第18話
簡易で作られた作戦本部。
そこに集まったのは、俺とギルド長、そして帝都にいるSランクのハンターたちが三人。
マーカスはソロらしいが、他はパーティーを組んでいるらしい。
さすがに狭い場所でもあり他の面々は外で待っている状態だ。
シャルロットも当事者なのだが、Sランクしか中に入ることを恐れ多いからと結局入ってこなかった。
「……で、森の奥に行くと龍の墓場に辿り着いたわけか」
「ああ」
ギルド長の言葉に俺は何事も無かったかのようにただ頷く。
――真龍ミスティルテイン。
その存在を隠すことは出来ないため、事情はきちんと説明をした。
今回の森のイレギュラーは、強力な魔物たちですら畏れる真龍がやってきたことに起因する。
原因を連れて帰ってきたので、しばらくしたら森も以前の生態系に戻るだろう。
「そのような話を信じろと?」
先ほどからこちらを睨み、疑っている長い黒髪をサイドで括った褐色肌の女。
帝都のSランク冒険者はこちらを侮蔑した様子で、どうやら嘘を吐いていると思っているらしい。
「おいイグリット、こいつはつまんねぇ嘘は吐かねぇよ」
「……」
俺の実力を目の当たりにしたことのあるマーカスは庇ってくれるが、どうやら信用はないらしい。
もう一人のSランクハンターである眼鏡をかけた金髪の優男も同じように疑いの眼差しだ。
「疑われようと事実は事実だ」
「たかがDランクが、ずいぶんな態度ですね」
「冒険者はランクで態度を変えなければならないのか? それは知らなかったな」
「はぁぁぁ。そこまでにしてくれ。俺の胃がキツいから」
大きなため息を吐きながらマイルドは俺たちを見渡す。
元Sランクだけあって、この場の人間たちにも引けを取らない圧を感じた。
「リオンの話は事実。それを前提に進める」
俺のことを父と呼び、レーヴァのことを母と呼んだこと。
懐いているので、このまま連れて行くこと。
それらを聞いたマイルドは、心底胃が痛そうな顔をしていた。
「もう俺一人で判断出来るレベルじゃねぇんだよなぁ」
「ならばリオンという冒険者が真龍を連れる許可を欲している、と領主に伝えろ」
「それを言って、信じて貰えるとは思えねぇんだけど?」
「信じるさ。ドルチェ伯爵ならな」
この意味が通じるのはこの場にはいない。
だが伯爵は俺が帝国の前皇帝であり、史上最強の魔術師と呼ばれる強さを直に知っている数少ない男だ。
やつならば必ず信じるし、なんとか上手く動くだろう。
「お前さんのその自信はなんなんだろうねぇ。まあどっちにしても伝えないとだから、そうさせてもらうわ」
「ちょっと待て。本当にそのDランクの男の言葉を信じるのか?」
「ああ。こいつはなんというか、普通の冒険者とはちょっと違う気がするし、嘘は言わねぇと思うからよ」
イグリットが信じられないという風に声を荒げるが、ギルド長は態度を変えない。
この男の前で実力を見せたことはないはずだが、どうして中々見る目があるな。
優秀なやつは嫌いじゃない。
というより、俺が思っているより冒険者の質は高く、これまで見逃していたことを若干後悔しているところだ。
帝国のためにもジークには今回の話を通しておき、冒険者の質をさらに向上出来る案を取った方がいいかもしれんな。
「呆れて物も言えん。帝国の一大事だと聞いてわざわざやってきてみればこれとは」
「イグリットと同じ意見なのは癪ですが、私も些か納得しかねますね」
Sランク二人が威圧を出して俺を睨む。
それと同時に、マーカスがそっと立ち上がり距離を取った。
……勘の鋭いやつだな。
「納得が出来ないなら、寝ていろ」
「なにを――っ⁉」
魔力で作った小さな球体を飛ばすと、一撃目は二人とも躱した。
中々良い反応だが、甘い。
「ぐは――⁉」
「げぇ⁉」
二人同時に蹲り、そのまま地面に倒れる。
俺が放ったのは一撃だけではなかった、ということだ。
「相変わらず容赦ねぇなぁ」
「手加減はしたさ。そうでなければ、二人ともこの世にはいない」
俺の実力を直に知っているマーカスは苦笑するだけだが、ギルド長は驚いた顔をしている。
まさか冒険者ギルド最高戦力二人をこうも簡単に制圧出来るととは思っていなかったのだろう。
「ところで、お前もやってみるか?」
「お前さんに勝てるわけねぇのにやるわけねぇだろ」
俺の挑発には乗らない、というよりは俺の意図に気付いて乗った言葉。
今の会話で、マーカスが俺の実力を知っていて認めていることがマイルドにも伝わった。
「はぁ……前々からただ者じゃねぇとは思ってたが、さすがに予想外だ。なんなんだよお前?」
「ただの冒険者だ。Dランクのな」
答える気はない、ということは伝わったらしく、マイルドは再びため息を吐く。
「なあリオン、真龍っての俺も見に行って良いか?」
「ああ……お前ならいい遊び相手になりそうだ」
俺がニヤリと笑うと、マーカスはなんのことだ? と首を傾げる。
こいつくらい頑丈であれば、少しくらいレーヴァを楽にさせてやれるだろう。
そんな思っていることなど、伝わるはずもなく、俺たちは本部から出て行くのであった。
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