第19話 限界
王女との話がついたので、一度馬車を止めてもらい、笹原君と星野さんが乗っている馬車へと俺は乗り込む。
「少し失礼するよ。2人に大事な話があるんだ」
「あ、あの、宮島さん。首輪はどうしたんですか?」
星野さんが、俺の首輪が無いことに驚き、聞く。
「首輪は外したよ。2人にも外し方を教えるから」
俺は2人に外し方を教える。
ガチャ。ガチャ。
2人にも隷属の首輪は2重に付けられていた。
「宮島さん、向こうの馬車で何があったか教えてもらえますか?王女を倒したということですか?これで帰れるんですか?」
笹原君が困惑しながら聞いてくる。
「笹原君、落ち着いて。1から説明するから」
俺は2人に向こうの馬車であったことを説明する。
「……そんな、信じられません」
笹原君が同様しながら呟く。動揺しているのは星野さんも同じだ。
「すぐに信じなくてもいい。でも俺の言ったことが本当だとわかったら、王女を犠牲にすることなく世界を救うことに協力して欲しい」
俺は2人に頼む。
「宮島さん、1つ教えて下さい。なんで宮島さんはそこまで王女を救いたいんですか?演技だったとしても、酷い事をされていたじゃないですか」
星野さんに聞かれる。
「もうすぐ自分が死ぬ運命にあるとわかっているのに、会ったこともない異世界人の為に、残りの人生を悪役を演じて生きる。そんなお人好しを俺は助けたいと思っただけだ。気付いてしまった以上、王女を犠牲に魔王を封印して元の世界に帰ったとしても、俺は後悔に押し潰されたまま生きることになると思う。それは嫌だ」
「……わかりました。確かに王女様が宮島さんの言う通りの人物なら、私も後悔して日本に帰ることになりそうです。王女様と話すことは出来ますか?」
「そう言ってくれると助かるよ。王女もこの馬車に乗ってもらおうか。笹原君もいいかな?」
「あ、はい」
俺は馬車を止め、王女にもこっちの馬車に乗ってもらう。
「賢者様、聖女様、今まで失礼な態度をとってしまい申し訳ありませんでした。どうか世界を救うためにお力をお貸しいただけないでしょうか?」
王女が馬車に乗ってすぐに深く頭を下げた。
「宮島さんから話は聞きましたが、王女様からちゃんと話してもらってもいいですか?」
星野さんが王女に言う。
「わかりました」
王女が申し訳なさそうに話をする。
ただ、俺との約束の話はしつつも、王女は自分を犠牲にすることで気に病まないで欲しいと言った。
「私にはこの子が悪い子にはもう見えなくなってしまいました。宮島さん、私は何をしたらいいですか?何をしたらこの子を救えますか?」
「星野さん、ありがとう。全員分の武具が見つかったら俺はレベル上げに集中する。危険は承知で1人でダンジョンに潜るつもりだ。星野さんには騎士団長とダンジョンに潜って欲しい。俺がレッサードラゴンゾンビのように星野さんと相性の良い相手を見つけるから、そこでレベルを出来るだけ上げて欲しい」
もちろんどこでレベルを上げてもらうかはもう決めてある。
俺がその階層を越えた所で教えるだけだ。
「……宮島さんと星野さんがそこまで言うなら僕も王女を信じることにします。僕はどうしたらいいですか……?」
「ありがとう。笹原君には星野さんがレベル上げ出来る階層までは一緒に動いて欲しい。王女も一緒に4人でだ。星野さんが問題なくレベル上げ出来るのを確認出来たら、その後は王女と2人でさらに奥に進んでレベルを上げて欲しい。だからそれまでに王女に背中を任せられるよう信頼関係を築いてもらいたい」
「……わかった」
「武具を取りに行っている今は、親交を深めるいい機会だと思うんだ。なんでもいいから話をすれば王女がどんな人物かわかるはずだよ」
最初はぎこちないながらも、この世界のことや地球のことなどを話し合っているうちに、武具を揃え終わった頃にはだいぶ王女との距離は縮んだように見える。
城に戻ってきた俺は、城の備品である回復薬を持ってダンジョンへと向かう。
前回、送還される前に1000階層までは降りた。
1000階層までは流石に行けないと思うので、実質的に一度は戦ったことのある相手としか出会わないはずだ。
1000階層まで降りて、俺はレベル上げに1番適した階層を見つけていた。
755階層に獅子のような魔物がいた。
強敵ではあるが、近距離攻撃しかしてこず、群れで襲ってくるので経験値はガンガン入ってくる。
危険を冒す価値はある。
俺はレベルを上げつつ、755階層を目指してひたすら走り続ける。
500階層を超えた所で、星野さんにレベル上げをする階層を教える。
383階層にレッドドラゴンのゾンビがいる。
ゾンビである以上、レッサードラゴンゾンビ同様に聖属性が弱点だと思われる。
後日、星野さんから問題なく倒せた事を聞き、そのままそこで頑張ってもらうように頼む。
しばらくして俺は目標地点である755階層に辿り着く。
予定よりも気持ち早いくらいで到着することが出来たことに少し安堵する。
囲まれて苦戦しながらも獅子の魔物を倒していく。
倒せば倒すほどレベルが上がるので、どんどんと倒すのは楽になっていく。
そして魔王の所へ出発する5日前、俺は王女に報告していた。
「レベルが1000になった。もうどれだけ倒した所でレベルは上がらない。俺の限界はここらしい。約束は忘れていないよな?」
「本当に出来るとは思ってもいませんでした。勇者様にここまでして頂いたのです。覚悟は出来ています」
「ならいい。残りの時間は休息させてもらう。流石に戦いっぱなしは疲れた」
「本当にありがとうございます。ゆっくりとお休みください」
十分な休息をとった後、魔王が封印されている荒野へと向かう。
俺のレベルは1000。王女と笹原君は600くらい。星野さんは450くらいだ。
俺だけでなく、3人のレベルも今までに比べて明らかに高い。
そろそろ目的地という所で作戦の最終確認を行う。
「これで魔王の討伐は出来るはずだ。だけど、くれぐれも油断しないでほしい。俺達が想定している以上に魔王は強大かもしれない。迷ったらまず守りを重視すること。誰も犠牲にはしない。絶対に全員生きて帰ってこよう」
大丈夫……。やれることはやった。何も間違えて無いはずだ。
今度こそ俺は魔王を倒して世界を救ってやる
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