第17話
それから数日。
原因を排除したとはいえ、ゼピュロス大森林の魔物を間引きする必要がある。
他の冒険者や騎士団が総出となって森の魔物を排除していき、異常が起きていたときより落ち着きを見せた頃、ようやく俺たちは森から出てノール村に戻った。
「リオン殿、結局どうするのですか?」
「無論、きちんと冒険者ギルドに報告するさ。そうでないといつまで経っても依頼を完遂出来ないからな」
「それは、そうですが……」
シャルロットが懸念しているのは、その原因となる存在が本当に真龍だったからだろう。
ギルド長のマイルドですら半信半疑、どころかいるとは思っていなかった存在。
それが実在したとなれば、どのように動くかわかったものではない。
「心配するな。私がなんとかする」
「普通ならこんな大事を一介の冒険者がどうにか出来るとは思わないのですが、貴方が言うと説得力が違いますね……」
当たり前だ。
俺は帝国の闇にして大陸最大の邪教、そして神という死亡フラグすら乗り越えここまで来たのだ。
この程度の難所、なにも問題無いとも。
「しかしミスティはレーヴァ殿にべったりですね」
俺たちから少し離れたところで追いかけっこをしている二人を見る。
レーヴァが逃げ、ミスティが追いかけるという構図で、フィーナはそれを見守っていた。
「子どもらしくていいではないか」
「甘える姿は微笑ましいんですが……」
小さい子どもとはいえ真龍。
その身に宿った力は普通の人間より遙かに強く、レーヴァか俺でなければ大怪我をしてしまうかもしれない。
なのでちゃんと自分で力を制御出来るようになるまでは、遊び相手はレーヴァだけだ。
「リオン殿が構ってあげればいいのでは?」
「子どもの相手は慣れていないのだ」
まあそれは言い訳で、とにかくミスティは元気過ぎる。
一度構ってやると無尽蔵の体力から繰り広げられる遊びのラッシュ。
最強の肉体を持っている俺ですら、あれを永遠と繰り返されては倒されてしまうと悟ってしまった。
頑張れレーヴァ。お前にすべてがかかっている。
「力の制御を覚えれば誰でも遊べるからな。同じ龍同士、レーヴァから学ぶべきことは多いだろう」
「……ただ単に押しつけただけでは?」
「そんな事実はない」
まったく失礼なことを言う。
シャルロットめ、最初の頃よりも遠慮がなくなってきたな。
俺たちに慣れてきた、と良いように取るか。
「とりあえず、俺たちはギルド長に報告だ」
今回、領主からの直接依頼ということもあり、ノール村には一時的な作戦本部が建てられた。
森で倒した魔物の素材などの換金も出来、いちいち城塞都市ドルチェまで戻らなくても済むのはとてもありがたい。
フィーナたちには換金を頼み、俺とシャルロットはギルドの受付がある家に向かう。
「ずいぶんと忙しいな」
「作戦本部とはいえ、仮で作っただけですからね。全職員を連れて来れるわけでもないですから」
少ない人数で回しているからか、職員たちの顔には疲労の色が濃い。
冒険者と違ってギルドは各領地で管轄もあるため、応援も呼べなかったのだろう。
――まるでブラック企業だな。
俺も皇帝時代は部下に無茶をさせてきたが、休みと報酬はきちんと与えてきたつもりだ。
状況が状況だから仕方が無いが、出来ることならこの件が落ち着いたら職員には休みを取らせてやって欲しい。
そんな中、俺の受付を担当しているメルが気付いて元気に声をかけてきた。
「あ、リオンさん! ようやく戻ってこられたんですねー!」
「心配かけたな」
「あははー、私が心配してたのはとんでもない事しでかしてくるんじゃないかってことくらいですよー!」
「なるほど、勘が良い」
「……」
冗談交じりに言ったのかもしれないが、俺の一言になにかを察したらしい。
彼女は冷や汗をかきながら、ゆっくりと口を開く。
「もしかして、原因が解決しちゃったりとかぁ?」
「そのもしかして、だな」
「うわっちゃぁ……」
「ん?」
俺の言葉にメルはヤバいどうしよう、と呟く。
何故問題が解決したというのにこのような態度なのかがわからない。
それは隣で一緒にいたシャルロットも同じなのか、不思議そうな表情をする。
「メル、どうされたのですか?」
「ああ、すみません。実は丁度今日、帝都の冒険者ギルドから応援が到着したんですよね」
「それはタイミングが悪いな」
別に俺の運が悪いというわけではないぞ、と言ったら本当に俺のせいにされかねないので言わない。
「以前ギルド長が言っていた応援か……」
たしかにわざわざ帝都から、しかもAランク以上の冒険者を呼び寄せたのに解決しましたでは、向こうも面子が立たないだろう。
とはいえそれはこちらの関与することではない。
「責任はギルド長と領主が取るべきだからな。メルが気にすることはない」
「それはそうなんですけどぉ……」
「とりあえずギルド長を呼べ。それに文句を言うようなやつがいたら、私が話してやるさ」
「……うぅ、お任せしますよぉ。丁度今、帝都から来たSランク冒険者とギルド長が話をしているので、それが終わったら……」
そう言っている間に奥の扉が開き、ギルド長と冒険者たちがゾロゾロと出てくる。
ドルチェの冒険者と違って、話を聞いてなお自信ありげな表情。
自分たちが最高峰の冒険者だという自負を持っているからこそだろう。
「ん、あれは……」
十人ほどいる冒険者の内、見覚えのある男がいた。
鍛え上げられた肉体に、短く刈り上げられた茶髪。
巨大なバスタードソードを背負い、油断のない立ち居振る舞いは戦士としての力量の高さを示している。
「マーカスか」
以前グラド山脈を一緒に探索した帝都のSランク冒険者、マーカスだ。
向こうも俺の存在に気付いて、やや驚いた顔をしたあと近づいてくる。
「ようリオン! 久しぶりじゃねぇか!」
「ああ、相変わらず貴様は元気そうだな」
「おうよ! それが取り柄だからな!」
快活な笑みを浮かべ手を伸ばしてくるので、旧交を温めるように俺はその手を握り返す。
力強い握手だが、決して悪い気はしない。
「お前がここにいるってことは、聖……嬢ちゃんたちも一緒か?」
「ああ。今は魔物の素材を換金しているところだ」
「ならあとで会いに行かねぇとなぁ!」
マーカスの背後の冒険者たちは誰? と疑問を表情をしているが、無名の冒険者でしかないから仕方が無いだろう。
「リ、リオン殿」
「ん?」
不意に、俺の背中の服を引っ張られた。
そちらを見ると、シャルロットが緊張した様子を見せている。
「竜殺しとお知り合いだったのですか⁉」
「竜殺し? ああ、マーカスのことか。以前少しな」
そういえば小遣い稼ぎで火竜討伐を請け負うような男だった。
Sランクといえば彼女の目標でもあるし、冒険者の頂点に立つのだから知っていて当然か。
「ところで、お前がここにいてまだ解決してねぇってことは、もしかして龍の話はマジなのか?」
「ああ、そのことだが……丁度良いか」
俺はギルド長のマイルドを見る。
「異常の原因だった真龍を連れて帰ったから、今後のことについて話がしたい」
「「「……」」」
そう言った瞬間、この場にいた全員が、俺の言葉を理解出来ずにただ固まるのであった。
――――――――――――
【コミカライズスタート!】
この転生ラスボスのコミカライズが始まりました!
詳しくは下記近況ノートにありますので、ぜひ一度読んでみてください!
▼近況ノート 【転生ラスボス】コミカライズ スタート✨
https://kakuyomu.jp/users/heisei007/news/16817330663725286954
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