04 興

 私は、利休さまのお弟子さんたちが助命歎願に動いていることを知っておりました。そのため、その方たちのためにも、ずは申し開きをすべきではないか、何なら私がこれからと申し上げました。

 すると利休さまは、ずず、と茶を飲み切ってから言いました。


「何や、わてかて、そらぁ死ぬのが怖い。けどな、こらぁもう、関白がもう決めたことさかい、今さらジタバタしたところで、変わらん」


 黄金きんの茶室を作ったあたりから、こうなると思っていたと、利休さまは言うのです。

 そう、あの関白さまが利休さまに特にと作らせたという、あの黄金きんの茶室です。

 私は何故なにゆえと聞きました。


「……何故言われましてもなぁ。あの黄金きんの茶室、あそこだとよう聞こえへんのや、あしおとが」


 最初は組み立て式で、何処にでももうけることができる、そういう茶室をと頼まれたと言います。


「でも」


 利休さまは苦笑いをされました。


「まさか、あのようなにするとは、よう思わなんだわ。参ったわ」


 禿頭とくとうをガシガシとかれるそのお姿に、利休さまは少し恥じ入っているように思えました。


「何故、そのように含羞はにかまれるのです?」


「すりゃ、が、わての腹ァ召す原因もとやからよ」


 利休さまは今度は腹を撫ですさりながら、語られました。


「北野やったかなぁ……何やみかどを呼んで、その茶室のお披露目する言うて、わても呼ばれましてん。いやな、茶の湯ゥやる言うたら、わてが呼ばれるのは分かってましてん、そやけど、まさか」


 そこで区切るところに、利休さまの万感が込められている気がしました。


「……まさか、とは。そないなことになっとるとは、わて、よう知らなくて。ほいで、帝がいらっしゃるさかい、よ金ぴ……やない、黄金きんの茶室に入って、茶ァてよと、関白が、言わっしゃるねん」


 利休さまとしては、事前に見せてくれればまだしも、今の今、その場でやれと言われて辟易へきえきしていたところに、よりによってみかど――そうです、後陽成の先帝です――が客としていらっしゃる茶室の中で、外から来るそのがいつ来るか来るかと耳傾けていたそうです。


「でもな」


 利休さまは歎息されました。


「よう聞こえへんのや。読めんのや。何より、やから、それがチラつく。それで聞こえん。読めん。こらあかん、そう思たところへ、関白みかどの手ェ引いて、入ってきたわけや」


 利休さまはおもむろに無表情になったそうですが、それが関白さまからすると、逆にかんさわって、そしてそういうのにさといお方ですから、瞬時に利休さまの胸中を察したようでございます。


「今、思えば、アレが始まりで……いや、アレからぐ、どうこういうんは無かったんや。そうやな……やっぱ、すてさまが生まれたことが決め手やったなぁ」


 関白さまの最初のお子の、棄さま。

 ええ、貴方がお仕えしている秀頼さまの……いえ、これは申しても詮無きこと。失礼いたしました。

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