第18話 説得
自身にさっきまで付けられていた隷属の首輪は現在王女の首にある。
「さて、話を1番初めに戻そうか。俺達に何か大事なことを隠しているだろう?話してもらおうか」
「隠し事なんてありませんわ。そんなことよりも早くこれを外しなさい」
「隷属の首輪ってかなり痛いんだぞ。辛い思いをする前に話した方がいいと思うけどな」
「勇者様、お止め下さい。子供に耐えられるものではありません」
「やるならやればいいでしょう」
困ったな。本当に王女に激痛を走らせるのは気が引ける。
隷属の首輪を付けられた時点で言うことを聞いてくれるかもと思ったが、少し王女の覚悟を甘く見ていたようだ。
「騎士団長、耳を貸せ」
「は……」
そう思った俺は騎士団長を呼び、騎士団長にも隷属の首輪を付ける。こっちは糸の方だ。
どっちでも効果は変わらない。
「俺もこんなガキを痛めつける趣味はない。だから答えないなら騎士団長に痛い思いをしてもらう。俺が思うに騎士団長も王女が隠していることをわかっているみたいだからな。同罪だ。ほら、話してくれよ」
まるで悪者だな。
「勇者様は勘違いしております。隠し事なんてありません」
「残念だ」
「ぐぅ…………」
騎士団長は痛みを堪える。
「魔王討伐に巫女の力は必要かもしれないが、騎士団長はいなくてもいいだろう。次は死ぬまで苦しんでもらう。騎士団長の首が焼き切れるのが嫌なら話せ。10秒だけ待ってやる。10、9、8、7、「待って下さい。全てお話しします」」
「良かったよ。俺も殺したくはなかった」
「それで何をお話しすればいいのかしら?」
「全部だ。そうだな、騎士団長の娘の件から聞くとしようか。1度でも嘘を言ったら騎士団長は殺すからな」
「あなたの言う通り騎士団長に娘はいません」
「ならなんであんな事を言ったんだ?」
「あなた達を同情という感情で動かしかったからよ」
「そうだろうな。とういうことは騎士団長はそちら側というわけだな」
「何を言っているかわからないのだけれど、娘の件は私が命令したことよ。騎士団長は私が隷属している。だからあなた同様犬なのよ」
「ぐあああ……」
騎士団長に痛みを走らせる。
「嘘は言うなと言ったんだけどな。騎士団長が自らの意思であんたに付き従っているのは見ていてわかる。特にさっき俺が首輪を外した時の動きは決定的だ。それに何故騎士団長を殺そうとするのをあんたが止める?国の戦力かも知れないが替えはきくだろう?ナメるのもいい加減にしろよ」
「ペットを大事にして悪いのですか?」
「はぁ。聞きかたを変えるか。なんで俺達に嫌われるように振る舞っているんだ?」
「何のことかしら?」
「あんたが本当に性格のイカれた王女だったら、俺達は正気を保てていない。城の連中もだ。あんたは悪政を敷いている王女を演じているだけで、実際には城の連中から慕われている。違うか?」
隷属された人間しかいないのに、あの城は明るすぎる。
普通ならもっと空気はどんよりとするはずだ。
1度目の何も知らない時でさえ、違和感を感じて何か隠し事をされていると気づくくらいにおかしい。
「悪政?何を言っているのかしら?私に仕えているのだから皆幸せで当然じゃない?演じるもなにも、こんなに素晴らしい王女は今までいなかったはずよ」
「もう茶番は止めないか?疲れるだけだ。あんたの演技は評価する。あんたと対峙しているだけなら気づかなかったかもしれない。だけど、あんた以外は演技が下手すぎる。そこの騎士団長もそうだ。俺達に嫌われようと演技しているのはもうわかっている。話が進まないから認めてくれ」
「……わかったわ」
王女が遂に諦めた。
俺は王女と騎士団長に隷属の首輪の解呪の言葉を教える。
ガチャ。ガチャ。
「なんで?」
王女は本当に外せた事に驚きながら聞く
「もう必要ないからだ。演技をしていたことを認めてもらう為に付けただけで、そんなもので従わせたかったわけじゃない。こうでもしないとあんたが認めそうにないからやっただけだ。それで、俺達に嫌われようとした理由を教えてくれ。本当は悪人でないなら、今までの言動は辛いだけだっただろう?」
「……賢者様と聖女様には秘密にしてくれますか?」
「内容による」
「わかりました……お話しします。勇者様達には魔王の討伐をお願いしましたが、魔王は強大すぎて討伐することは出来ません。なので封印します。封印するには巫女である私が術式の核となる必要があります。魔王を封印した時に共に戦った仲間が犠牲になれば、封印が成功したとしても勇者様達には悔いが残るでしょう。それが嫌だったのです」
「そんなくだらない理由だったのか」
「くだらないとはなんですか!」
王女が怒る。
「魔王がどれだけ強くても討伐してやる。だからそんな心配は必要ない。魔王について知ってることを全て教えろ」
「魔王はそんなに簡単な相手ではありません。だからこそ私は悪役を演じたのです」
「……あんたは魔王がどのくらい強大な存在なのか知っているのか?」
「文献で読んだ限りですが……」
「俺達をどこまで鍛える予定だったんだ?」
「勇者様には少なくても400レベルは超えてもらうつもりでした。そこまで鍛えてもらえれば封印出来る可能性があると考えていました」
「魔王を封印ではなく討伐するにはどれだけ鍛えればいい?」
「勇者様のレベルが800あれば可能かも知れません。しかしそこまで上げる時間はありません」
「そうか。魔王と戦う上で注意することはあるか?魔王の因子が過去の人に宿ったのが魔王なんだろ?心臓を潰せば死ぬのか?」
「魔王は心臓を潰しても死にません。頭を斬り落としても同じです。魔王に傷を与えてもすぐに塞がってしまいます」
「それだと倒す方法が無いように思えるが、俺のレベルが800あれば可能性があるとさっき言ったよな?倒す方法があるんだろ?」
「魔王は不死身です。何をしても殺すことは出来ません。しかし倒す方法がないわけではありません。魔王の弱点は聖属性です。聖属性で受けた傷は回復しません。しかし聖属性で攻撃できるのは聖女様のみです。聖女様には回復に集中してもらわなければいけないので、攻撃してもらうことは実質不可能です」
「それならどうするんだ?」
「巫女である私は勇者様の攻撃に聖属性を付与させることが出来ます。勇者様がその状態で、魔王が動けない状態までバラバラに切り刻めば無力化出来ます。それでも死んではいないのですが、動くことも出来なければ脅威はありません」
「なら、問題ないじゃないか?」
「問題はあります。先程も言いましたが、勇者様が魔王を倒せる程までレベルを上げる時間はありません。そして魔王を封印するには、私はそちらに集中する必要があります。勇者様に聖属性を付与しながらは無理です。なので魔王は封印するしかないのです。勇者様のお気持ちは嬉しいですが、勇者様達には封印の術式が完成するまでの時間稼ぎをお願いします。そして魔王にある程度深手を負わせて貰えれば、私がその隙に封印します」
2度目の時にこの事を知っていれば結果は変わったかもしれない。
俺が魔王を下手に追い込んだせいで、王女に封印か討伐か迷わせてしまった。
そして迷っているうちに笹原君と星野さんが殺されて、封印を選び、俺だけが生き残ってしまった。
「他に魔王について知っていることはないのか?」
「魔王の頭にはツノが生えており、爪は鋭く、尻尾も槍のように尖っているそうです」
他にも魔王について王女が知っている事を細かく聞く。
「わかった。魔王は討伐しよう。あんたが犠牲になることはない」
「勇者様は話を聞いておりましたか?討伐は出来ないと私は言ったのです。私が犠牲になる事に納得してもらう為に私は説明しました」
「それはわかっている。問題は俺のレベルが800くらいまで上げる時間がない事なんだろ?」
「そうです。しかし800までレベルが上がっても討伐出来る保証はありません。可能性があるというだけです。封印の方が確実です」
「あんたは死にたい訳ではないだろ?素直に助けてくれって言えよ」
「もちろん死にたいわけではありません。しかし私は世界を救えるだけで満足なんです」
実際封印して死んだ後も満足していたからな……。
満足しすぎて1度目は望みを言わなかったくらいだ。そのおかげで俺は今やりなおせているわけだけど、無欲すぎる。
「俺はあんたみたいな子供を犠牲に世界を救ったところで嬉しくもなんともないんだが?それについてはどう思うんだ?」
「そうならないように私は悪役を演じたのです。それに関しては力不足だったとは思います。しかし考えを変えるつもりはありません」
「強情過ぎるだろ。だったら俺のわがままを聞いてくれ。俺が満足して元の世界に帰るためにあんたを救わせてくれ」
「何故勇者様は私の為にそこまでなさろうとするのですか?」
「後悔して生きたくないだけだ。強情な王女様の為に聞き方を変えようか。魔王を討伐出来る可能性が高ければ封印よりも討伐を選ぶだろう?封印したところで、この世界の人が魔王の脅威に怯え続けるのは変わらない。世界滅亡が先延ばしにされただけだ」
「それはもちろんです。しかしそれは夢物語です」
「夢物語か……。ならこうしよう。俺のレベルが800あれば討伐出来る可能性があるんだろ?俺はレベルを1000まで上げる。そしたら世界が滅びる可能性があったとしても討伐する。俺のレベルが1000に届かないなら封印する。これならいいだろ?」
「レベル1000なんて無理です。そんな時間はありません」
「無理かどうかはやってみないとわからない。それでどうなんだ?800で可能性があるなら1000あれば問題ないだろう?」
「……わかりました。もしも勇者様がレベルを1000まで上げることが出来たなら、魔王を討伐しましょう。しかし、出来なくても私はそのお気持ちだけで十分です」
「約束だからな。それと笹原君と星野さんにはこの話はさせてもらう。あんたの気持ちはわかるが、俺がレベル上げに集中するのに、あんたがあのままなのは困る。それに魔王と戦う時にお互いを信頼出来た方が討伐出来る可能性が上がるだろ?」
「約束が違います」
王女が抗議する。
「約束なんてしていない。内容によると言っただけだ。それに魔王は討伐することになるからこれ以上悪役を演じる必要はない」
俺は王女の抗議に聞く耳を持たず、無理矢理話を終わらせる。
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