一話 秋区予選 前編
「──今日集まってもらったのは」
「お前らに戦ってもらうからじゃ」
静寂。あまりにも唐突な提案であったため無理もなかった。
「なんですかそれー、急だなぁ」
困惑の中真っ先に口火を切ったのは9月の暦長、ナガト。
「いくらひょうきんな大国主様といえちょっと唐突すぎませんかー?」
「そう言われるのもやむなしじゃが、話せば長くなるゆえ詳しい説明は省く。まぁ端的に言うとこのままだと日本が滅ぶんじゃ」
「冗談にしても馬鹿げてるだろ。ジジィになってギャグセン死んだかァ?」
そんな軽口を叩くのは10月の暦長カンナ。
「こら。失礼ですよ。...大国主様は普段はアレですがこのような冗談はおっしゃりません。ここはひとつお話を聞いてみましょう」
そういって説得したのは1月の暦長、ムツミ。どこかほかの暦長とは異質な雰囲気を放っている。そのただならぬ雰囲気によってほかの暦長はすっかり反論を引っ込めてしまった。
「普段はアレとはなんじゃ。...まぁともかくそういうことじゃ。ルールは以下の通り」
「逐一確認はする予定じゃから読者の皆は読み飛ばして問題ないぞよ」
年末総決戦 法度
一、本大会は各区ごとに行う予選で各区代表者を決めた後、決勝トーナメントを行うことで優勝者を決す
一、総ての戦闘の勝敗は一方の降参、若しくは戦闘不能のみによって決す
一、決勝トーナメント以降の各戦闘の後、敗者は勝者に自らの能力を譲渡する
一、他暦長に譲渡した能力は本大会終了後に返還される
一、各区代表は自らの地区の他の暦長の保有する能力を使用できる
一、来年度以降は優勝者の担当する月から始まる
一、優勝者には次代大国主神となる権限が与えられる
「ひと先ずこんなもんじゃな。もし不都合が出たら都度修正、追記を行う。何か質問のあるものは?」
「私から一つよろしいでしょうか」
そういって手を挙げたのは11月担当暦長、ソウ。
「『各区代表は自らの地区の他の暦長の保有する能力を使用できる』『戦闘の後、敗者はその能力を勝者に譲渡する』 この二つを分ける必要はあったのでしょうか?」
「いい質問じゃな」
「敗退してしまった暦長は、敗退者同士で戦闘を行うことができる」
「つまり、敗退者同士で能力の奪い合いを行うことができる」
「そしてその能力の移動は代表暦長にも当然受け継がれる」
「...成程」
「端から敗退してしまっては退屈じゃろうからな。それに自身が次代大国主になれずとも自らの区の暦長が大国主を引き継げばそれなりの権力は得られる。協力せん理由もないじゃろう」
「リングはこっちで用意してある。それぞれの区の予選にふさわしいヤツがな」
「そいじゃあさっそく第一開戦じゃ」
「予選の順番はクジ引きで決めておいた」
「第一回戦は」
全員が唾をのむ。
「秋区じゃ。出場者はナガト、カンナ、ソウ。試合は一週間後。会場は出雲大社特設ステージじゃ。健闘を祈るぞ」
──────────────────────────────────────────────
「皆よく集まってくれたな」
「ボクはあんまり乗り気じゃないんですけどー」
ウサギの耳を生やした中性的な少年、ナガト。
「お前はまたそうやって...」
落ち着いた雰囲気を感じさせる初老の長髪の男性、ソウ。
「まあいいんじゃねえの。しっかし────」
ツンツン頭で目つきの悪い一見高校生ほどの少年、カンナ。
「デカいな...」
そして、東京ドームほどの大きさの試合会場。
「じゃろじゃろ。儂が一から設計したんじゃよ」
「そいじゃついて来い。案内してやる」
───────────────────────────────
「これは.これから
「どうじゃ、秋っぽいじゃろ?」
観客席のないその競技場には、紅葉を付けた並木が並ぶ林。秋の暦長が戦うにはうってつけと言えるだろう。
「そいじゃ配置に着け」
プロジェクターで映し出された初期位置に暦長たちが並ぶ。
「遠慮せずにガチバトルをしてほしかったから観客席はつけとらんが戦いの様子は全国区で絶賛配信中じゃ。暦長の肩書に恥じぬ戦いを見せとくれよ」
「そいじゃ準備はええの」
「よーい」
「ドン!」
戦闘態勢に入るカンナとソウ。
───が。
「ちょっと待ったー!」
戦闘前の緊迫した空気に響く呑気な声。
「今回の予選、僕ちょっとパスでー!」
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