最終話 続く日々

「おはよう蒼馬」


「おはようモモ」


 同じベッドで寝ていたモモが目を覚ます。

 チュンチュンと鳥の鳴き声が聞こえてくる朝。

 俺はモモが起きる少し前に目を覚ましており、彼女の寝顔を一分ほど眺めていたところだ。


「蒼馬様ー。朝食の用意できましたよー」


 コレットがドアをノックし、食事ができたことを俺に伝えてくる。

 しかしモモには一言も言わない。

 しかしモモにもしっかり朝食を作っているのがコレットだ。


 リビングに出ると、案の定三人分の食事がテーブルに置かれていた。


「おはようコレット」


「おはようございます蒼馬様」


「おはよう牛」


「おはよう。後、牛言うな」


 俺の隣にモモが座り、俺の前の席にコレットが着く。


「いただきまーす」


 皆で一斉に食事を始める。


 今日はご飯とウインナー、そして卵焼きという日本古来より続いていそうな献立。

 ついでに味噌汁も作ってくれているのだが……これまた美味い。


「コレットが作る飯は美味いな」


「牛、褒めておく」


「あんたに褒められても嬉しくないけど。でも蒼馬様ぁ、そんなに美味しいなら、私をお嫁さんにどうですか? 結婚した後でも張り切って毎日作りますよ」


「牛は結婚してなくてもご飯を作る。だから結婚しなくていい」


「いや作るけど! だからってしゃしゃり出てくんじゃねえよ!」


 朝から言い合いをするコレットとモモ。


 これも毎日見るいつも通りの光景。

 毎日毎日飽きもせず喧嘩を続ける二人。

 俺は二人を気にせず食事を続ける。


「ったく……あ、蒼馬様。今日はお好み焼きというやつに挑戦してみますね」


「お好み焼きか……あんまり食べたことないけど美味しいんだよな」


「牛。沢山用意して」


「分かってるってば……ああ……なんでこんなチビに分も用意しないといけないのかしら」


 大きくため息をつくコレットではあるが、作り甲斐を感じているのかどこか嬉しそうな顔をしている。

 なんだかんだ言って、この二人は相性が悪くないような気がするんだよな。

 後は口喧嘩をやめてくれたら言うこと無いし。

 なんだけどな。


 二人が軽い言い合いをしながら食事をしているのを横目に、俺は着替えを済ませて顔を洗う。


「じゃあ行ってきます」


「いってらっしゃい」


「いってらっしゃいませー」


 学校に行く準備を終えて二人に挨拶をして家を出る。


「あら蒼馬。いってらっしゃい」


「おう、今日も学生頑張れよー」


 外に出ると掃除をしているレイアと酒を飲んでいるラークの姿があった。

 朝から真面目に仕事をするレイアと朝から不真面目に酒を飲むラーク。

 本当に二人は真逆な存在だな。


「ああ、行ってきます。ラーク、あんまり酒を飲み過ぎるなよ」


「大丈夫大丈夫。俺が酒を飲みすぎるってことはねえから。だって無限に飲めちゃうんだからよ!」


 ゲラゲラ笑うラークを横目に、俺は駅に向かって歩き出す。


「おはよー、蒼馬。先に行ってるね」


「ああ。気を付けろよ、メグ、モリー、ムトー」


「気を付けるほどのことなどなかろう! 問題があれば俺の筋力で解決する!」


「…………」


 俺を飛び越え、家から家へ飛び移って行く三人。

 ミルヴァンの姿は見えないが、先に行ったのだろう。


 アパートの住人たちもこの世界に順応したのか、楽しそうな毎日を送っている。

 そんな皆を見て楽しくなる自分がいて……悪くないよな。

 こういう毎日は。


 以前は血生臭い毎日だったけれど、それとは真逆の穏やかな日々。

 俺が望んでいたのはこういう生活なんだ。


 気分をよくした俺は小走りで駅へと向かいはじめる。


「蒼馬!」


 だがしかし、綺麗な声に呼び止められ、俺は声の方に振り返る。


「余もこれから学校へ向かうところじゃ。一緒に行かんか?」


「ああ。勿論いいぜ」


「蒼馬ー! そんな貧乳魔王と学校に行くより、ボクと一緒に行こうよ!」


「エレノア」


 そんなマナの背後から、エレノアが走ってやって来る。


「誰が貧乳じゃ! 巨乳は一人で空飛んで学校に行っとけ!」


「うっさいなー。ボクと蒼馬の仲に割って入らないでくれないかな? 将来ボクたちは結婚するんだから、邪魔しないでよ」


「誰と誰が結婚するって?」


「ふん。そうじゃそうじゃ。蒼馬はな……余と結婚するんじゃからな!」


「「え?」」


 俺とエレノアは、同時にマナの顔を見る。

 マナは少し照れた様子で、しかし胸を張っていた。

 どういうこと? なんでそんな話になってるんだ?


「何を言ってるんだ魔王……蒼馬はボクと結婚するんだよ」


「違うの。蒼馬は余と結婚するのじゃ。だって余たちはその……せ、接吻をしたでの!」


「接吻!?」


 エレノアが俺の正面に立ち、泣きそうな顔をする。


「接吻でどういうことだい、蒼馬!」


「あ、いや、確かにほっぺにされたけど……あれは接吻になるのか?」


「もちろんじゃ。あれは接吻で、二人の将来を約束する行為だったのじゃぞ」


「初耳だ……そんな意味があったのかよ!」


「認めないよ! 二人の仲は認めない! というか、蒼馬と結婚するのはボクなんだからな!」


「だから余と結婚すると言っておるじゃろ! おぬしは一人寂しくあのアパートで死ぬまで生活するがよいわ!」


「君だって貧乏生活を一緒してなよ!」


 二人は額を合わせ、犬歯をむき出しにし睨み合う。


 折角穏やかな時間が訪れていたというのに……

 この二人はこの二人で、いつまで経っても仲良くしないんだな。


 俺は二人の姿を見て呆れつつも、なんだか無性にその姿が可愛らしく思え笑みをこぼす。


「「蒼馬! どっちを選ぶ!?」」


 俺は二人の問いかけに答えることなく、苦笑いを向けておいた。

 美少女二人から好意を寄せられるのは光栄なことではあるが、どちらかを選ぶのは難しい。


 これからも楽しく暮らしていければそれでいいのだが……そんなわけにはいかないかな?


 そして俺は誤魔化すように、二人を置いて走り出すのであった。


 おわり

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異世界で最強の暗殺者になった俺は現実世界に帰ってきたのだが、さらに別世界の勇者と魔王が俺をスカウトしにきた。だがいつの間にか二人に惚れられ取り合いになりモテまくっています。 大田 明 @224224ta

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