第6話
やってきたフィーナに事情を説明すると、彼女はあっという間に冒険者を治してしまう。
以前俺の心臓を刺した後でも治してしまったことを思い出すと、回復魔術に関してはすでに世界一かもしれない。
――さすがはフィーナだな。
ゲームで最強の性能を誇っていたから、ではなくこれまでの彼女を見ての評価だ。
「ありがとう! あんたらは命の恩人だ!」
「無事で良かったです」
まったく恩を着せようとせず、笑顔で対応する姿はこの男たちにとって女神か聖女に見えたことだろう。
「出来れば礼をしたいが……」
「必要ない。今の貴様らに必要なのは療養を取ることだ」
「そうですよ。まずはゆっくり休んで、身体と心のケアをしてください!」
「あ、ああ……本当にありがとう」
そもそも金銭に関しては困っていないし、冒険者としてのランクも上げようと思えばいつでも上げられる。
彼らから貰えるものなど本当になくて……。
「そういえば、なぜサイクロプスに襲われていたのだ?」
「ああ……それなんだが、どうにも森の様子がおかしいみたいでな」
サイクロプスは森の奥を縄張りにしているはずの魔物。
こんな入口付近までやってくることはないはずで、焦って逃げて来たが囲まれてしまったらしい。
「なるほど……それはだいぶおかしいな」
「サイクロプスが群れるなんて聞いたこともねぇし、まじで死ぬかと思ったぜ……」
無事だった面々が順番に話してくることを纏めると、本来いるはずのない強力な魔物がいるのではないか、ということ。
魔物の棲む場所では時折こうしたイレギュラーは起きる。
強い魔物がやってきてそれまでの生態系が崩れ、魔物たちが奥から追い出される形だ。
「今は龍の墓場の件で人間も増えている。そちらも関係しているかもしれないが……」
「ふん。そうだとしたら自業自得だ」
墓場を暴こうとしている人間たちに対してレーヴァは不機嫌な様子を隠さない。
こいつの立場からすれば、墓荒らしのようなものだから仕方が無いだろう。
「なんにしても、事態は私たちの手に余るな」
「は?」
レーヴァが何を言ってるのだ? と言う顔をして俺を見る。
「なんだその顔は」
「いや……たしかにこの森の魔物は弱くはないが、それでも主から見たら雑魚だろ?」
「レーヴァよ」
その言葉は正しい。だが同時に、間違ってもいる。
「私たちはDランクの冒険者。そしてサイクロプスはBランクの魔物だぞ。それを無視して勝手に行動したら、ギルドにも迷惑がかかるだろうに」
「そもそも主は我のいたグラド山脈にも入ってきただろうに」
俺の言葉を真似するような言い方は、よほど呆れているらしい。
まあたしかに、自分で言っていてあまりにも演技臭さはあるとは思う。
「過去は過去。依頼は森の入口付近にいる魔物の駆除であって、ゼピュロス大森林の調査ではない」
「そうですよレーヴァさん。それに、今はこの人たちも村まで送らないと」
フィーナの魔術でだいぶ回復したとはいえ、一人は死にかけていたのだ。
他の面々にしても疲労は隠せない様子で、このまま放っておけばこの辺りの弱い魔物にすら遅れを取りかねない。
「むぅ……治したならこれ以上は放っておけばよいものを」
レーヴァはそう言うと、不満そうな顔をして、さっさと村の方へと歩いて行ってしまう。
墓荒しをわざわざ手厚く保護してやる必要もないだろう、という気持ちもわかる。
とはいえ、今の俺は冒険者で、手負いの者がいたら助けるのが普通だ。
「……昔の私が見たら、どう思うかな」
皇帝として多くの者を処罰してきた。
中には親や親戚に巻き込まれただけの者もいただろうし、俺を恨んでいる者も多いだろう。
それが、こんな風に人助けをするとは……。
「リオン様?」
「……なんでもない。貴様らも動けるな? ならば私が先導するから付いてこい」
今の俺はシオン・グランバニアではなく、ただのDランク冒険者のリオン。
せっかく破滅フラグを全て叩き潰して自由になったのに、自ら枷に縛られに行くなど馬鹿げたことをする必要もない。
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