第12話

 翌日。

 昨夜の宣言通り、森の奥へと足を進めていく。


「はぁぁぁ!」

 奥に行くにつれて魔物たちは強力になっていくが、それでもシャルロットは剣一本で倒していく。


 元々護衛としてついてきた以上、遊ぶつもりはないということらしい。


「我がやった方が早いがな」

「駄目ですよレーヴァさん。シャルロットさんが自分でやるって言ってるんですから」

「そうだぞ」

「主は昨日まで我側だったくせに」


 強くなるには実戦が一番。

 俺やレーヴァがいる以上イレギュラー的な魔物が現れても安全は確保され、フィーナがいるシャルロットの怪我はなんとでもなる。


 つまり、この環境はまさしく安全にレベリングが出来る状況なのだ。


「私はサブキャラもカンストさせるタイプだったからな」

「貴方はなにを言っているんだ?」


 とりあえず周囲の魔物を倒しきったシャルロットが、汗を拭きながら戻ってくる。

 剣には血がついているが、怪我はしていない様子。


「安全に戦いの経験の積めるのも悪くはない、という話だ」

「まあ、たしかに鍛錬においてこれほど贅沢な環境はないかもしれないな」


 シャルロットは自分が倒した魔物の死骸を見る。


 無数のそれらは、もし彼女が一人だったら殺されていたかもしれず、たった一人のA級冒険者がやった成果としては破格のもの。


 数が増えたら、手を貸すつもりだったのだが――。


「ビスマルク、か……」


 昔戦った騎士を思い出した。


「リオン殿は父に会ったことがあるのか?」

「……さてな」


 最終的に殺すきっかけになった男だ、とは言うつもりはない。

 あれは俺も、そしてやつ自身も納得した結果だからだ。


「それより、そろそろ本格的に探索を始めるぞ」


 広大な森ではあるが、二日かけてすでに森の中心地にだいぶ近い位置までやってきた。


 本当に龍がいるとしたらこの奥のはずだ。

 ゲームと違い魔物も無限にポップするわけではないが、それでもあまり時間が経つと魔物たちが近づいてくることだろう。


 シャルロットとレーヴァが会話をしながら、なにか痕跡がないかを調べ始める。


「龍……お伽噺でしか見たことないが、いったいどんな存在なのでしょうね……」

「我は強くて格好良いと思うぞ」

「はは、それだとロマンがありますが、意外と不細工な魔物だったりしれませんよ」


 シャルロットの何気ない言葉に、レーヴァがなんとも言えない顔をした。

 お前が話しているのが龍だ、とは言ったらどんな反応をするか、少し興味が……。


 ――こっちだよ。


「ん?」


 ふと、なにかに呼ばれたような気がした。

 しかし辺りを見渡してもあるのは森と魔物の死骸だけ。


 だがこれが勘違いでないことは、レーヴァの顔を見ればわかる。

 どうやらやつにも聞こえたらしい。


「……あっちか」


 フィーナとシャルロットはなにも聞こえていないのか、変わらず痕跡を探している。


 元々、レーヴァは龍の墓場を暴くことに否定的だ。


「フィーナ、お前はこっちに」

「え?」

「シャルロット、そいつとこの辺りの調査を任せるぞ」

「ああ、わかった!」

「あ、主! そっちは!」


 俺がフィーナを連れて以降とすると、レーヴァが焦ったような顔をする。


「なんだ?」

「うぐ……」


 言いたいことはあるが言えない。

 そんな雰囲気で口を紡ぐ。


「なんでもないなら行くぞ。二手に分かれた方が効率がいいし、安全を考えれば私とお前は別れる必要があるからな」

「……わかった」


 俺は龍の墓場が見たいだけで、無理矢理暴く気はない。

 そんな俺の意図は伝わったのか、レーヴァはそれ以上なにも言わず背を向けた。


「あの、リオン様?」

「気にするな。行くぞ」


 レーヴァたちと離れてもう少し森の奥へと足を進めていく。

 しばらくして、レーヴァほどではないが強力な力を感じた。

 今回はフィーナも感じ取れたのか、驚いた顔で俺を見る。


「あっちか」


 そうして気配のする方へと向かうと、突然空間が歪むと不思議な感覚に陥る。


 まるで前を進んでいるのに後ろに向かっているような、落ちているのに空を飛んでいるような……。


 ――これはまるで……。


 かつてアストライアが天界した神々の楽園≪ヴァルハラ≫に踏み込んだような感覚だが、あのときと明確に違うのは出た場所が楽園からほど遠いような荒野だったこと。


「こ、ここはいったい?」

「フィーナ、私から離れるなよ」

「は、はい!」

 つい先ほどまでいた森とは一転、植物など一つもないような荒野世界。

 少し風が吹けば粉塵が舞い、視界を一瞬遮ってくる。


 その一瞬――。


「え?」

「……」


 フィーナが驚いた声を上げ、俺も声にはしなかったが内心で少し驚いた。

 というのも、粉塵が消えた瞬間、先ほどまではいなかった幼い少女が座り込んでいたからだ。


 そしてその正面には、骨となった龍の死骸。

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