第15話
太陽が沈み、魔物が活発になる時間。
二人と合流した俺たちは、大森林の探索を継続するため、野営をしていた。
龍の墓場での出来事、そしてミスティが真龍であることを伝え、シャルロットが驚くなどの一幕もあったが、今は概ね落ち着いている様子。
「主、こやつをどうにかしてくれ……」
パチパチと木炭が焼ける音を聞きながら雑談をしていると、レーヴァが困ったような声を上げる。
こやつ、というのはレーヴァの胸に抱きついて離れないミスティのことだろう。
「気に入られたのだから諦めろ」
「これは……気に入られたと言うべきなのか?」
「レーヴァさん、いいなぁ」
コアラのように抱きつき、離れる気はないと全力でアピールしている。
――まあ、理由は分かる。
レーヴァは俺に負けたとはいえ、世界最強の一角なのは間違いない
その力は天秤の女神アストライア自慢の天使の軍勢を一蹴し、最上級の神に匹敵する。
俺ですら本気を出さなければならないのだから、庇護を求めるならこれ以上の存在はいないだろう。
「しかしなぜレーヴァ殿に? いや、強いのは分かるのですが、強さだけで言えばリオン殿の方が上だと言っていたので」
「ああ、レーヴァが古代龍だからだろう」
「なるほど。真龍と言えば古代龍の子孫とのことですし、力の大きさも合わせれば納得です……ん?」
シャルロットが言葉の途中で疑問の声を上げる。
「今なにか変なことを言いませんでした?」
「なにがだ?」
「いえ、レーヴァ殿が古代龍とかなんとか」
「言ったな」
「……………………」
俺の言葉をどう受け取ったのか、完全に固まった。
面白いのでこの後どういう反応を見せるのか待ってみると、ゆっくりレーヴァを見る。
「レーヴァ殿が古代龍?」
「主、やっぱりちょっと趣味が悪いと思うぞ」
呆れたレーヴァが立ち上がり、寝ているミスティを持ったまま近づいてくる。
「なんだ、やっぱり冗談だったんですね」
「いや。我は歴とした古代龍だぞ」
「……フィーナ殿ぉ」
「あはは……」
困ったシャルロットは、最後の良心とも言えるフィーナに助けを求めるが、曖昧に笑うだけ。
それが余計に真実味を増してしまい、もう逃げ場がないと悟ったのか空を見上げた。
「見ろみんな。星が綺麗だ」
「現実逃避をしているところ悪いが、真実は変わらんぞ」
「わざわざ私にそれを言って、なにが目的なのだ……?」
「ん?」
かなり警戒した様子でこちらを睨む。
どうやらなにか勘違いをしているらしい。
「いや、どうせこれからミスティのことは説明しないといけないのだ。だったらレーヴァのことも伝えた方が説得力があると思っただけだが?」
「え?」
「あと数日は森を調査をするが、おそらく魔物の異常事態の原因はこいつだからな。冒険者として依頼を受けた以上、正確な説明の義務がある」
「あ、えと、それはそうだが……真龍と古代龍だぞ?」
「だから?」
「だから⁉」
事態に対して俺の返事があまりにも普通すぎるせいか、シャルロットが唖然とした顔を見せる。
とはいえ、今の俺は未知の開拓者である冒険者。
依頼は当然、正確に報告するとも。
「いやだって伝説の存在で、公にしたらまずいのでは――」
「レーヴァ、どうやらお前の存在は不味いらしい」
「あああ! レーヴァ殿、これは違う! というか流石にちょっと意地が悪くないか⁉」
生真面目一辺倒だと思っていたが、こうして揶揄うと中々面白い。
レーヴァはもう呆れた様子でなにも言わず、フィーナは寝ているミスティを見て頬をほころばせているだけ。
とはいえいつまでも揶揄っていては話も進まない。
「そもそも、伝説の存在を表に出すことのデメリットはなんだ?」
「え? それはその……良からぬ輩に狙われるとか……?」
「この私を相手にか。それは面白い」
大陸を支配しようとしたクヴァール教団ですら、今の俺を相手取るには役不足。
並の龍や神程度、叩き潰してくれよう。
「この私からなにかを奪いたければ、最上級の神でも連れてくることだな」
「……」
俺の言葉があまりにも傲慢過ぎたせいか、シャルロットは呆然としている。
「リオン様、それは……」
「主が以前から言っている“フラグ”というやつではないのか」
「おい二人ともそれはやめろ」
俺は運が悪いんだ。
そんなことを言われたら、本当になにか最上級の神がやってくるかもしれないだろうが。
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