文化的な一日を

津田善哉

文化的な一日を

 2021年11月3日、水曜日。

 週のど真ん中に訪れた、祝日「文化の日」。

 私は文化的な一日を過ごすべく、起床後、まずは今日の天気を確認した。ベランダから空を見上げると、気持ちの良いくらいの晴天である。早速、毛布の洗濯を始める。日々の衣類で洗濯機が満杯になってしまう為、なかなか毛布を洗う機会が見つからない。今日こそは、と準備をしていた。

 毛布を洗濯し終え、ベランダに干す。この分だとあっという間に乾くだろう。今日はふかふかの毛布に包まれながら眠ることが出来る。非常に「文化的」である。

 昼食は外食をすることにし、この近辺では割と大き目な駅ビルが隣接されている鉄道駅までバスで向かう。果たして昼食は何にすべき、か。私は寿司かパスタかで迷った。これはどちらも好物であり常日頃からよく食べているが、今日はより「文化的」な方にしなければならない。

 バスの中で熟慮した結果、パスタに腹は決まった。勿論、寿司が文化的であることは重々承知している。和食の代表、寿司。日本が世界に誇るソウルフード、寿司。しかしながら、どうも私は西洋贔屓なところがあるようだ。和食よりも洋食、邦画よりも洋画、和服よりも洋服が好きなのである。未だに散切り頭を叩いてみれば文明開化の音がするような人間なのだ。今日はイタリアンで「ボ~ノ!」したい気分なのだ。

 兎にも角にもパスタに決まった。普段は食べないイカ墨のパスタにした。わざわざイカ墨でパスタを作ろうと云うのである。これも「文化的」食事が成せる一品ではなかろうか。エスカルゴも食べたかったが、値段を見て高かったので止めた。これはブルジョワだ。文化的ではない。

 食後、イカ墨でお歯黒のようになってしまった。これもまた「文化的」である。

 帰宅すると、私は近々開催が差し迫っている文学同人即売会の原稿執筆に当たらなければならなかった。何せ15日が原稿の入稿日にも係わらず一向に進んでいないからである。この貴重な祝日の、残り時間の全てを以て執筆に当たらなければならない。今回は新刊としてエッセイ集を刊行する予定である。先ずは、書くこと。書くこと。書くこと。

 文化の日に原稿を執筆、これもまた「文化的」である。この自己陶酔こそが私の筆を進める糧なり。私は文化的人間として今日を過ごし、この切羽詰まった状況を打破するのである。

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