生徒会長解明記

@sorano_alice

第1話 謎多き生徒会長

 3年生になった金髪ツインテールの彼女は沢塚海波(さわつか みなみ)。隣にいるのは2年生の沢塚海潮(さわつか みしお)。金髪の髪をしていて碧眼。小動物のような小柄な彼は海波の弟だ。

 海潮は成績は赤点ギリギリであまりよくないが友好的。男女関係なく話せる。上級生、下級生であっても関係なく話せる彼は相談されたり悩み事を打ち明けられたり人望が厚い。それだけ信用されていると同時に人気だ。

 一方、姉の海波は恰好がだらしないことから怖がられているため友達と言える友達があまりいない。しかし実は話してみると優しい姉だ。

 海波と海潮は二人で暮らしている。

 海波は弟の海潮に甘い。何でも言うことを聞いてしまう。姉は弟を溺愛している。弟は姉に甘えている。


「ねぇねぇお姉ちゃん」


「ん?どうした海潮」


「僕はね、ついに好きな人ができたんだよ」


「おぉ、ついに海潮に好きな人ができたのか、姉離れしていくんだなぁ」


 海潮を撫でながら話す海波。二人で学校を登校をしている仲のいい姉弟の衝撃の告白から始まるのであった。


「誰だか知らないけどお前なら余裕だろ。告白しなよ。あたしは海潮があたし離れするまで恋愛なんて考えてなかったしなぁ」


「そうなんだよねぇ、告白以前に話してたんだけどね、すぐに突き放されるんだ」


「海潮を嫌ってるやつがいるのか?許せないな、それとも好きだから逆に話しかけにくいってことだろ?気を遣うんだろうなぁ」


「僕はいつものようにその人の教室に行ってるよ、でも話させてくれない!」


「誰だ?うちの弟にそんな酷いことするやつ。お姉ちゃんが懲らしめてやる」


 そして、ここで弟からのお願いが発生する。姉の海波は弟に甘い。弟のお願いに反抗したことはない。しかし今回初めて反抗するのであった。


「僕の好きな人はね、生徒会長だよ!だから同学年のお姉ちゃんとなら話せるんじゃないかな?」


 この学校の生徒会長。それは海波と同学年の、しかしクラスは違うA組の千崎礼利(せんざき れいり)。一年前は弟以上に友好的で、容姿までは同じではないが赤いロングの髪をしていて小柄で弟を連想される明るく友好的、しかしあまり成績は良くない生徒だった。

 それだけなら海波もお似合いだと思っただろう。実際海波自身も話していた。しかし礼利は生徒会長になってから性格がまるで別人のように変わってしまった。生徒会長になる前なら明るく誰でも寄せ付ける笑顔が似合う可愛い生徒。しかし今は暗く誰も寄せ付けない無表情に近い残酷な生徒。


「千崎…千崎生徒会長かぁ…あたしは近寄り難いし考え直した方がいいんじゃないか?」


「僕はこの1年生と2年生、何も考えず誰これ構わず話していたわけじゃないんだよ。あの人は僕以上に強い。それは力とかじゃなくて心がね!ちなみに僕は千崎生徒会長に投票したよ」


「好きな理由はよくわからないけど気にはなるな、何で生徒会長になったのに暗くなってしまったのか。逆ならまだわかるかもしれないけどな。お姉ちゃんは同級生だしな。会う機会的にお姉ちゃんのほうが多いわけかー、クラスは違うけど」


「そうなんだよ、僕が行っても、部下?華さん、書記の華さんに追い出されるし」


 鈴下華(すずした はな)。青い短髪の金瞳が特徴的。生徒会書記の一人。礼利が心を許しているのかは不明だが礼利は華を使い海潮を追っ払っていたことになる。


「知らないところで頑張ってたんだな、さすが海潮。よしよし。ならあたしが礼利会長を探ってみるかぁ」



 今日は春も中盤。全校集会の朝。海波に友達と言えそうな人物はいない。それに比べて海潮は人に囲まれている。輪の真ん中だ。ほとんどの人物が友達と言われてもおかしくないだろう。


 海波は同級生ではあるものの他クラスのA組に着いた。生徒会長になる前の千崎礼利となら普通に話せていたが生徒会長になった後の礼利生徒会長とは全く話していない。


「礼利…生徒会長はいるか?」


 辺りを見回す海波。そこに本かなにかメモ帳を見ている赤髪の小柄な少女と目が合った。千崎礼利だ。敵対心を向けている。礼利は後ろを振り返りとある人物の名前を呼んだ。


「華…」


「はい」


 鈴下華。書記で青髪の短髪の彼女は友達と話していたが礼利の言葉を優先に、友達もそれを察したかのように華だけ友達との会話から抜け出す。


「沢塚…海潮の次は姉か…追い出せ…」


「かしこまりました」


 どうやら弟の海潮は何度か生徒会長の礼利と接触を試みていたようだったが海潮の姉である海波も礼利の警戒対象に入ってしまったらしい。


「すみませんが、お引き取りください」


 強引に華によってAクラスから追い出される海波。


「おい待て、話しに来ただけだ」


「どうせ好きだとか冗談を言いに来たんだろう?」


「違うんだ礼利生徒会長、冗談ではないんだ。聞いてやってくれないか」


 その言葉も虚しく華によって海波はAクラスから追い出されてしまった。

 礼利には華という側近がいる。この側近をどうにかしなければまともに会話すらできない。しかし、華は追い出した後、礼利と海波のことについて話すかと思われたが同じように華の友達と会話し、礼利は本かメモ帳を読み始める。

 この問題を相談できるほどの友達は海波にはいない。弟くらいだ。しかし、弟によるお願いだ。弟に相談したら意味がない。姉のプライドが許さない。海波の人望のなさを改めて思い知った。


 校内にチャイムが鳴り響く。全校集会の始まりだ。

 全校集会は問題なく続き、生徒会長、千崎礼利の話が始まる。


「今日は夕方ごろから雨が降るらしい…だがそれが本当とは限らない。簡単に鵜吞みにしないことだ」


 それだけだった。以前の生徒会長になる前の礼利ならこんな話し方ではないだろう。

 今日は雨が降るらしいから気を付けてねー、くらいの人物だったのだ。内容としてはどうでもいい生徒会長の話の後はこの学校の教頭、副校長とも呼ばれる河部副校長の短い演説。話が短いから校長よりは好きな人は多い。そして最後に話の長い姫野校長による演説。話が長く世間話などどうでもいいことまで聞かせられる。


 全校集会も終わり、結論から言うとこの日、海波は礼利と海潮を近づけるような進展は何もなかった。何度か挑戦したものの完全に華という壁に防がれ攻め入る余地がなく逆に警戒されてしまった。

 

 放課後、礼利の言うように雨が降ってきたが沢塚姉弟は折り畳みの傘を所持しているので問題ない。海波は帰宅部で先に帰宅して料理を作る。実は家事が結構できる海波。海潮は陸上部で雨が降ってきたので学校内で練習をして、海波より帰るのが遅い。


 生徒会室では礼利を中心に活動が行われていたがそこにあるのは緊迫。書記の華の姿もある。誰も話さない中で唯一生徒会長に対して緊迫していなさそうな人物。オレンジのロングの髪をした彼女は生徒副会長、水城名由(みずしろ なゆ)。生徒会長には話づらかったのか名由は華に尋ねた。


「華、今日何か変わったことあった?」


「そうですね、そういえば今日から沢塚海潮さんだけでなく海波さんも生徒会長を訪ねてくるようになりました」


「それで、どうしたの?」


「追い返すように言われましたので追い返しました」


「そうなんだ?」


「……」


 名由は礼利を見ながら言うが礼利は何も答えない。

 その後、会話はほとんどなく生徒会活動を終えた。

 礼利たちは帰るが礼利と華は一緒に帰らない。

 礼利は傘をさして一人で帰るのだった。



 生徒会メンバーが生徒会室から出るとき、一人の銀髪の少女が遠くから監視していた。


「今日もお疲れ様」


 銀髪の少女は遠くからそう言い放って舌なめずりをするが本人には聞こえない。

 さらに銀髪の少女は音楽室に向かう。音楽室の扉を開けて一人の生徒と目が合った。その生徒は銀髪の生徒の元へと駆け寄る。二人は音楽室から出て銀髪の少女はその生徒にお願いする。


「せんぱぁーい、今日雨降ってるんですけど白瀬は傘持ってきてないんですよねぇ、今からタクシーで帰ろうかなぁって」


 銀髪の少女は白瀬という名前らしく先輩にねだっている。

 白瀬の先輩は周囲に誰もいないことを確認して1000円を白瀬に渡す。しかし。


「うちとの仲じゃーん。まだいけるっしょ」


 白瀬により今度は先輩が5000円手渡した。


「まあ妥当だね、ありがとせんぱーい。じゃーね」


 白瀬は当たり前のように先輩から金を引き出した。



 帰宅した赤髪の少女。千崎家。礼利の家だ。


「ただいま…」


「お疲れ様ね、生徒会長」


 その言葉に礼利は怒りをあらわにした。


「二度と…二度とその呼び方で私を呼ぶな!」



 沢塚家では海潮と海波が合流した。


「海潮、やっぱり生徒会長は諦めたほうがいいんじゃないか?」


「それはできないよ、僕たち仲が良かったんだよ」


 以前の礼利なら海潮のように誰とでも仲良くする人物だった。相性ピッタリと言っていいほどだ。しかし今の礼利は違う。性格が真逆だ。


「お姉ちゃんでも手に負えなさそうだなぁ」


「僕は諦めないよ、性格が変わっただけですべてが変わる訳じゃないんだよ。でも僕が行くと書記さんに追い出されるし下級生、会う機会がね」


「悩んでる弟を助けるのがお姉ちゃんってものだ。よし、何としても華を退けて話せるようにしてやる」


「おぉ、さすがお姉ちゃん」


 海波は海潮と礼利が話せる機会を作ると覚悟を決めた。



 

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