小燕ちゃんと董白ちゃん~おまけという名の三章予告
ここは、あの世の役所、冥府。
今日も今日とて、小燕と董白は冥府の正門をせっせと
この仕事、わりと忙しい。
中国大陸では毎日のようにどこかで戦が起きている。人が死ぬ死ぬ。死にたてほやほやの
「
「『ここのところ戦ができなくて暇だ』という理由で張飛に根城を襲撃され、一対三百で虐殺された山賊のみなさ~ん。絶対に冥府で暴れないでくださいねぇ~。冥府の治安維持を
冥府の役人たちに引率され、鬼たちは冥府の門をぞろぞろと通って行く。
曹丕が以前、司馬懿に語ったことがあるように、幽鬼は本人の遺体の状態に大きな影響を受ける。だから、頭をかち割られて死んだ鬼は、
彼らが正門をくぐるたび、門前は血まみれ眼球まみれ臓物まみれ。こういう団体が一日に幾度となくやって来るため、小燕と董白は清掃作業に大忙しだったのだ。
「これ……絶対に私たち美少女がやっていいお仕事じゃないですよね。泰山府君は何を考えていやがるんでしょうか。絶対に馬鹿でしょ、あの冥府の神。三回ぐらいぶっ殺してぇ……」
「と、董白ちゃん。暗黒に染まった瞳で恐いことを呟くのやめてください。女の子がしちゃいけない顔をしてますよ?」
小燕がビビりながらそう諌めると、董白はコホン……と上品に咳払いして、「すみません。血の臭いにあてられて、私の中に眠る魔王の血が暴走しかけました」と謝った。
「でも、小燕ちゃんだって思いませんか? もうちょっとこう……きらら~☆なお仕事に就きたいって。私たち、女の子なんですし」
「きらら~☆なお仕事ですか。たしかに、血で汚れた門前を清め、拾い集めた目玉や臓物を落とし物係のお役人に届ける単調な毎日はキツイですもんね。自分が十代前半の女子だということを忘れそうになります。正門の清掃係という名誉あるお仕事にケチをつけたらいけないのでしょうが……」
「でしょでしょ? 私たちに足りないのは、女子力を高めてくれるきらら~☆要素です」
「女子力といえば……。また泰山府君から次回予告用の台本が記された木簡が届いていますが、『今回は女子力高めな感じで予告を読み上げるべし』というざっくりとした注意書きがついていましたね」
「……女子力高めな次回予告って何なんでしょうね。やっぱり、あいつ馬鹿なのでは?」
「しーっ! しーっ! 大声でそんな悪口を言ったら、誰かに聞かれちゃいます! 『泰山府君に嫌われたら永遠に
「おっと、いけない」
董白は可愛い唇をほっそりとした手で隠し、オホホホと誤魔化し笑いをした。
普段はお嬢様っぽい口調だが、やはり魔王董卓の孫娘である。時おり粗暴な一面がにょきっと顔を出してしまうようだ。
「しかし、困りましたね。十代前半で死んだお子ちゃまな私たちには、女子力なるものが何なのかいまいち分かりません。小燕ちゃんは分かりますか?」
「私にもちょっと……。博識な私の旦那様におたずねしたら、教えてくださるでしょうか」
「え? この間、うっかり魂がこっちに来ちゃった司馬懿とかいうあの男ですか? いやぁ~ちょっと無理でしょうよ。いかにも女にもてなさそうでしたもん。それよりも、
「ほえ~! そんな美人さんがいらっしゃるのですか! 私もぜひお会いしたいです!」
「では、虞姫姉さんが経営している『
* * *
冥府のメインストリート沿いにある四面楚歌食堂。
あの伝説の美女虞姫が店長で、冥界で最も繁盛している飲食店である。
女子力天下無双の虞姫は、未来の
そんな彼女が経営している飲食店なので、自分と女性店員(みんな美少女)たちが身に
「虞姫姉さん。こんにちは」
「お……お邪魔します!」
董白と小燕が入店すると、厨房にいた美少女(外見は十七、八歳に見える)が、
「あいあ~い。ちょっと待ってね~♪」
と、キャピキャピした声で返事をした。
厨房から姿を見せた彼女のいでたちを目にした小燕は、
(こ、この人が女子力天下無双の虞姫さん……‼ 生きている間には一度も見たことがない風変わりな服装だけど、えげつない可愛さです‼ 後光が差して見えます……‼)
と、
虞姫はいま、セーラー服の上にフリルいっぱいのエプロンを着用している。JK千里眼で未来を視て、「これぞ男を萌え殺す服装」と虞姫が確信したファッションの一つだ。もしもここに童貞男子高校生がいたら、確実に鼻血を出して出血多量で死ぬことだろう。食堂の常連客の項羽や
「董白ちゃん、ごめ~ん。まだ開店準備中なのよ~」
「いや、実はお店が準備中の時間帯を狙ってここに来たのです。項羽殿や劉邦殿がそれぞれの子分を引き連れて飲み食いしている時間だと、虞姫姉さんとゆっくりお話できないので」
天下分け目の戦を繰り広げた項羽と劉邦だったが、死後は仲直りし、義兄弟の契りを結び直していた。
だが、四面楚歌食堂で項羽軍と劉邦軍の諸将がどんちゃん騒ぎをやっていると、たまに昔の戦の自慢話が始まり、「逃げてばかりいた劉邦に俺が負けたのはおかしい。俺の方が一億倍強いはずなのに」「でも、最終的な勝者は
だから、虞姫とゆっくり話がしたい時は、あの二人が店にいない時に来るのがいいのである。彼女もそのことをよく分かっているので、「ああ~、そういうことね。ウフフ」と笑った。
「で、あたしに何か相談事かな? 何でも力になってあげるから言ってみそ♪」
「ありがとうございます。実はですね……かくかくしかじかというわけでして」
「ほほーう。次回予告を女子力高めにしろだなんて、泰山府君ちゃんも面白い命令出すねぇ~。そーいうことなら、あたしに任せてくれてもいいよーん♪」
「わぁ~! ありがとうございます!」
快諾してもらえて、小燕と董白はホッと胸を撫で下ろした。
「さぁ~て。いちおう冥府の神の命令なんだし、ちょっくら真面目にやりますかぁ~」
虞姫はそう言いながらエプロンを脱ぎ、いっちにーさんしーと準備運動を始めた。
~次回予告~
虞姫「ねえ……そこの読者の君。覚えてる? 私と貴方が初めてデートした場所……」
食堂の窓辺に寄りかかり、切なそうな表情で読者(に見立てた
虞姫「そう。洛陽の市場だったよね。あの時に君が買ってくれた指輪、今でも大切にしているんだよ?」
そう言いつつ、なぜかセーラー服のスカーフをしゅるっ……とほどく虞姫。
その仕草が不思議なほど艶めかしく、同性でありながら魅惑されてしまった小燕と董白はゴクリと
虞姫「そんな私たちの青春の光だった洛陽も、いまでは廃墟同然だって知ってた? 董卓っていう魔王がね、長安に
董白「うちの祖父がすみません」
虞姫「でもね……。また、洛陽で貴方と逢いたい。あの夜の続きを君としたいの……」
読者に駆け寄って抱きつき、上目遣いでそう懇願する虞姫。
ハァ……と甘い吐息が彼女の
読者「だけど……いまの洛陽は荒れ果てて、市場も賑わっていないじゃないか」
読者(に見立てた案山子)の後ろに隠れている小燕が、虞姫がアレンジした台本を読み上げる。
すると、虞姫は涙をポロポロこぼしながらも微笑んでこう言った。
虞姫「大丈夫よ。
読者(小燕)「鍾繇? 三国志マニアじゃなきゃ知っていなそうなその人は誰だい?」
虞姫「次回、怪異に遭遇する文官よ。亀〇人みたいにピチピチのギャルが好きなところが玉に
読者(小燕)「でも、そのお爺さん、怪異に遭うのだろ? しかも、エッチな感じの」
虞姫「ええ。私に負けないぐらい妖艶な謎の美女にチョメチョメアンアンバキュンバキューンされちゃう話らしいわ」
読者(小燕)「お爺さんなのにそんな目に遭ったら、いくらギャル好きでも死んじゃうじゃないかッ‼ このままでは洛陽復興プロジェクトもおしまいだぁ~‼」
虞姫「安心して? そうならないために、主人公の曹丕と司馬懿が次回も大活躍するのよ。ちょっと意外なゲストキャラも登場するし、ますます目が離せないわ」
そう囁きながら、読者(に見立てた案山子)の頬に優しくキスをする虞姫。
読者(小燕)「ぐ、虞姫ちゃん……」
虞姫「三章も絶対に読んでね? 読んでくれなかったら……私、泣いちゃうから」
読者(小燕)「わ、分かったよ! 虞姫ちゃん! 三章を最後まで読んで、洛陽復興プロジェクトも成功したら、またあの市場でデートをしよう! 約束だ!」
虞姫「というわけでぇ~……」
くるりと振り向いて、てへぺろ顔ダプルピースをする虞姫。
小燕と董白も見よう見まねで虞姫と同じポーズを取る。
虞姫「次回、『列異』!!!」
小燕&董白「三章『魔性の愛撫』!!!」
虞姫「読んでくれなかったら、あたしのダーリンの項羽様がおしおきしちゃうぞ☆」
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