第31話
フィーナたちと合流し、宿に戻ってから先ほどの件を説明する。
敵がいるであろうノール村には俺一人で行くことを伝えると、急にミスティがぐずりだした。
「ぱぱ……いっちゃうの?」
普段は明るく見送るというのに、今日は妙な反応だ。
「この私を虚仮にしたこと、後悔させてやらねばならんからな」
「うぅ……ままぁ」
俺が断ると、なんとかしてもらうためミスティに甘いレーヴァに頼み始める。
「主よ、別に放っておいても……」
「肉が食えなくて良いなら行かないぞ」
「ミスティ、我慢するのだ。主は狩りに出かけるのだからな」
「うぅ……」
邪魔者を殺しに行くだけだが、まあ狩りの方が納得しやすいのかもしれない。
子どもに教える母親のように宥めると、ミスティはレーヴァにくっつく。
しかしこの反応、少し気になるな。
「ミスティ、こっちにこい」
「うん……」
俺はミスティを抱えると、そのまま抱き寄せる。
子ども特有の温かさ。
人とは違ってもしっかり生きているのだと伝わってきた。
「心配するな。なにがあっても大丈夫だ」
「……本当?」
「ああ。私は最強だからな」
しっかり抱き寄せ、ミスティの耳元で囁く。
一度だけ力強く抱きついてきたのでそれを受け入れ、そしてレーヴァに渡す。
「龍の勘かわからんが、不安なのだろう。レーヴァ、貴様がしっかり見てやれ」
「……ああ、わかった」
なにかが大きなことが起きるのかもしれないな。
恐らくそれはミスティに関わることだろうが……。
「リオン様?」
「問題無い。フィーナも二人を頼む」
「はい」
宿を出て、空を飛ぶ。
普段は景色や旅を楽しむことを優先して使わない飛行魔術。
俺の魔力で展開されるそれは、鳥とは比べものにならない勢いで進むことが出来る。
「む……?」
そう時間もかからずノール村が見えてきたが、蒼く広がっている空に比べて、どこか暗雲が漂っているような気配を感じた。
――なにかが起きている。
警戒しながら村から少し離れたところに着陸した瞬間、景色が荒野に変わった。
「ここは……龍の墓場か?」
砂と枯れた大地が地平線まで続く無機質な世界。
ミスティと出会った場所に似ていて、違うとすれば龍骨がないことくらいだろう。
たとえ永遠の命があったとしても、ここで一生を過ごせば人としての在り方を見失ってしまうに違いない。
「だがなぜ急に……っ⁉」
上空から強い力を感じて、考えるより早く片手をかざす。
ほぼ同時に、空を覆い尽くすほど巨大な光線が大地ごと俺を吹き飛ばそうとしてきた。
「
受けた瞬間、巨大な地響きが発生し、大地の一部を吹き飛ばした。
凄まじい威力だ。普通の人間なら塵となって消えてしまうだろう。
とはいえ、こちらはかつてレーヴァが放ったブレスすら受け止めたことがある身。
それに比べればどうということもなく、片手でも防ぐことは出来る。
以前と同じように、正面からでも打ち破ることは十分出来るので、あとは攻撃してきた相手を見つけて反撃を――。
「どういうことだ……?」
ブレスの魔力を辿った先には『なにも存在しない』。
虚空から攻撃をされている状態だ。
「敵がいないということは……ちぃ!」
再び同じ魔力が多数、あちこちから生まれるのを感じた。
そして今受けている
「これだけ用意周到に準備をしているということは、罠だったか」
防御魔術を使って防ぐが、一点集中型のそれに比べると性能は低い。
実際、前後左右あらゆる方向から飛んできているこの攻撃を防ぎ切れるか五分五分だ。
「……そうなるならいっそ」
俺は一瞬深呼吸をする。
そして身体に薄い魔力の壁を作り、同時に防いでいた防護魔術を解除。
さらに身体強化魔術と一点集中型の防御魔術を展開し、前に向かって飛び出した。
「ぐっ――⁉」
ブレスの直撃を受けながらも無理矢理前に。
同時に、背後では前方以外のブレスがぶつかり合い凄まじい衝撃が発生する。
魔術を展開していない無防備の背中が焼けるが、これで俺に飛んできている攻撃は前方の一つだけ。
無理矢理上空へと飛び、最後の一撃も躱してようやくブレスから解放される。
「……さすがに無尽蔵というわけにはいかないようだな」
上空から周囲を警戒しているが、すぐにブレスが飛んでくる気配はない。
どうやら先ほどの攻撃は何度も連続して放てるものではないらしい。
「……ふん」
俺は警戒しながら魔力の揺らぎを感じると、すぐにその場から動く。
すぐ横をブレスが飛んでいったが、俺に当たることなく地面を抉った。
「来るとわかっていれば躱すことも容易いものだ」
下手に受け止めたり弾いてならない。
それで足を止めれば、先ほどと同じように回避不能な状態に持ち込まれてしまうからだ。
「さて、どうしたものか」
この攻撃の主はいったい何者か。
単純に考えれば俺を狙っていた者だと思われるのだが、こんな力を人間が扱えるとは思えない。
なにより、俺がここに来たのは強大な魔力を辿った結果だ。
――帝国貴族かと思ったが、違ったか?
シャルロットと俺の関係を知っている以上そうだと思ったが……。
そう考えていると、次の攻撃の気配を感じた。
「まったく、ずいぶんと用意周到なことだ」
エネルギーのチャージでも終わったのか、再び周囲からブレスが連続して飛んでくる。
今度は俺を一点に狙ってというより、一部を除いて無差別な攻撃。
これでは躱すことも難しい。
「私かレーヴァ以外がここに来ていたら死んでいたな」
少なくとも普通の人間では命がいくつ合っても足りないレベルの攻撃。
逆を言えば、これを人間が行うなど不可能であり、ただの人間相手に防衛するだけならこれほどの攻撃も必要がない。
「まるで私が来ることを見越して罠を張っていたとしたら……おびき寄せられたか?」
その答えに辿り着いた瞬間、まるでなにかを察したかのようにブレスが激しくなる。
無差別ゆえに回避が難しいが……。
「この私を誰だと思っている!」
一気に上空まで飛ぶと、雲の上で魔力を放出。
俺の周囲をバリアのような半透明の黒い球体が覆う。
「はぁぁぁぁぁ!」
ブレスが襲いかかるが、俺はバリアを一気に拡大し、すべてを弾きながら世界そのもの塗りつぶし始める。
徐々にひび割れていく空と大地。
ここが龍の墓場である以上、たとえ破壊したとしても世界には影響はないはず。
「壊れて消えろ!」
俺の魔力に耐えきれず、甲高い音が世界に響き、粉々になって消えていった。
「なに?」
まだ昼過ぎ程度だったはずが、今はもう夕焼けが地平線に消えようとしている。
どうやら龍の墓場にいた間、時間の流れが異なっていたらしい。
「これは、やられたな……」
空に浮かびながら眼下を見下ろすと、ノール村の人々が何事かと驚きながら見上げている。
だが今問題なのはそんなことではない。
こちらが攻撃を仕掛けるために魔力を追ってやってきたのに、あれだけの罠が仕掛けられていた。
つまり敵は俺の正体を知っていた上で、こうなることを見越していたということ……。
「俺を誘き出したということは、狙いはミスティの方か!」
見上げてくるノール村の人々を無視して、俺はドルチェに向かって飛ぶ。
全速力で飛ぶとすぐに見えてくるが、堅牢な都市からは火の手が上がっていた。
――――――――――
【あとがき】
いつも感想ありがとうございます。
楽しく読まさせて頂き、モチベに繋がっております!
ただ少し忙しくなりそうで、しばらく新作の更新優先で、新作以外の感想の返信を止めさせて頂くことにしました……。
全部読ませて頂いておりますし、また余裕が出来たら返信などもしますので、良ければぜひまた書いて頂けると嬉しいです。
新作がありますので、良ければこちらも応援お願いします!
▼タイトル
『転生主人公の楽しい原作改変 ~ラスボスに原作知識を全部話して弟子入りし、世界を平和にしてから始まる物語~』
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