22世紀力士・雷電ドラ右エ門
きょうじゅ
ホンワリ
2112年9月3日、大相撲夏場所は六十五日目を迎えていた。年三場所九十日制が導入されて、今年で十五年目になる。一年三百六十五ないし六日のうち二百七十日は相撲の興行が行われているというわけだが、いまの時代の人間たちはみな万能の御奉仕ロボットにかしずかれて暮らしており、労働といえばただ暇潰しと娯楽のために行われるだけのものだったから、嫌なら休場なり引退なりすればいいだけのことであって、特に問題はないのだ。
「マッタナシ」
メカニカル行司の電子音声が、両国ネオ国技館に響き渡る。本日結びの一番、史上最強の大関と呼ばれる雷電ドラ
「ハッキョーイ。ノコッタ!」
合図と同時に、横綱陣幕は変身した。
「ごっちゃんでーす!」
何かといえば巨大な靴に、である。相撲には、足の裏以外の場所を地面につけてはいけない、という厳密なルールがある。これは何百年も前から変わっていないのだが、しかし土俵上で変身してはいけない、などというルールも別に昔から無かった。従って、陣幕が序ノ口で初土俵を飾ってこれをやったその日についた物言いで「ただいまの協議について説明します。陣幕が変身したのは反則ではないかと物言いがつき、協議した結果、反則ではないので行司軍配通り陣幕の勝ちといたします」とアナウンスされて以来、これは構わないということになっている。さて、それで雷電はどうしたかというと。
「はぁい!
といっても、四次元ポ〇ットからタケトンボに似た道具を出したわけではない。これは大相撲の真面目な取組なのだから、道具を持ち込んだりしたら反則である。ただ、頭を振り回して
そして、横綱も浮いた。靴に変身できるのだから、空くらい飛べても別に不思議なことなどなにもありはしない。そして、二人は空中でまわしの探り合いを始めた。横綱は靴になっているが、まわしは身体の周囲を巡るように付けているのである。万一、まわしが外れたら反則負けとなる。変身は構わないが、それはちゃんとルールがあるのだからその通りにしなければならないのだ。
さて、結局、横綱のまわしを掴んだ雷電が、その両足をがっちりと両腕でホールドし、土俵に向けて勢いをつけて、そして頭から叩き付けた。
「ショウブアリ!」
雷電の連勝記録は七百六十二まで伸びた。もはや、大昔に六十九連勝程度で話題になった力士が存在したことなど、人の口の端にすら上ることはない。
「ただ今の決まり手は キ〇肉ドライバー 〇ン肉ドライバーで 雷電の勝ち~」
二度も説明するようだが、相撲のルールは「足の裏以外の場所が下についてはいけない」である。従って、キン〇ドライバーはれっきとした相撲の決まり手として成立するのであった。
土俵上では、サイボーグ力士による弓取り式が行われている。では明日、六十六日目の相撲もお楽しみに。
22世紀力士・雷電ドラ右エ門 きょうじゅ @Fake_Proffesor
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