第19話
外で待っていたシャルロットは、他のSランクパーティーの面々と会話をすることもなく、遠巻きに見られていた。
どうやら裏切りの騎士ビスマルク家のことは周囲に知られているらしい。
「あ、終わったんですね。大丈夫でしたか?」
「ああ。特に問題無く話は進んだぞ」
「それは良かったです」
マーカスが苦笑しているが、冒険者同士のいざこざなど日常茶飯事。
あの程度でなにか言われる筋合いなどない。
「行くぞ」
ギルド本部から出た俺たちは、魔物の素材を換金しているフィーナたちの下へと向かう。
持って帰ってきた素材はかなりの量と金額になるため、時間がかかる。
その間待ちきれなかったのか、換金所の外ではミスティたちが遊んでいた。
より具体的に言うと、レーヴァがミスティに追いかけ回され、それをフィーナが見守っている様子。
「おいリオン、いつの間にガキなんてこさえたんだよ」
「別れてから大した時間も経ってないのに、あんな大きな子どもが出来るわけなかろうが」
「わぁってるよ。冗談だって」
俺が子どもを作ったら、皇位継承権が発生してしまうので、聞く者が聞けば洒落にならんな。
そんなやり取りをしていると、フィーナが俺たちに気付いて近寄ってくる。
「リオンさん、お帰りなさい! それにマーカスさん、こちらに来られていたのですね!」
「よう、久しぶりだな嬢ちゃん」
「はい、お久しぶりです!」
フィーナからしてもマーカスは俺と同じく命の恩人。
積もる話もあるだろうし、二人の会話が終わるまで待っておくか。
そう思いミスティたちの方を見ると、レーヴァが捕まったらしく遊び相手になっていた。
真龍はたしかに生物として最強に近い存在だが、それはすでに地上から消えてしまった神や古代龍を除けばの話。
レーヴァが本気で逃げれば捕まえられるはずもないのだから、わざと捕まったのだろう。
「やたー!」
ミスティは自力で捕まえたと思っているのか嬉しそうだ。
――以前から思っていたが、レーヴァは意外と面倒見がいいな。
街でフィーナがナンパをされていたときは護衛として撃退していたこともあるのを思い出す。
どう見ても仲の良い姉妹の姿に、周囲の村人や騎士団の面々も微笑ましそうに眺めていた。
「こういうのも悪くない」
あの子ども特有の無尽蔵な体力を相手にするのはさすがにキツいので、出来るだけ距離は取るようにするがな。
「そういえば、ギルドでは特に問題などはありませんでしたか?」
「ああ」
マーカスと旧交を温めたフィーナが俺の隣にやって来て尋ねてくる。
その疑問に対応すると、今度はマーカスが言葉を呆れた顔で口を挟んできた。
「嘘吐けよ。ここのギルド長は顔引き攣ってたし、一緒に来たS級のやつら倒されたじゃねぇか。お前に」
「えっ⁉ さっきなにも問題なかったって言ってましたよね⁉」
「あれは喧嘩を売ってきた奴らが悪いし、あの程度問題でもなんでもない」
「あはは……」
そろそろ付き合いの長いフィーナは、それだけでどういう事態が起きたのかわかったようだ。
シャルロットは嘘吐かれた! とややショックを受けているが、嘘など吐いていない。
「……あの、リオン殿」
真剣な顔をシャルロットが口を開く。
「私はこれから、どうなるのでしょうか……?」
「なんの話だ?」
いや本当に、一体なんの話をしているのだこいつは?
「仲間がSランク冒険者を叩きのめしたなど他のギルドに広まったら、今後支障が発生してしまうかもしれないではありませんか!」
「なんだそんなことか」
「そんなこと⁉」
「冒険者なんだ。叩きのめされる方が悪いだろう?」
「ははは、そりゃそうだ! あと相手の力量を見誤ったあいつらが悪ぃから嬢ちゃんは心配すんなよ」
同じSランクでありながら、初対面で俺の強さを感じ取ったマーカス。
対してまったく感じ取れずに喧嘩を売ってきた二人。
どちらの方が優れているかなど、一目瞭然だろう。
「……今度、Sランク以上のランク制度を提案してみるか?」
誰にも聞こえないように、小さく呟く。
冒険者ギルドは国営ではない大陸独自の独立組織なので俺の一存だけでは難しいが、実際そこに差があるのであれば必要だろう。
少なくとも、先ほどの二人が束になってもマーカスには敵わないのだから仕方あるまい。
――それか、一定以上の実力者は帝国側に召し上げるか?
マーカスを見てみる。
「あ、なんだよリオン」
「マーカス、騎士に興味はあるか?」
「はぁ?」
突然の台詞にマーカスは心底意味がわからないという顔をする。
同時に、近くにいるシャルロットが興味津々でこちらを見てきた。
「騎士ねぇ……何度かスカウトされたことはあるが、あんな規則に縛られた仕事は向いてねぇよ」
「そうか」
「冒険者なんて大抵そんなもんだろ。ぶっちゃけSランクなら騎士よりよっぽど稼げるしな」
帝国での地位は低くとも、金銭面はたしかに一般騎士よりSランクの方が稼げるだろう。
集団で行動する騎士と比べれば危険も多いが、それこそBランク以上なら下手な貴族より稼いでいるはず。
「……ですが、騎士には人々を守っているという名誉が得られます」
マーカスの言葉に対し、シャルロットが不満そうな声で反論する。
だがな、その言葉は駄目だ。
「それはお金には換えられないもので――」
「騎士じゃねぇと駄目なのか?」
「え?」
「冒険者だって依頼があればちゃんと他の奴らを守るぜ」
「あ……いやでも、それは……」
なにかを言い返したいと思っても、なんの言葉も出てこない。
彼女は良い女だ。
騎士としての矜持を持ち、人々のために騎士になりたいと思っている。
それ自体は認められて然るべきものであるし、尊い想いだとも思う。
だがその想いのせいで、騎士になる、が優先されてしまえば本末転倒だ。
「シャルロット。今の貴様の言葉には意思が籠もっていない」
「リオン殿?」
「人々を守るだけなら、冒険者でも、貴族でも、ただの商人でも出来る。なぜ貴様が騎士を選ぶのか、それを自覚しなければ誰にも響かんぞ」
「……」
俺の言葉になにか思うことがあるのか、そのまま彼女は黙り込んでしまった。
言葉とはなにを言われたかより、誰が言ったかの方が相手に響くもの。
もしこれが彼女より弱い人間が言っていたら、きっと強い反論をしていただろう。
だが俺の実力を知り、そして目指す先であるSランク冒険者のマーカスの言葉は重くのしかかる。
「貴様はまだ若い。色々と悩むことはあるだろうが、考えながら進めば良いさ」
「リオン殿も同じくらいの年齢ではありませんか」
その言葉に、俺は薄く笑うだけで返答しない。
前世と合わせれば彼女くらいの子どもがいてもおかしくはない年齢だ。
もしかしたら身体の年齢に精神が引っ張られることも合ったのかもしれないが……。
――この世界での立場や環境が酷すぎて、子どもでいられる時間などなかったからな。
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