第14話

 好きに生きると決めたし、龍はもう一体連れているのだから今更だろう。


 少女の頭を撫でる。

 それが俺をパパと呼んで良い合図とわかったのか、少女は少しだけ顔をほころばさせる。


「一緒に来るか?」

「ん」


 あまり表情の変わらないやつだが、まあいいだろう。

 俺のパーティーのメンバーはどうも感情が顔に出るやつばかりだし、これくらいが丁度良い。 


「リオン様!」


 こんな感じで、自分のことじゃないのに何故か全力でありがとうございます! と喜びを体現してる聖女とかな。


「私はフィーナ。貴方のお名前は?」

「……」


 フィーナはしゃがんで視線を合わせながら尋ねる。

 子どもが好きなのか、生来のものか、優しい雰囲気はすぐに仲良くなれそうだ。


「まま……」

「っ――⁉」


 一瞬嬉しそうな顔でこちらを見る。


「じゃない」

「そんなぁ……」


 だが次の一言でショックを受けて涙目になった。

 本当に感情豊かなやつだ。


「自分を守ってくれる者を探しているのだろう」

「わ、私守りますよ!」

「たしかにフィーナの結界魔術はかなりのものだが……」


 とはいえ、龍が庇護を求めるほどの相手だ。

 ゲーム最終時点ならともかく、成長過程のフィーナでは荷が重いだろう。


「お前も含めて、私が守る」

「あぅ……」


 また顔を赤くする。

 とはいえ、たしかに今のは自分で言っててなんだが、少し臭すぎたな。


 この身体がシオン・グランバニアでなければ、後ほど恥ずかしさで悶絶していたかもしれない。


「それで名は? 聞かれたら答えるものだ」

「……ミスティルテイン」

「私はリオンだ。呼び方だが――」

「ぱぱ」

「……いや、その呼び方は」

「ぱぱ」

「……」


 確固たる意思が込められた声だった。

 これは無理矢理変えようとしても無理だと分かる。


「……はぁ、仕方あるまい」


 こちらが折れたのがわかったのか、無表情の中に少し得意げな雰囲気を感じた。


「あのミスティルテインちゃん。私のことをママと呼んでもいいんですよ?」

「……」


 フィーナの言葉にミスティルテインが再び悩むに見上げる。

 重い沈黙が辺りを包み、そして一言。


「フィナ」

「……うぅ」


 どうやらママとは認められなかったらしい。

 しかしフィーナなどまだ十六歳でママと呼ばれたいような年齢でもなかろうに、なぜそんなに拘るのか。


 というか、短くしているのはママに近づけた結果か?

 などと思っていたら、ズボンを引っ張られた。


「どうした?」

「ミスティ」

「ん? ああ、呼び方か」


 自分のことを 指さしながら突然言うのだからなにかと思ったが、どうやら自分の呼び名らしい。


「わかった、お前のことはミスティと呼ぼう」

「ん」


 そういうと両手を挙げてきた。

 どうやら抱っこをしろという合図らしい。


 ――中々ふてぶていしいなこいつ。


 まあ年齢はともかく、見た目と精神はそのまま子供なのだろう。

 抱き上げて腕で支えてやると、少し嬉しそうな気持ちが伝わってきた。


「フィナよりたかい」

「そうか。暴れて落ちないようにな」

「ん」


 自分の小さな手をフィーナの頭に乗せて満足げだ。

 フィーナはフィーナで、そんなミスティが可愛いのか頬が完全に緩んでいる。


「あ、あのリオン様! 私にも抱っこをさせてもらえませんか?」

「それは私ではなくミスティに聞いてみろ」

「ミスティちゃん!」

「ぱぱがいい」


 即答だった。


「そんな……」

「まあ子どもなど気分一つで変わるものだ。あとでまた聞いてみるといい」

「はい……」


 こうして懐かれるのは悪い気がしないな。


 完全にショックを受けているフィーナを慰め、いい加減来た道を戻ろう思ったところで、強大な力を感じた。


 力は、龍の死骸からだな。


「……」

「リオン様?」

「いや、気にしなくても良いだろう」


 悪意はない。

 せいぜいこちらを挑発する程度で、害を加える気はなさそうだ。


 ならば構う必要もないだろう。

 来たときとは反対にしばらく歩くと、強い力が一瞬発生し、空間が歪む。


「帰るぞ。龍のことならレーヴァに聞けばなにか分かるだろう」

「はい」

「ん」


 行きは二人、帰りは三人となった状態で俺たちは『龍の墓場』から元の空間に出る。


 そうして少し歩いたところで、探索を続けていたレーヴァたちと合流した。


 その結果――。


「まま!」

「えぇ⁉」

「ままー!」

「ぬ? なんだ貴様はぁぁぁぁぁ⁉」


 ミスティは先ほどまでの低いテンションが嘘のように、俺から飛び降りて全力でレーヴァにダイブした。

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