第11話

 夜、テントの外にある岩の上に座り星を見ているとシャルロットが出てきた。


「どうした? 休まないと明日に響くぞ」

「それは貴方もだろう。フィーナが結界を張ったから大丈夫と言っていたではないか」


 どうやら俺が嘘をついて、一人見張りをしていると思ったらしい。


 結界は本当に張ってあるから大丈夫なのだが、まあフィーナが元聖女と知らなければそう思っても仕方が無いかもしれない。


「私は星を見ているだけだ」

「星を?」


 俺につられて彼女も空を見上げる。

 そこには大きな月と星々が広がっていた。


 ここがかつていた世界ではなく、愛すべき『幻想のアルカディア』の世界だと再認識させてくれる美しい光景。


「私は無限の宝石よりも輝く空が好きなのだよ」

「……ずいぶんとロマンチストなのだな」


 こんな言葉は前世では口が裂けても言えなかっただろう。


 シオン・グランバニアに転生したからこそ違和感がないが、普通だったら少し痛いやつかもしれない。


 シャルロットはしばらく無言で空を見上げ、やがて岩に上り隣に座る。


「私は強くなったと思っていた」

「実際、十分な実力を持っているだろう?」

「貴方がそれを言うのか……」


 少し呆れた様子だが、これは本心だ。


「私が見てきた中であれば、百番以内には入っているぞ」

「百番か……百番かぁ」


 不満そうな顔だ。

 たしかに百番といえば微妙に聞こえるかもしれないが、俺は皇帝として多くの騎士を見てきたし、鍛えてもきた。


 平均してみると冒険者より質の高い騎士たち。


 レーヴァやアストライア、それに数に入れるのも業腹だがクヴァール教団の面々も含めた中で百番以内というのは相当な実力者に入るのだがな。


「少なくともドルチェの冒険者の中では一番強いと思っていたが、ただの思い上がりだったみたいだ」

「私たちがいなければ一番だっただろうさ」


 ギルド長のマイルドも全盛期は過ぎているし、他の冒険者より強いのは間違いない。


 とはいえ、力を付けるためには環境や立場というのは重要だ。


 厳しい環境の中で立場を得られれば自信を付き、自分で考えるということを覚えて、結果を出せれば更なる自信となる。


 実力というのは、ただ漠然と生きているだけで付いてくるものではないだから。


「私の故郷に、井の中の蛙大海を知らず、されど空の蒼さを知る、という言葉があってな。今の貴様はまさにそれだ」

「……それは」

「強くなりたいなら、もっと広い視野を持ってみるといい」


 お節介な言葉だ。

 彼女の父親を殺したから、つい世話を焼いてしまっている。


「貴方について行けば、視野は広がるだろうか?」

「さてな。少なくとも私は、ついて来れない者を待ってやる気はない」

「そうか……それは残念だ」


 俺の遠回しな拒否は、彼女にもちゃんと伝わったらしい。


 回復魔術の才能がずば抜けているフィーナ、古代龍のレーヴァに比べてシャルロットはあまりにも『普通』だ。


 強い力に力は寄ってくる。

 俺がいる限りどんな危険も返り討ちにするつもりだが、それでも彼女ではついて来られないだろう。


「ただ貴様は今、大海を知った。ならば本来の目的もきっと達成出来るさ」

「そうだな。それに、実力を見せれば貴方が私を推薦してくれるのだろう?」

「実力を見せれば、な」


 とはいえ、俺を恨んでいないと言い、前を向き進む姿は心が強く美しいと思った。


 そして剣の腕も悪くないので、推薦を躊躇うことはない。

 帝国騎士に推薦しても構わないのだが、さすがにそれは周囲の環境や彼女の出自的に誰も得をしないだろう。


 またいずれ、ビスマルク家の騎士だったという過去も気にしない家を探しておいてやるか。


「貴方が何者か、聞くのは止めておこう」

「私はただのD級冒険者だよ」

「はは、まったく詐欺みたいな話だ」


 最初に出会ったときに比べ、だいぶ表情が柔らかく笑うようになった。

 おそらくこれが彼女の素なのだろう。


「さて、そろそろ寝るとしよう。明日は一気に奥まで調査をしてしまうぞ」

「ああ、置いて行かれないようについて行くからな」


 フィーナの結界があるので、この程度の魔物たちであれば入ってこられず安全だ。

 俺たちはそのままテントに戻るのであった。

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