第24話
宿に戻るとベッドではレーヴァがだらけきった状態で寝転がっていた。
相変わらず少し時間が空くとすぐに横になるやつだ。
フィーナがいないのはシャルロットと買い物にでも出かけたのだろう。
一緒に帰ってきたミスティを見ると、うずうずとしている。
「いいぞ」
「やったー!」
俺の許可を得た瞬間、まるで水を得た魚のように飛び出し、そのまま寝ているレーヴァに向かってダイブ。
「ぬおぉ⁉ なんだ⁉ う、動けんぞ⁉」
勢いよく腹に飛び乗られて驚いたらしく、飛び起きようとした。
しかし見た目以上に力のあるミスティに抱きつかれ、身動きが取れない状態だ。
「ぎゅー!」
「あぁ……ミスティか。帰ってきたのだな」
「うん!」
声が聞こえてようやく今の状況を把握したらしく、レーヴァはその小さな身体を抱き枕のようにして受け入れる。
まだ眠いのか、その声はどこか間延びした様子。
小動物の親子のように愛らしく、フィーナあたりが見たら甲高い叫びを上げて喜んだことだろう。
「どうしたぁ? 一緒に寝るかぁ」
「あそびたい!」
「我はまだ疲れてるからそれは駄目だー」
「んー……」
「寝るぞー」
半分眠ったような甘ったるい声。
ミスティもその声につられて少し眠くなってきたらしく、どんどんと力が抜け、そのままレーヴァの腕の中でうとうととし始める。
「よしよし。このまま寝てしまえ」
「……」
どうやらこのまま遊びに付き合わされるのが面倒なのか、寝かせ付けようとしているらしい。
まあ気持ちはわかる。
ミスティは龍であり、なにより子どもらしく無尽蔵の体力によってこちらが消耗させられてしまうからだ。
「我は傍にいるからなぁ。安心して眠るがいい」
「ん……」
レーヴァは抱きついてくるミスティの背中をさすりながら、優しく声をかける。
ミスティの方もそれが心地よいのか、そのまま静かになった。
「よしよし……」
そのよしよしは、きっと内心ではしめしめという意味で使っているのだろうな。
だがレーヴァよ、子どもというのはそんなに甘いものではないぞ。
「はっ――⁉」
一分くらい静かにしていたミスティだが、まるでなにかを思い出したように目を開く。
しばらく黙ってじっとしてるが、これは……。
「む? そのまま寝てて良いのだぞ。我が一緒にいてやるから――」
「だめー! あそぶの!」
「いや、我はこのままだらだらした――」
「あーそーぶーのー!」
バタバタとレーヴァの上で転がり出したミスティを見て、俺は内心で笑ってしまう。
そう、子どもは寝ようとしたと油断した瞬間を狙って、意識の外から反撃に出るのだ。
しかも一回眠くなったため機嫌が悪く、言うことを聞かなければ永遠と泣き続ける。
――俺もよくジークを寝かせつけているときに何度もやれたな……。
ようやく寝たかと安心したあとの追撃のため、意外とダメージが大きいやつである。
「ミスティ……」
「うぅー」
「そんな目で見るな……わかった、わかったから。だからあと少しだけだらけさせて――」
「やー!」
「くぅ……」
こうなってはもう誰の言うことも聞かないだろう。
「レーヴァよ」
「なんだ主?」
「もはやこれは、定められた運命と言っても過言ではない。諦めろ」
「格好良く言っているが、ただの子どものぐずりではないか。というか声に少し笑いが含まれてるぞ!」
知らんな。
ミスティは動こうとしないレーヴァをゆさゆさと揺らしながら、不満そうにこちらを見た。
「ぱぱ! ままがおきてくれないよぉ!」
「そうか。ならこうしよう」
俺が手を軽くかざすと、レーヴァとベッドの間に小さな竜巻が発生する。
それがゆっくりとレーヴァと、その上に乗ったミスティを宙に浮かせた。
「ぬあ⁉」
「わははー!」
遊びとでも思ったのか、ミスティは楽しそうに笑う。
そのまま何度か上下に竜巻を動かしてやり、手を握るとなにもなかったかのように消滅した。
「っと。急に消すな!」
「おおー」
少し高めの場所で落としてやったからか、着地まで余裕がありしっかり着地をする。
腕にはミスティを抱きかかえ、守ってやるのは良いことだ。
「もういっかい!」
「あ、こらミスティ! そういうこと言うと主は……」
「ならもっと高くしてやろう」
「ほらー!」
俺の生み出した竜巻がレーヴァを覆い、そのまま窓を開けて外に出す。
まるで童話のように竜巻に囲まれたまま空を飛ぶ子ども二人に、周囲の目も何事かと見上げている。
そしてミスティが喜んで手を振っている姿にほっこりとしていた。
「落とすなよ! 絶対に落とすなよ!」
そんな前振りをしなくても迷惑がかかるから落とさないが、まあ黙っておこう。
「とりあえず、しばらく外で遊んでくると良い」
「ぱぱー! いってきまーす」
手を振ってくるミスティに軽く手を振り替えして、そのまま空の旅に出る二人を見送った。
「ふう、これでしばらく静かになる――」
「おおお!」
「ん?」
窓の外を見下ろすと、茶髪の優男がこちらを見上げていた。
俺と目線があったバルザックは瞳を輝かせながら両手を挙げ、手を振ってくる。
「リオン殿ー! 竜巻という攻撃魔術でありながら子どもに怪我一つ追わせない繊細さ! 遠く離れてなお消える気配すらない緻密さ! 圧倒的な魔力操作がなければ出来ないまさに芸術! 素晴らしい! まさに神業! 素晴らしい! やはり貴方は魔導の深奥に足を踏み入れて――」
俺は窓を閉めた。
「フィーナたちが帰ってきたら、宿も変えるか」
本来ノール村にいるはずのやつが何故ここにいるのか。
いつの間につけられていたのか。
そんなことを考えるよりも、やつの目を見て俺はぞっとした。
「あれは、なにがなんでもついて来ようとする目だ……」
これでも俺は帝国で最も恐れられた魔術師だ。
その俺を脅かすとは、ストーカー……恐るべし。
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