第2話 上に立つもの
翌日、弟の好きに嘘はないのだろう。なんとしてもあたしは弟と礼利に話す機会を与えてやらないと。たとえその好きにいいえと答えられても弟は逃げ出さない人物だ。あたしも弟が付き合うまで恋愛に興味ないどころか友達いないしな。
「お姉ちゃん、どうしたの?」
「いや、礼利生徒会長は一筋縄ではいかないと思ってな。相手が嫌いと答えたらどうするんだ?」
「好きになってしまったんだ、現実は受け止めるし僕は折れないよ」
それほど覚悟があるのならあたしが話す機会を作るだけだな。
「あ、僕悩み事受けてるんだった。急がないと、じゃあまた夜ね」
「ああ、待っていろよ、弟よ」
海潮は人気者だなぁ。どうやったら友達が作れるんだ。
まず、生徒会長と会話以前に華をどうにかしないといけない。生徒会長ではなくまずは華と話し合う必要があるな。今回は礼利ではなく華に用事があるということにすればいいな。
あたしが下駄箱で靴を脱いでいると銀髪の長い髪の少女から声がかかった。
「海潮ちゃんのおねーさん?」
誰だこいつ、同学年にこんな奴はいない。弟の名前を出してきたということは海潮と同じクラスか?
「そうだがお前は?」
「やっぱりー、後ろ姿が海潮ちゃんと似てたんだよねー」
弟ってちゃん付けされてるのか?
「うちは白瀬だよー、河部白瀬(かわべ しろせ)」
「白瀬か、あたしに何か用か?」
「海潮ちゃんにはお世話になってるからねー、海潮ちゃん好きな人できたんでしょー?生徒会長?」
「海潮は言ったのか、隠してないってことになるな?」
「白瀬が相談した時に聞いたらそう言ってたからさー」
こいつも海潮になにか悩み事を相談してたのか。あまり相談する柄に見えないというか自由に生きてそうなイメージだな。
「相談事は解決したのか?」
「したよー、おねーさんには教えないけどねー。だから今から総大将の首を討ち取るところー」
「なにを言ってるんだ?」
「こっちの話こっちの話」
弟が首を討ち取るなんて助言はしないと思うけどな。なんか悪いやつがいるのか?
「まあ白瀬って姫野勢力だからさー、多少のことはできちゃうわけ」
姫野勢力。あたしの同学年で同じクラスのBクラスにロングの黒髪をした少女、姫野寧子(ひめの ねいこ)という生徒がいる。寧子はこの学校姫野校長の娘、実質生徒会長よりも見方次第では上と言える。寧子に反抗する人物はほぼいない。彼女にその気はないのかもしれないが権力で支配されているといってもいい。その寧子の勢力、下手に手を出すと姫野校長に間接的に逆らうことになる。
姫野勢力があるならあたしは沢塚勢力だな。
「討ち取るって誰を討ち取るんだ?」
「華先輩だよ、でも下手に出たら白瀬が追いつめられるからね、外堀から埋めるべきかなぁ、生徒会長とか?」
「生徒会長を権力でわからせるってことか?寧子ってお淑やかなタイプだと思ったらとんでもない部下がいたんだな」
「でもその生徒会長もただものじゃなくてねぇ」
話しているとチャイムが鳴ってしまった。気になるな。
「やばっ、あとは姫野先輩にでも聞くといいよ」
嵐のように去っていったな。権力でわからせるという最終手段か。寧子とあまり話したことないんだがな。話してみるか。
朝礼が終わった。生徒会長とは違う意味で近寄り難いな。下手なことをいったら学校そのものを敵に回してしまうな。
「あ、寧子か」
「どうしたんですか?」
「お前の勢力に白瀬だったか?いるんだろ?」
「白瀬…ああ、はい。何か話したのですか?」
「そうだが、生徒会長がただものじゃないってどういうことだ?」
「その話でしたか。わたくしの勢力に鈴下華さんがいました」
ん?華?書記の華か?寧子の使いだったのか。
「急に礼利さんの態度が変わって気になったので華さんに監視をお願いしておりました」
なるほど、つまり礼利と寧子なら寧子の命令に従うということか。
「ですがある日華さんは言ったのです。もうこれ以上礼利生徒会長に偽り続けれない、と」
まあ監視してるわけだからな。
「それから華さんはわたくし達から抜けましたよ?」
「寧子じゃなくて礼利生徒会長を取ったってことか、実質裏切りだな」
「情が移ったのか、何かわかりませんが下手に生徒会長に手を出すのはやめることにしましたよ」
「華から情報を聞けばいいのか」
「そう簡単に吐かないと思いますよ」
「裏切ったのにか?」
「裏切ったからこそ絶対に信用しているのでしょうね」
まずは華に話を聞くべきか。
ここだな、生徒会長に警戒されている。問題ない。華が自らやってきてくれるんだからな。
「今日は華に用がある」
「私ですか?」
驚くのも無理はないだろう。生徒会長目当てだと思ってただろうからな。
生徒会長の視野範囲ではまずいな。廊下に二人きりにさせた。
「なんですか?」
こういう時、どう切り出せばいいんだ?
「生徒会長ってどんな奴だ?」
「目的は生徒会長ですか」
「なんでいつも生徒会長の命令を聞くか気になってな」
「あの方は私がいないともう誰もいないじゃないですか」
「なんで変わってしまったんだ?」
「それは私にもわかりません…」
「本当か?」
「本当です、私は寧子さんの監視としても友達としても礼利さんと接していました。でもあの方の本性が少しだけわかりました。嘘を吐く人間は嫌いだと。だから私は監視していると隠して友達となっている私がもしバレた時、礼利さんの逆鱗に触れてしまうと恐れて正直に話しました。寧子さんには酷いことをしてしまいましたね」
「許してくれたのか?」
「確かあの時は、世の中、嘘でできているんだな。で終わりました。許されてないのかもしれません。私は罪を償うためにも礼利さんに、もう誰にも嘘は吐きません」
「そうか、分かったが海潮が生徒会長を好きな気持ちくらい吐かせてやってくれないか」
「それは私が礼利さんの命令を無視するということですか、申し訳なく思っていますがそれはできません」
「なら命令されなければいいんだな?」
「何をする気ですか」
「それは今から考える」
嘘が嫌い、か。あたしも嫌いだ。華の立場になればどっちかに嘘を吐くことになるから嘘を吐くことは逃れられなかった訳か。それでもわからないな。生徒会長になれたことと嘘、何が関係しているんだ。そもそも推薦されたわけではない。自分から立候補している。そして見事生徒会長になれた。何が不満だというんだ?
あたしは考えてみる。今生徒副会長の水城名由。礼利と同じクラス。あたしはこいつこそ生徒会長に立候補して生徒会長になると読んでいた。しかし名由は副会長に立候補していた。噂では生徒会長になるために部活には入らないとまで言っていた。Aクラスには入りにくいがここは生徒会長ではなく生徒副会長の名由に話を聞くべきか。
人望が厚いなぁ。たくさんの人と話してるなぁ。行きづらいなぁ。
あたしがいることが珍しかったのか名由と目が合った。
「あ、名由か」
「あれ?君B組だよね」
「あれだ、お前はなんで生徒会長にならなかったんだ?」
「海波ちゃんってそういうのに興味あったんだ?」
「悪いか」
「いやー、あの時の、生徒会長になる前の礼利には勝てる気がしなかったんだよ。なんていうかな。信念の籠った目?ってやつ?」
「臆したのか?」
「無様なことにね、安全策の副会長に立候補しちゃった。だって、確実だし?このまま生徒会長になれなかったら部活も生徒会もしてないなんて履歴が残るんだよ?あたしは礼利に負けたんだよ、心の強さで既にね。でも生徒会長になった次の日、あの信念の籠った目はなかったね。何が礼利を突き動かしていたのかなぁ…」
「その何かは何なんだ?」
「それがわかれば苦労しないよ、なにか隠してるね絶対」
「今の華は完全に礼利に肩入れしてる。何か礼利に近づく方法はないか?」
「なるほどー、弟のためだねぇ、ブラコンだねぇ。華が近くにいない隙をあたしが作るくらいかなぁ。ちなみに華とあたしどちらもいない時じゃないと話すのは難しいよ、残念ながらね。華がいなかったらあたしを呼ぶだろうから」
「お前は確か生徒会長になる前の礼利と親友といっていいほど仲が良かったよな?それでも抗えないのか」
「そうだね、あたしの知ってる千崎礼利はどこかに行っちゃった」
「どっちが本物の礼利なんだろうな」
放課後だ、あたしは名由のように生徒会や部活に入らないと履歴に傷がつくのを恐れる人種ではないので帰宅部だ。
「おねーさん」
ん?なんか聞いたことある声だな。
「海潮ちゃんから聞いたんだけどおねーさん生徒会長説得するのー?」
「白瀬か、仲いいのか海潮と」
「仲良くさせてもらってるよー」
「部活行かなくていいのか?」
「部活?そんなのしてないよ」
あたしと同じ人種だな。
「白瀬はこの放課後に学校内を自由にすることが好きだからねー」
早く帰りたいんじゃないのか。やっぱりあたしと同じ人種じゃないな。
「そういえば総大将が華とか言ってたな。何かされたのか?」
「白瀬は仕掛けるだけだよー」
「何かされたわけではないのか」
白瀬がする側ならわかるがされる側には見えないな。
「生徒会長のことわかったのー?」
「何か隠してるんだろうな、あとは嘘が嫌いだ」
「何か隠してるのは調べがついてるよ、嘘が嫌いねぇ」
「お前も調べてたのか」
ある意味白瀬と協力できそうだな。
「でもおねーさん。嘘は嫌いでも冗談は好きなんだよー。白瀬の調べではねー」
「嘘と冗談って同じじゃないか?」
「白瀬の計算しつくされた調べ、舐めてもらっちゃ困るよ。生徒会長は天邪鬼。生徒会長に立候補して当選すれば普通は喜ぶのに悲しむ、嘘は嫌いだと言いながら実際に嘘を吐かれることを望んでいる。本当のことができないんだよー」
「言われてみれば生徒会長になれたのに落ち込むのはおかしいな。もしかすると嘘は嫌いではなくあの性格そのものが嘘ということか、意味が分からないな」
「物は試しに嘘を吐いてみたら?化けの皮を剥がさないとねぇ。面白いことになるよー」
「だがその作戦、賭けだぞ?」
「そうしないと進展しないよー。そしたらうちが知ってる事実もっと教えてあげるー」
「まだ知ってるのか、今教えろ」
「嘘を吐かれた反応で確証を得ないとまだ完全な事実にはならないからねー」
「反応次第では情報がたくさんあるってことだな、恐ろしいな姫野勢力」
「じゃあね、面白い反応を待ってるよー」
嘘を吐くのか。あまり真似はしたくないがそれで情報を得られるならやってみるしかないな。
生徒会長解明記 @sorano_alice
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。生徒会長解明記の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます