃが...まあええ。こっちに送ったる」
大国主がそういうと、ナガトの姿が消えた。大国主が転送したのだろう。
「ほいじゃ仕切り直しと行こうか。両者見合って」
「いざ尋常に」
「勝負」
戦いの火蓋が切って落とされた。先に仕掛けたのはカンナ。
「先手はもらったァ!」
さて、先に説明させていただこう。
暦長はそれぞれに『暦力』という能力を持ち、それを戦闘用の能力として行使できる。
その能力の特性は担当している月にある年中行事に依存し、たとえば一月なら正月、二月なら節分、三月なら桃の節句、といった具合である。
そして、たった今カンナが使用した能力。
地面を突き破り、大量に生えてくる腐食した手。
その一つがソウの足元をかすめる。
「...っ!」
既の所で跳躍し、その身を躱す。
さらにその手は這い上がり、よろめきながら地上に姿を現す。
ゾンビ。
多くのB級ホラーではウイルスなどに感染することによって、ブードゥー教においては儀式によって。
自我を失い、人々に恐怖を与える生ける屍。
そして、日本の場合では。
「こいつはただのゾンビじゃねえ」
「キリスト教でいうところの”収穫祭”...」
「そんな本来の意味も知らずにバカ騒ぎするバカどもだ。まぁ...生きてはいるがだいたいゾンビみたいなもんだろ」
「ともかく、まずは小手調べだ」
「暴れ回れ、『
もはや軍隊に近い人の洪水。その群れは軽トラックでも易々と倒すほどに激しく、川に飛び込むのも躊躇しないほどに恐れを知らない。
「ふん...最初の手品には少しばかり驚いたが、地面に出て種を明かしてみればその程度か」
「余裕ぶっこいて死んでも知らねェぞォ!」
一斉に襲い掛かる狂乱軍団。その物量差は歴然であった。観戦していた大国主曰く、
「イヤ~あれは流石に死んだと思ったのう。だって儂ネットフリークスでああいうの見たことあるもん。ぞんびがわらわら襲ってきて内臓とか出されるヤツ」
とのこと。
が。
彼は眉一つ動かさなかった。
狂乱軍団の動きが止まる。
「オイ!何やってんだよバカども!早くアイツを倒せェ!」
カンナの叫び声が虚しく闘技場に響き渡る。
「どうやらそいつらでは俺に指一本触れることはできないようだな」
「『
「チィッ!」
カンナがソウに向かって跳ぶ。
我々にとっては『仮装した人々が騒ぎ、子供であればお菓子をもらうことができるイベント』としてなじみ深いハロウィン。
しかし。
その原点はキリスト教の感謝祭である!
「現れろ!
カンナの手には、虚空から現れた彼の身の丈ほどもある鎌が握られていた。
「お前の命を収穫できる喜びに感謝ってなァ!」
狙いは正確。速度は人間には負えないほど。カンナの命を刈り取るその鎌は、コンマ一秒にも満たぬ時間をもって彼の首元を襲う。
だが!
「実に愚かだ。私の『勤労感謝、怠惰不感謝』は怠惰を寄せ付けぬだけではない。この能力は...」
素手にもかかわらず、全速力で振り下ろされた鎌を止める。そこには一滴の血も流れておらず、ましてや切り傷すらもなかった。
「勤勉な者には加護を与える。お前も知っているだろうが、秋区で最も民の声を聴き、政を為しているのはこの私だ」
「そもそもお前らは遊んでばかりで何も為すべきことをしていない。せいぜい働きとしてはマスコット程度のものだろう」
その言葉はカンナの逆鱗に触れた。
「チッ。テメェのそういうところが気に入らねぇんだよ」
「やってやんよ。お前は完膚なきまでにブッ殺す。死んでも許してやらねェ」
地面を蹴って大きく跳び退き、カンナは虚空に向かって大きく鎌を振るった。
「随分と大層なパフォーマンスだな」
「ほざけェ」
「オレがマジでパフォーマンスだけで鎌を振ってるとでも思ってんなら次の攻撃で死んでろ」
つむじ風が巻き起こる。
日本では10月ごろに最も多く起こるその現象。
熱帯低気圧とも呼ばれ、毎年日本に多くの災害をもたらすその現象。
「吹き荒れろ!
斬撃が舞い上がる。
地面に亀裂が入り、木々がドミノのようになぎ倒されている。
「...なるほど」
「台風とくれば、流石に避けきれないか...」
ソウの体は、完成したジグゾーパズルを叩きつけたようにバラバラになった。
死斬檻折 二兎 @yushi1666
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