第2話 元人魚姫ですが、今はただの泡です、こんにちは2
ただの泡と出会ってから数ヵ月。
婚約した女を調べた結果、ただの泡の言っていることは正しかった。俺は婚約を破棄すると同時に、共謀罪として彼女の生家の人間を拘束し牢屋へ入れた。
俺としては婚約してもさほど同じ時間を過ごしていなかった事もあり、あまり婚約者という認識のしずらい相手だ。
見目のいい相手だったので同情が集まり、婚約者を牢獄へ送る俺を血も涙もない王子だという噂が一時期流れた。しかし調べた結果、俺と同じ金髪の恋人がいる事が判明。どうやら俺の仕事が忙しく婚約者らしい事を何もしていなかったため、別の男を作ったらしい。
ここで世間の同情は半減した。
さらに彼女は西の国の王家の庶子であったことが判明し、投獄されたものの供述で、俺との間に子供ができたら俺を暗殺し、我が子を使ってこの国を西の国の属国に落とす予定だったそうだ。
しかし俺に対して全く色香が通じず、焦ったため、金髪の恋人の子種で子供を作る予定だったとか……。女って恐ろしい。
そんな情報もどこからともなく流れたことにより、俺を批判する声はなくなった。
ともかく、ただの泡のおかげで俺は女に騙される事も、暗殺される事もなく、国が揺れる事はなかったわけだが……。
「おい。勝手に、俺のグラスに入るな」
『ばれましたか』
「ばれるわ!」
現在、ただの泡は俺を助けてくれた事もあり、彼女が望むままに、俺の部屋の金魚鉢の中で生活している。食事はいらず、日光浴をさせ、定期的に海水を追加してくれという話だったので、そういう世話を俺の手でやっていた。
恩人というか恩泡なので、俺の手で手入れするのはやぶさかではないが、そもそもこのただの泡の存在をどう他人に伝えていいものか分からないので、俺が世話をするしかない状況だ。
そんな泡だが、時折変な行動をする。それが今回みたいなグラスに入ったりとかだ。
部屋に運ばれた食事のグラスが泡立っているので一目見ただけで分かる。炭酸とかそういうレベルじゃない。もこもこの泡だ。気づかないはずがない。
猫は狭い場所を好み入り込むと知り合いの猫好きが言っていたが、泡も狭い場所が好きだというのだろうか。泡の生態は今も謎が多いのでないとは言い切れない。とはいえ、食い物に混ざらないで欲しいところだ。
いくらなんでも間違えて飲むようなことは、見た目的にないと思うけれど、飲食物に混ざられるのは気持ちのいいものではない。
『いえ、毒見が必要かと思いまして』
「毒見ってなぁ。お前が入ったら飲めないだろ」
『飲んじゃってもいいですよ? 間接キス的な?』
「何で間接になるんだ」
泡は口ではなく体なのでキスに該当するのだろうか? いや、そもそも口は一体どこなのか。
『本体は金魚鉢にいるので』
確かに金魚鉢の中にも泡はいる。ということは、グラスの泡は……なんなんだ? やっぱり泡の生態がさっぱり分からない。
「まて。例え本体があっちでも、これも泡の一部ということは、カニバリズムだろ。誰がやるか!」
『でも、ただの泡は人間ではないので、カニバリズムには当たらないのでは?』
「この国では、知能のある種族を食べるのは禁止されているんだよ!!」
異国には、異種族は人間ではないので食べるところもあるそうだが、俺の国はそんな野蛮な国ではない。
「それに例えそういう法律になっていなくても、俺は命の恩人を食べたりしない」
この泡は俺の命を二度も救ってくれた泡だ。本人はただの泡だというけれど、俺にとってはただの泡ではない。
『私はいいですけどね。王子の血となり、肉となっても。好きな人に食べられるって、最高の愛情表現じゃないですか?』
「気持ち悪いわ!!」
ただの泡の熱狂的な愛が、時折重い。
止めろ、食わせるな。ただの泡は俺の心の中で生きているとか、そういうのはいらないから。
『残念です。あ、でも、今日のお水は飲んでは駄目ですよ。毒入りでした』
「は?」
『というわけで、その泡は捨てて下さい。他の食材はどうか分かりませんが、井戸水確認を急いだほうがよさそうです』
「それを早く言え!!」
俺は慌てて従者を呼びつけた。
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