死斬檻折
二兎
序章 開戦
これは現代の日本、しかしながら私たちの住む日本とは少し違う日本の物語。
日本は夏区(私たちで言うところの九州)、秋区(中国、四国、関西)、春区(中部、関東)、冬区(東北、北海道)の四つに分かれ統治されていた。各区には3人ずつの暦長が、夏区には6、7、8月、秋区には9、10、11月、春区には3、4、5月、冬区には12、1、2月の暦長がいた。
それぞれが不可侵。各区には対応した季節が一年中続いている。そんな日本での物語。
そんな彼らがなぜ戦うことになったのか────
──────────────────────
日本では、あらゆるものに神様が宿っているとされ、彼らが「八百万の神」と呼ばれているのは皆さんの住む日本でも常識であろう。
ことの発端は、そんな八百万の神々が集まる一大イベント”
「───ぶっちゃけ、そろそろヤバくね?」
神議。
一年に一度、各地を収める八百万の神が人間界で起こっている問題とその対処について話し合う会議。
例年であれば農作物が不作であった地域の次年度以降の気候の調節、疫病が発生した地域の収束や出生率増加を促すまじない、法でいまだ裁かれていない天罰を落とすべき人間の決定など、スケールは神様にふさわしい壮大さながらその実人間社会の企業のそれと同じように進む非常に事務的な会議であったのだが。
「今年の神議はちと事情が違ってな」
「多分各区の境目のほうに配属されとるヤツらは事の重大さをわかっとると思う」
「日本は近いうちに不毛の大地となる」
その一言は出席していたすべての神々を同様に誘うには十分すぎるほどの衝撃であった。
「大国主様、それは一体...!」
「各区の不可侵が破られているという報告はありません!疫病も流行っていませんし、農作物も出生率もむしろ例年に比べればいいほうで...!」
口々に異論を述べる神々。各区の境目を治める神々でさえもがその中に含まれていた。
「なんじゃあ、お前らも気づいとらんかったんか」
「今の今まで気づいてなかった儂が言うのもなんじゃがよォ...」
「各区には各暦長が隙間なく彼らの気が張り巡らされてある。その気の傾向で各区の気候が決まっとる」
「この国が四季の国と呼ばれている理由もそれじゃ」
「同じような気温の春と秋が区別されとるのも暦長どもの出す気の性質が違うからじゃ」
「三か所」
「この国には性質の違う気がせめぎあっている境界が三か所ある」
「そんなもんをこれから先もほっといて無事で済むと思うか?」
「ですが各区の境でそこまで不審な報告もなく、むしろ出生率増加などはその付近で起こっていて...!」
「あるじゃねぇか、不審な報告」
「今はたまたま都合のいいようになっとるだけじゃ。すぐに綻びが生じる」
「そしてその綻びは、やがてこの国のすべてを滅ぼす」
「なら、どうすれば!」
「そこなんじゃよなァ...」
重苦しい沈黙に包まれた上宮。
その永遠にも思えるような静寂を切り裂いたのは、一人の無名の神。
「...あの」
「なんじゃ?」
「いっそ日本の季節をまとめてしまうというのはいかがでしょうか?」
「!?」
衝撃が走る。起こったざわめきは大国主神が口を開いた時以上であった。
「確かに性質の違う気を混ぜないという目的のためには合理的じゃが...」
「...どうやって決める?」
「そこです」
「仮に私たちが今この場でどの季節にまとめるか決めたところで各区の人々、主に暦長が納得するはずがない。よしんば提案が通ったとしても、彼らに全土を覆うだけの気があるとは思えない」
「そこで」
「私は各暦長によるトーナメント戦”年末総決戦”を提案します!」
「トーナメント...?」
「なんだそのネーミングセンス...」
「暦長を集めたトーナメントを行い、優勝した暦長の所属するチームの季節で全土を統一し、これからの我が国の一年は優勝した暦長の担当する月から始まるのです!」
「ふむ...馬鹿げた提案ではあるが...このくらいは馬鹿げないといかんところまで来とるのかもしれんな...」
「して、ルールは...?12人でトーナメントとなるといささかやりづらかろう」
「はい。ですので予選を行います」
「まず初めに同じ区の暦長同士で戦ってもらいます。そうすれば決勝トーナメントでは4人というキリのいい数字になります」
「「「...!」」」
「し...しかしのォ~...同じ区同士というのは酷じゃありゃせんか...」
「ほかにいい方式があればそれに従います。皆さんも何か発言してはいかがでしょうか?」
「...沈黙は肯定とみなします。賛成多数で可決ということでよろしいですね」
「待ってくれ。季節を統一したところで、その気で全土を覆いきれない問題はどうする?」
「そのためのトーナメントです。優勝するほどの力を持った区の暦長たちであれば、全土をも覆えるでしょう」
「なるほど...確かに筋は通ってはおる...」
「うむ、わかった」
「各季節担当の神は暦長にこの旨を伝えよ。しかるべき公示の後...」
「年末総決戦、開幕じゃ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます