第27話

「バルザックよ」

「はい!」

「未知の道というのは自ら切り開くものだ。ゆえに、神や運命に頼るな」


 俺の言葉になにかを悟ったのか、圧倒されるように口を紡ぐ。

 緊張が辺り一帯を包む中、俺は小さくため息を吐き、目の前の男を見た。


「それを忘れないことを誓うなら、私に意見を求めることを許す」

「では!」 

「勘違いするな。弟子にするわけではない。ただ、貴様の考えている誰でも魔術を学べる街、というのに少し興味を持っただけだ」


 少なくとも、『永遠のアルカディア』に魔術都市と呼ばれるような街は存在しなかった。


 それどころか、前世のように誰でも学びを得る学校などもないだろう。

 こんな時代、こんな世界でその道を突き進もうなどと、相当な馬鹿でなければ無理な話。


「そう簡単に出来ることではないぞ」

「承知の上です。ですがこの生涯は未来の魔術師のために使うと決めておりますから」


 まっすぐな瞳だ。

 正直、こういう馬鹿は嫌いじゃない。

 ゲームの登場人物以外も生きているのだと実感が出来るこの瞬間は、別の世界から生まれ変わった俺にとって大切だった。


「なにか知りたいことがあれば纏めて来い。この街にいる間は聞いてやる」

「はい! ではさっそく!」

「纏めてからだ」


 一回一回聞いていたら、昼夜問わずずっと付きまとってきそうな気配があるし、それは勘弁だ。


 俺の言葉に頷いたバルザックは、スキップしそうなほどご機嫌に冒険者ギルドを出て行った。


「ふぅ……やっと行ったか」

「お疲れ様でした」


 ソファに深くもたれると、フィーナが飲み物を渡してくれた。

 俺たちの話が終わったことで、こちらに感心を持っていた冒険者たちも解散している。


 本当は今からギルドの依頼を受ける予定だったが、妙に疲れてしまったな。


「お前にしては珍しく意見を通されちまったじゃねぇか」

「ふん……ああいう信念を持った男は嫌いでないからな」


 もっとも暑苦しいのは事実だが。


「フィーナ、悪いが依頼は適当に見繕ってきてくれ」

「あ、はい。ですがお疲れではありませんか?」

「たとえ疲れていても、仕事はするとも」


 いくら冒険者が自由業だからといって、気分で止めてしまっては癖になるのは良くないからな。


 ――根っからの社畜体質かもしれんが……。


「そういやリオン。なんか厄介なのに狙われてるらしいぜ」

「なに?」


 受付に向かったフィーナを見送って飲み物を飲んでいると、マーカスが突然そんなことを言ってきた。

 疑問に思ってそちらを見ると、隣に座るシャルロットも頷く。


「実は昨夜、顔を隠した状態で私に接触をしてきた怪しい一団がいたのです」

「ほう……」

「その者たちはリオン殿を殺して、ミスティ殿を連れて来いと言って来て」

「拒否したら襲いかかってきたんだとさ」


 ……今この場にいるということは撃退出来たのだろうが、少し気になるな。


「私が真龍のミスティを連れていることはすでに街中に広まっているから、まだいい」


 真龍を手元に置くというメリットを考えれば、奪おうとするのも理解出来る。

 好事家にでも売れば、それこそ人生を何回でも過ごせるほど莫大な金が動くだろう。


「しかし何故シャルロットに?」

「それが妙なことを口走ってまして。私にはリオン殿を殺す理由があるとか……」

「……」

「おかしな話ですよね。そんなわけないのに」


 シャルロットが心底不思議そうに首を傾げるが、その言葉に俺は心当たりがある。


 ――俺がシオンだと知っているやつらがいるということか。


 まあそんなに不思議なことではない。


 騎士団、一部の貴族、そしてクヴァール教団の残党。

 エルフを救出した際にシオンの姿を見せているし、エルフの者たちから漏れていることもあるだろう。


 クヴァール教団を潰したときも姿を変えているので、もしかしたら通信魔道具で正体がバレたのかもしれない。


 なんにせよ、俺を殺したいやつなど山ほどいるし、心当たりも多すぎた。


「まあ、お前は恨みもたくさん買ってそうだもんな!」


 マーカスが笑いながら肩を叩いてくる。

 Sランクの冒険者であるこいつだって、散々恨みを買ってきただろうに。


「正直今更だ。だからシャルロット、貴様は気にしなくてもいい」

「そ、そういうものですか……?」

「ああ。もし敵対するようなことがあればいつも通り叩き潰すだけだからな」


 しかし俺の正体を知った上で真龍を狙う者か。

 念のため、レーヴァには離れないように言っておくべきか。


「もし気になるならこっちでも調べてやるぜ」

「頼む」


 昔のように諜報部隊を自由に使えるならともかく、情報を得るのも簡単ではない。


 蛇の道は蛇と言うように、長年トップクラスの冒険者をしてきたマーカスなら、俺とは違う道から手掛かりを見つけてくれるだろう。


「あとシャルロット、貴様はしばらく私たちと行動をしろ」

「え? ですが……」


 今回撃退出来たとはいえ、この先もっと面倒な敵が現れる可能性もないとは言い切れない。


 マーカスに教えを請うている身であることもあって困惑していたが、俺の近くの方が安全だ。


「こいつの言うようにしとけ。襲ってきた奴らの正体はわかんねぇが、お前のことも知ってるみたいだからな」

「ああ。狙われるのが私だけとは限らない以上、出来るだけ傍にいた方がいい」

「そ、そうですか……ではまたしばらく、よろしくお願いします」


 俺の事情に付き合わせているというのに、シャルロットは丁寧に頭を下げた。


「リオン様、こちらの依頼を受けてきましたよ。どうしたんですか?」

「ああ……実はな――」


 同じ説明をフィーナにし、そして俺たちはそのまま依頼へと出て行く。

 この話をするために残っていたマーカスは、色々と冒険者の伝手を使って調べてくれるらしい。


 単純な実力もだが、長年冒険者としてやってきた経験や繋がりは今の俺にはないもので、素直に助かるものだった。

 

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