第45話 外食に行こう
「てめえ! ちょっと可愛いからって調子に乗んなよ! 蒼馬様と一緒にいるために仕方なくてめえとは一緒にいるんだからな!」
「牛、うるさい」
家に帰ると、モモとコレットが大喧嘩しているようだった。
大喧嘩と言っても、コレットが一方的に切れているのはいつものことだが。
「おいおい、今日はどうしたんだよ?」
「蒼馬様! 聞いて下さい。このガキ私が作った料理残したんですよ!」
「残したって……何残したんだモモ?」
「人参」
モモは人参が嫌いなようだ。
食感だとか匂いだとかではなく、単純に味が合わないらしい。
食わず嫌いではなく、純粋に人参嫌い。
そんなモモのことを思ってかはたまら意地悪なのかコレットはモモに無理矢理にでも人参を食べさせようとする。
後者のような気もするが、前者の可能性も否定はできないのでなんとも言えないが、喧嘩は良くない。
とにかくここはコレットに引いてもらおう。
「コレット。いつも言ってるだろ。モモは人参が嫌いだって」
「そうですけど……居候のくせに好き嫌いなんて贅沢すぎません?」
「お前だって居候だろ」
「私は役に立ってますし」
「モモだって役に立つ」
「……いつ役に立つんだよ、お前が」
モモはゲームをしていたらしく、チラリと一瞬だけ死線をこちらに向け一言だけ言う。
「ここ一番」
「カッコいい風に言ってんじゃねえ! 要するに普段は役立たずってことだろ!」
「ここ一番で役立たずよりマシ」
「普段役に立つ方がいいに決まってんだろ! ね、蒼馬様! そう思いますよね?」
「どうだろうな……普段も役に立ってくれたら嬉しいし、ここ一番に役に立つのもいいと思うぞ」
「ああ……そりゃ蒼馬様は優しいから、両方の肩を持ちますよね」
いや、普通に感想を述べただけだが。
しかしコレットの怒りが、風船から空気が抜けるが如く消え去ったので良しとしよう。
「お前ら、昼間は二人きりなのに喧嘩ばかりしてるのか? そんなに言い合いして飽きないか?」
「大丈夫。蒼馬のいない時は僧侶といるから」
「ああ……」
僧侶というのはレイラのことだ。
なるほど。彼女なら面倒見もいいし問題ないだろう。
「どちらにしても喧嘩はできるだけ止めておけ。ドンドン空気が悪くなって、いずれ殺し合いに発展してしまう可能性だって無きにしも非ずだ。そんな結末は悲しいだろ?」
「その場合、私は絶対負けませんしありっちゃありですよ」
「ありなんて言うな。絶対に無しだ」
「蒼馬」
「どした?」
「今日は外でご飯食べよ。これ行きたい」
モモが一枚のチラシを俺の方に差し出し、俺はそのチラシを見て何故彼女が行きたいなんて言い出したのか納得する。
「焼肉食べ放題か……」
「そんなところ行かなくても、私がご飯作ってあげるのに」
モモに料理を作ることは否定するようなことはないコレット。
後は人参を出さなければ完璧なんだけどな。
「ま、たまにはいいんじゃないか。いつもコレットは家事を頑張ってくれてるし、お礼も込めて連れてってやるよ」
「お礼は子供でいいですよ」
「お礼が重すぎるんだよ……食事ぐらいで我慢しててくれ」
「えー、でも焼肉行って喜ぶのはモモだけじゃないですか。私はもっと別のところに行きたいのに」
「牛は共食いになるから」
「違う! 牛じゃねえ! 私はミノタウロスだ!」
似たようなものだとは思うのだけれど。
とは口が裂けても言えない。
「別のところって例えばどんなところがいいんだよ?」
「そうですね……夜景の見えるレストランとか?」
「夜景の見えるね……モモが行っても喜ばないだろ」
「ってことであんたはここでお留守番ね」
「嫌。モモは焼肉に行く」
「おいおい! 焼肉に行くってことは、酒も飲めるってことだよな!?」
突然ラークが大笑いしながらレイアと共に登場する。
「私たちもご一緒させれもらおうかしらぁ」
「だったらボクも行くよ。婚約者との距離を縮めたいしね」
さらにエレノアも現れ、その声を聞きつけたのかマナたちも部屋に入って来る。
「なんだなんだ。全員集合か」
「うむ。美味しい物なら皆で食べに行くぞ。大丈夫。今日はミルヴァンもムトーの給料日らしいからの」
「しかしマナ様、そんな焼肉なんて行く余裕は我々には……」
「そんなこまけえこと気にすんな! 俺が奢ってやるから、皆で飲みに行くぞ!」
「ちょっとラーク。飲みに行くのではなく、食べに行くのですよ」
「わー、おじさん太っ腹! 私嬉しいな!」
「おーおー、連れてってやるから酌ぐらいはやってくれよ! 頼むぜ美人の姉ちゃん!」
結局全員で焼肉食べ放題に行くこととなり、大騒ぎをしながら夜道を歩く俺たち。
これからもこうやって皆で楽しく、笑い合えたらいいのに。
モモを抱っこしながら夜空を見上げ、俺はそんなことを考えていた。
「月、綺麗」
「そうだな……綺麗だな」
モモと見上げる月。
それは不思議とこれまでで一番綺麗に見えた。
楽しい気分でこの夜を見上げることなんてこれまでなかったからだろうか。
とにかく、これからもずっとこんな風に生活していけますように。
俺は月に向かってそう願っていた。
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