茶会 Ⅱ
「そういえばソルのクラスに転校生が来たんだっけ。」
そう言い出したのはルナだった。
不揃いなクッキーを1つ摘まむと横目でソルを見る。
ソルは「待ってました」と言わないばかりに片手を上げて挙手をしてから話始める。
「そうなんです!ソル、びっくりしました。アルビノの方に初めてお会いしたんです。」
「アルビノ…珍しいね。」
イアは興味深そうに、持っていたカップを置いてからソルへ向き直る。
長い襟足の髪がさらりと揺れ、足元に白色の花弁がひとひら落ちた。
それに気づいたソルは花弁を拾い上げては指先で摘まんだまま興奮した様子で話し続ける。
「本当に真っ白なんです。お目目だけ赤色なんですが、まつげの先まで真っ白!とっても可愛くて、仲良しになったら絶対にこのお茶会にもお誘いしますわ!…シャイな方でまだソルとはあんまりお話ししてくれませんでしたが…」
そこまで一息で言うと、机に両腕を載せて突っ伏するように顔を半分伏せる。
ルナは「それはソルが……」とだけ口にするがソルが怒ったような目で見たのを察したのか、紅茶を口に含み誤魔化す。
イアはおかしそうに笑うと細い指でソルを指さした。
「妹ちゃんはお転婆だからね。初めての子はほんの少し緊張するのも納得さ。」
「褒められて……」
「ないよ。」
「うわぁあん!!お兄様酷いです!…友達の出来ないお兄様をこのお茶会にお誘いしたのもこのソルだというのに……!」
「……お兄ちゃん悲しい。」
「ぅああ……」
双子の百面相にイアはクスクスと笑うと肩を震わせた。
彼はこの雰囲気が好きだった。
穏やかで、特段気を遣う事もない。
お互いがそれぞれの距離を保ちつつ関われるというのは案外、難しいものであり同時に居心地よく感じるものだ。
と、その時だった。
ジリリリリリと割れるようなサイレンの音が響き、教室に赤い警告灯が回る。
ソルの「きゃ、っ…!」という短い悲鳴と同時にルナは覆いかぶさるようにその体を守った。
このサイレンが鳴る事は通常あり得ない。
何故なら、これは凶悪な魔力を知らせる警告であり避難勧告だからだ。
この学園には学園の敷地内を大きく囲う結界が貼られており、それは国を代表する牧師のお墨付きだ。
つまり、その結界を破るほどの魔物、もしくはそれに相当する反逆者が侵入してきたという事になる。
「お兄ちゃん、妹ちゃんを連れて避魔室へ。」
「会長さんは…?」
「ボクは侵入経路へ向かうよ。大丈夫、すぐに止めてくる。」
「でも、……っ…」
泣きそうな顔で駆け寄ろうとするソルを、ルナは手を引いて引き留める。
わかっているのだ。
自分たちでは力になれないと。
イアは半分だけ体を向けると、ソルのずれたカチューシャを元に戻す。
白いフリルが赤いサイレンの色に染まっていた。
それからにっこりと笑うと
「大丈夫、ボクはこの学園の生徒会長だからね。」
とだけ言って教室の窓を開けた。
外からは強い風が吹き付け、大きな魔力は肌を通して感じるほどだった。
ルナはソルを抱き寄せたまま一度頷く。
「ソル、待ってます。…大丈夫だと信じております!」
ソルの声に笑顔を見せ、イアは窓から外へと飛び立った。
長い襟足と、生徒会長だけに許された長い裾の制服が風になびいた。
彼は確かに、笑っていた。
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