【新連載】転生したら司馬懿の牛だった件~家畜ですが三国志の知識チートで中華統一めざします
(おおっ。俺の主人、司馬懿が喜んでいる声が聞こえるぞ。でゅふふふwww これで俺は、三国志の英雄の一人、司馬仲達を救った奇跡の牛になったわけだ。歴史書にその名を刻まれる最強の牛伝説がここから始まってしまうぜ。でゅふふふふふふwww)
火牛の群れの先頭を走る牛――司馬懿家の牛――は心の中でガッツポーズしていた。
この牛、実は転生者である。令和の日本から逆行転生した、アニメとコスプレ、そして三国志が好きなアラサー男子で、名前は
田舎者の彼はある日、大規模なコスプレイベントに参加するべく都会にやって来た。しかし、駅をおりて会場に向かう途中、セーラー服で戦う美少女戦士のコスプレをした若い女性が食パンをくわえながら自転車で疾走していく姿に気を取られ、
「うわっ、風でスカートが! み……見え……っ!」
決定的瞬間を見逃すまいと、体を思い切り傾けてガン見しているうちに小石につまずいて車道に倒れてしまった。
彼を
ちなみに、美少女戦士のコスプレをしていた若い女性は、実は目の悪い松阪食太郎の見間違いで、ただの平凡なサラリーマンだった。朝寝坊したこのサラリーマンは、寝ぼけて娘のセーラー服を着てしまい、「遅刻、遅刻ぅ~」と焦りながら自転車で通勤している最中だったのである。
そんな感じで、現代日本のラノベ業界ではよくある悲劇によって命を落とした彼の魂は、日本の最高神
「あなたは気の毒な亡くなり方をしましたねぇ~。えーと、名前は松阪たべたろ……ププッ! ウプププ! な……何というキラキラネーム。松阪牛食べたくなってきちゃった」
「アマテラス様……。気の毒な死に方をした人間を笑うのはやめてくださいよ……」
松阪食太郎がそう抗議すると、巫女服のコスプレをした美少女にしか見えない天照大御神は「あー、めんご、めんご」と軽い感じで謝り、「ところで、転生とかしてみます?」と訊いてきた。
「本来なら、転生希望者は、あの世でしばらくお仕事をしてもらった後に生まれ変わるのがルールなんですよね。でも、その面白いキラキラネームと気の毒な死に方に免じて、いますぐ転生させてあげましょう」
「つまり……近頃流行りの異世界転生ができるっていうことですか⁉」
「あ~……。私的には異世界物よりも歴史物のほうがマイブームなんですがぁ~」
「だったら三国志! 三国志の英雄たちがいる古代中国に転生させてください! 俺、三国志のゲームが好きなんで! ゲームで得た知識で無双してきます! でゅふふふwww」
「あなたたち日本人はほんま三国志が好きですねぇ……。マー別にいいですけど。ただし、有名武将とかには転生できないと思ってくださいよ? あと、チートな能力もあげられません。そーいう面倒なことをやると、神様の私が疲れちゃって、翌日筋肉痛になるんで」
「俺には、三国志のゲームを二十年やり続けて
「笑い方きっも……。じゃあ、適当に転生させちゃいますね。あちらの転生ゲートへどうぞぉ~」
といったあの世での経緯があった後、松阪食太郎は古代中国の後漢末期に転生したのである。
しかし、まさか牛に生まれ変わるとは夢にも思っていなかった。
(前世の名前が、松阪牛を食べたくなるキラキラネームだったからか⁉ アマテラス様、いくら何でも適当に転生させすぎじゃん!)
牛に転生しても、モーモー鳴きながら草を食うだけの生活しか送れない。主人の司馬防は、あの司馬懿の父親で、わりと重要な三国志キャラだが、ほぼ隠居状態の
このまま平凡な牛としての生を過ごし、やがて朽ち果てていくのか……。そんなふうに絶望していたところ、とうとう待ち望んでいた転機が訪れた。
司馬防が「息子の嫁の懐妊祝いに、うちで飼っている牛をくれてやるか」と言い、松阪食太郎を
そして、今回の
(敵はわけのわからん草のお化けらしいが……。ここで主人の司馬懿を助けたら、「この牛、とても役に立つ。ただの牛ではないな。我が軍の
蜀ファンなので本当は劉備に仕えたかったが、自由に行動できない牛の身ではどうしようもない。司馬懿も物語後半の主役級、こいつと天下を目指してみるか――。
松阪食太郎は、「
火に
「いっけぇぇぇーーーッ‼ 邪神など恐れるに足りずだぁぁぁーーーッ‼」
司馬懿が自分たち牛を励ます声。
俺と司馬懿の伝説はここから始まるのだ――と意気込んだ松阪食太郎は、華佗邸の中庭に侵入すると、そこで待ち受けていた神兵たちの大軍めがけて、
アイキャンフラーーーイ!!!!!!
と、心の中で叫びながら飛翔した。
彼に付き従う残りの牛たちも、見よう見まねでハイジャンプした。
「う、牛が飛んだぁぁぁーーーッ‼」
庭で神兵たちにリンチされていた
空中を飛んでいる松阪食太郎は、その声につられ、ふと下を見た。そして、費長房と目が合い、
(あっ。このおっさん、高校時代の世界史の先生に似てる)
などと、よそ事を考えてしまった。それがいけなかった。
もともと集中力があまり無いほうだった松阪食太郎は、費長房に気を取られたせいで着地時に小石につまずき、どうっと大きな音を立てながら倒れてしまった。
その真上に九頭の牛たちも続々と着地してきて――。
「の……のわぁぁぁーーー⁉ 牛たちが燃えとるぅぅぅーーー‼」
中庭に足を踏み入れた司馬懿は、顔を真っ青にして叫んだ。
松阪食太郎と九頭の牛たちは、華佗邸の
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