第16話

 まあ実際そんなのがやってきても、叩き潰してやるがな。

 クヴァールの力を抑えていた力ももうすべて使える今、俺の敵では無い。


「貴方はまるで、前皇帝陛下のようですね……」

「ん?」

「見る者すべてを魅了する黄金の獣。史上最強の魔術師。圧倒的な力で帝国の災厄を粉砕した若き皇帝。見た目は違いますが、リオン殿を見ているとかつて見た輝きを思い出しました!」


 シャルロットのなにかが琴線に引っかかったのか、尊敬の眼差しでこちらを見てくる。


 だがちょっと待って欲しい。

 俺はこいつの父親を殺した男だぞ? それなのになぜこんな視線を向けられるのだ?


「ず、ずいぶんと尊敬しているように見えるが、前皇帝シオン・グランバニアは貴様の父親を殺した男ではなかったのか?」

「もちろん尊敬していますとも!」

「な、何故だ?」


 わからん。普通父を殺した相手なのだから憎んで然るべきだろう。

 なのにシャルロットの瞳はどこか崇拝するような瞳で、よくぞ聞いてくれたと立ち上がる。


「以前も話しましたが、父は騎士としての道を外れ祖国に刃を向けました。それは本来、八つ裂きにされ、禍根を残さないために親族全て処刑されて然るべき行い! それでも皇帝は父の一騎打ちを受け入れ、騎士として立派な最期を迎えることが出来ました! さらに私たち家族は家名を潰すだけで、全員で生きることを許された! これほどのご恩を受けたというのに恨むなどあり得ませんとも!」

「そ、そうか……」

「そうなのです! だから私は前皇帝に報いるため、なんとしてもビスマルク家を再興し、帝国騎士としてあのお方が愛した帝国に尽くしてみせます!」


 シャルロットはまるで広場で演説をする革命家のように、身振り手振りで俺を賞賛し始める。


 前皇帝――つまり俺の正体を知っているフィーナたちがなんとも言えない表情をしていた。


 正直俺もちょっと厄介なオタクみたいな雰囲気を出し始めたシャルロットに若干引き気味だ。


「とはいえ、反旗を翻した父、そして取り潰された家の復興は並大抵のことでは叶いません。故にまずは冒険者として知名度を上げてから貴族に騎士として仕え、そしていずれは帝国直属の騎士になる所存!」

「……そうか。まあ大変だと思うが頑張れ」

「はい!」


 この帝国では冒険者の地位は実力に見合わず低い。


 たとえSランクでも貴族界隈における知名度はほぼなく、認められにくいものだ。

 それは以前も話したのでシャルロットもわかっているだろうが、曇り無き眼は自分の未来を疑うことは無いらしい。


「シャルロットさんは帝国騎士になるのが夢なんですね」

「ええ。険しい道なのは理解しておりますが、必ずや!」


 こういう話を聞くのはフィーナの得意分野だろう。

 自分のことに興味を持ってくれたからか、シャルロットはさらにテンション高く熱く語り出す。


 俺はとりあえずスルーしつつ、今後のことについて考えていた。


「レーヴァ、やはりお前のことは黙ったままにするか」

「我は構わんぞ。騒ぎになって主の正体がバレたら、シャルロットみたいなのが増えるかもしれんしな」

「ああ」


 特に強さを隠すつもりはないのだが、シオンとリオンを同一視する者が現れるのは問題だ。

 俺は自由に世界を見るために素性を隠しているのだから、存在を知るのは一部だけでいい。


「さすがに古代龍を御する者など、限られているからな」

「限られるどころか、主以外には存在せんと思うぞ我は……」


 今後、主人公たちが成長したら倒せるようになってしまうんだよな。

 とはいえ、未来のラスボスである俺がいない以上、そんなことにはならないはずだ。


「それより、フィーナが捕まってるが?」

「あれの矛先が私に向くのは困るので、あのままにしておこう」


 シオンと俺を別人だと思って語っているのだから、あれは本心なのだろう。


 いくら皇帝で賛美には慣れているとはいえ、あそこまで直接的に親しみをぶつけられると困惑してしまう。


「とりあえず、真龍の件は根回しをするか」

「どうするのだ」

「あの街の領主、ドルチェ伯爵からギルドに説明させるさ」


 皇帝ではなくただの冒険者として扱え、と言っておきながらの掌返しに我がことながら呆れてしまうが、さすがに龍が絡むとなれば俺以外では対処出来ないので仕方が無い。


 街の責任者として龍のことを隠蔽するわけにもいかないしな。


「さて、とはいえどうしたものか」


 俺がいるから安全、というのは正体を知っているからこそ言える話。

 レーヴァが古代龍であることを隠すとなると、真龍を預かる理由が必要だが……。


「まあ、これだけ懐いているなら理由になるか」

「む?」


 寝ているというのに全力で抱きついているミスティを見て、恐らく大丈夫だろうと予想が出来た。


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