第17話 隷属
翌日、武具探しに出発する。
昨日王の間で俺が言った通り、王女と俺は一緒の馬車に乗っているわけだけど、不穏な空気を出し過ぎたせいで騎士団長まで同じ馬車に乗っている。
本当は王女と2人きりになっても不思議でない状況をつくりたかったわけだけど、騎士団長なら結果としてはよかったかもしれない。
笹原君と星野さんが乗っている馬車には他に誰も乗っていないので、警戒されているのは俺だけということか。
笹原君達が王女と同じ馬車にならず、無用なストレスを感じなくても良くなったので、狙い通りに進んでいる。
笹原君達には王女に出来るだけ悪い感情を抱いて欲しくない。
今は王女のヘイトを出来るだけ俺に向けさせている。
「勇者様、昨日のお話を詳しく教えて頂けないでしょうか?確かに勇者様が調べ事があるとダンジョンに潜られていなかったのは把握しておりましたが……」
騎士団長に聞かれる。
王女の演技上、素直に教えてとは言えないから、騎士団長を同じ馬車に乗せて代わりに聞かせているということか。
「武具の件なら書庫にある本に書いてあったな。難しそうな本にも、絵本にも書いてあった。魔王と戦う用の武具があるならそれを探しに行くと考えるのは当然だろ?」
「それよりも王女様の事です。何故同行されると知っていたのですか?」
「そんなの王女が面白半分でついてくると思ったからだが?ガキからオモチャを取り上げたら泣き喚くだろ?それと同じだ。それとも他に思い当たる理由でもあるのか?いだだだだ」
俺は騎士団長ではなく、王女を見ながら言う。
「主人に対してなんて口を聞くのかしら?1ヶ月も自由にしたのは失敗だったかしら……。ちゃんと躾なおしてあげますわ」
「好きにしてくれ」
「勇者様に1つお話ししなければいけないことがあります」
「なんだ?」
まあ、巫女の件だろう。王女の武具を探す以上話さなければならない
「実は王女様は巫女なのです。賢者様や聖女様と同様、勇者様と魔王と戦う存在です」
やっぱりな。
「……俺が王女が巫女だと知ってると勘違いしてさっきはあんなこと言ったのか?巫女だかなんだか知らないが、王女は魔王と戦えるのか?」
「王女様は魔王を倒すことには真剣です」
「魔王を倒すことには……か。おい王女、騎士団長にバカにされてるぞ」
俺の方ばかり警戒して設定を忘れている王女に教えてやる。
王女は自然を装って騎士団長を睨む。
「も、申し訳ありません。そのようなつもりはありませんでした」
騎士団長が王女に謝罪を述べる。
「1度だけ許します。次はありません。娘に会いたいならちゃんと言葉は選ぶべきよ」
「お許しいただきありがとうございます」
「王女が巫女だったのならば、調べ事をする必要はなかったな。謎が解けた」
俺は茶番が終わったのを確認した後、話を戻す。
「私が巫女だったら何かあるとでもいうのかしら?」
「武具の反応が4箇所あったからな。それに武具に書かれている文献にも巫女の武具があると書かれていた。巫女はいないのかと思っていただけだ。誰が巫女だろうと魔王と戦うつもりがあるなら構わない。魔王を倒したら元の世界に返してくれるんだろ?俺は生きて帰れればそれでいい」
「もちろん帰して差し上げますわ。ペットがいなくなるのは残念ですけど、役目を終えたなら邪魔なだけですもの」
「どんな理由でも帰してくれるなら構わない。騎士団長、地図をくれ」
俺は騎士団長から地図を受け取り、印を付ける。
「ここに武具がある。まずはここだ。ここの武具がずっと俺を呼んでいる。場所的にも悪くない」
俺は騎士団長に言う
「わかりました」
その後は基本無言のまま馬車は進み続け、最初の武具のある場所に到着した。
当然、俺の武具がある洞窟だ。
俺専用の武具に付け替える。
「文献の通りだな。力が無限に湧いてくる錯覚さえする。さて次の武具の所に行くか。残りの3箇所はどれも同じような反応だ。どれが誰の武具かはわからないから、順番は騎士団長に任せる」
2個目の武具を取りに行く途中、俺は王女に話しかける。
俺は魔王を討伐出来るかどうかはここに掛かっていると思っている。
ここを失敗すれば魔王を討伐出来る可能性はほとんど無くなる。
討伐が出来ない以上、王女を犠牲にして封印するしかない。
もうやりなおせないことはわかっているので、笹原君と星野さんまで犠牲にさせるわけにはいかない。
覚悟を決めて魔王を封印する。
「王女に聞きたいことがある」
「私に何を聞きたいのかしら?王女である私の時間を奪うのですから、どうでもいい事ならお仕置きしますよ」
「話してても、黙ってても馬車は進むんだからそんな事言わないでくれよ。まあ、大事な事だからそんな心配は不要だ。俺達に何か大事なことを隠してるだろ?」
「隠し事なんてしていませんわ。それに隠し事をしていたとしても、犬は主人の為に黙って尻尾を振っていればいいのです」
「それじゃあ聞きかたを変えようか。騎士団長の娘は無事なのか?」
「……なぜそんなことを聞くのかしら?騎士団長が私の言うことを聞いているうちは危害は与えないわ。それにあれは騎士団長が私への忠誠の為に自ら渡してきたのよ。違ったかしら?」
王女は騎士団長に言った
「……その通りです」
「ふーん。だったら騎士団長に聞くが、その娘をどこから連れてきたんだ?」
「何が言いたい?」
「いや、相手もいない騎士団長が娘と称して人質に出したのは誰なんだろうなと思ってな。それとも騎士団長は発情して誰かもわからないような相手と子供を作ったのか?」
「……何を言っているのかわからない」
「調べ事をしていたと言っただろ?惚けるのはやめてくれ」
「騎士団長、あの娘の件は城に戻ってから詳しく聞かせてもらいます」
王女が騎士団長に助け舟を出す。
「娘がそもそも存在しないことを認めはしないわけか。面白いものを見せてやるよ。馬車に揺られ続けるのも退屈だから見たいだろ?」
「……何を見せてくれるのかしら?」
王女は笑っているが、口端はピクピクと動いている。
「犬は主人を喜ばせる為に芸を覚えるんだ。こうやって首輪に触ると……」
俺は首輪に手を当て、ぶつぶつと解呪の言葉を言う。
ガチャ
「首輪が外れるんだよ。スゴイだろ?」
王女が驚き、騎士団長が剣を手に取り、王女を自身の後ろに隠す。
「馬車の中でそんなの振り回すと危ないと思うけどな……」
「……確かに面白いものを見させてもらいました。しかしそれは私のペットだという証です。勝手に外してはいけません。付け直して差し上げますからそれを私に渡して首を垂れなさい」
「断る」
「えっ!……騎士団長やりなさい」
王女が慌てて騎士団長に命令し、俺を拘束しようとするが、勇者用の武具を装着している今、騎士団長とは力量差がありすぎる。
「振り回したら危ないからこれは没収だ。そこで大人しくしていてくれ」
俺は騎士団長の剣を奪い、元いた王女の横へと無理矢理座らせる。
「なんで俺が言うことを聞かないか不思議そうだな。俺が気付いてないとでも思ったのか?こんな糸みたいな隷属の道具があることにも驚いたが、王女が2重に隷属の首輪を付けていたことに驚きだよ」
前回、騎士団長に首輪を外した時に王女からの隷属が解かれなかった理由を聞いていた。
その時にこの糸の隷属の首輪の存在を教えてもらった。
1度目の時は首輪を外させて、安心させたように見せておいて、実際は隷属されたままだったということだ。
前回、俺が世界を害する気がないことをわかってもらい、外し方も教えてもらった。
なんでもゴツい首輪は旧型で、糸の方が主流らしい。
隷属の首輪は本来、犯罪奴隷が付ける物らしいが、刑期が終わった後に復帰しやすいように、周りから犯罪奴隷だということがわかりにくいようにと開発されたのが、この糸の首輪のようだ。
「……私を殺したいなら殺しなさい。ただ、魔王を倒すまで待ってください」
王女が言う。
王女の予定ではその頃には封印されているというのに……なんて奴だ。
「ガキを殺す趣味はない。ただ今までのことはちゃんと謝罪しろ。そうしたら魔王討伐にも今まで通り協力してやる」
「王女である私に頭を下げろと言うのですか?それも犬に向かって」
この状況でも悪役をやめないとはな……。
「頭を下げないなら俺はここで帰らせてもらう。騎士団長が言ってたが、魔王討伐には真剣なんだろ?お前が頭を下げるだけで今まで通り協力してやるって言ってるんだ。もう一度だけチャンスをやる。謝罪しろ」
「……くっ!申し訳ありませんでした」
カチャ
「え、、」
「許してやるから隠してることを全部話してくれよ」
俺は王女が頭を下げたタイミングで持っていた隷属首輪を王女に取り付けて言った。
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