第40話 あらし(7)

 そして姫様の心配は当たっていた。

 岬の上の参籠所に戻る。ふと反対側の村のほうが明るいのに気づく。横向きにかたまりになって吹き過ぎる大粒の雨が黄色い明かりに映えていた。

 鳥居のところまで行って下をのぞく。

 浜に明々あかあかかがりかれていた。

 一つ、二つ、三つ……。

 その炎は激しい雨にも消えず、強い風にあおられてその炎はかえって長く伸び、あたりを明るく照らしている。

 相瀬が言った、油を十分に含ませたたきぎと布を燃やしているのだ。

 真結がやったのか、それともだれかがやってくれたのか。そう思いながら海を見下ろしていた相瀬は

「あっ」

と声を漏らした。

 同じような篝が海に映える。

 船が出て行く。ここから見て見えるのは一艘だけだが、明かりの具合からしてもう一艘いるらしい。

 荒れる波によろめきながら沖へと向かって行く。

 この荒れた海に船を出すとは、よほどのことだ。

 あのいわし網を打ちに出た船がどうかしたのだと思う。思ってから打ち消す。いくら何でも、昼のうち、嵐が激しくなる前に帰って来ていただろう。

 でも、だったら何だろう?

 相瀬は、参籠所には戻らず、鳥居をくぐって村への坂を下りる。

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