第16話 相性

俺の指示でレベルを上げること10日、俺はやり方を変えることにする。

今は30階層付近でレベルを上げており、星野さんのレベルは20だ。


当初、星野さんは1ヶ月でレベルを35まで上げていた。そう考えると悪くはないけど、このままのペースではレベル50には間に合わない。


「笹原君、相談がある」


「なんですか?」


「明日からなんだけど、パーティを2つに分けようと思う。今まで散々綺麗事を言ったが、このままでは50レベルまで上げることは出来ない。だから2つに分ける。ただ、星野さんを騎士団長と2人にする気はない。だから俺と笹原君で交互に騎士団長と組むことにしようと思うがいいか?俺が騎士団長と組んでいる間は笹原君が星野さんを危険から守って欲しい」


「……任せてくれ」


「頼んだ」


翌日、ダンジョンに入る前に騎士団長に話をしてパーティを2つに分ける。

俺は騎士団長とダンジョンに潜り、笹原君と星野さんには別の騎士が付くことで納得させた。


「騎士団長、地図をくれ」

今までは騎士団長が地図を見て階段の位置を示していたが、それだとワンテンポ遅れる。


「あ、ああ」


「一気に下の階層まで降りる。ついてきてくれ」

俺は地図を見ながら走り出す。


魔物は通るのに邪魔なヤツ以外は無視して進んでいく。


「少し待て」

騎士団長に言われるが俺は止まらない。


静止を無視して40階層のボス部屋を開ける。

レッサードラゴンなんて危険でもなんでもない。

装備がいいのて負ける要素はない。

俺は速攻で片付ける。


「待てと言ったはずだ」

騎士団長は怒っている


「やり方は俺に任せてくれることになっていたはずだ。今の俺のレベルは10だ。今日中に少なくても25まで上げる。こんな所で油を売っている時間はない」

俺は騎士団長に一方的に今日の目標を告げてまた走り出す。


「勇者様、そろそろ帰る時間です」

53階層に来た所で騎士団長に言われる。今のレベルはまだ19だ。


「冗談を言うのはやめてくれ。昨日までは2人に無理をさせないようにしていただけだ。少なくても25まで上がるまで帰るつもりはない」


俺はレベル上げを続ける。


「騎士団長、朗報だ。レベルが25になった」

夜も更けたであろう頃、俺のレベルは25になった。

ちょうど60階層のボスを倒した時だ。


「これで終わりになさるのですね?」


「ああ、70階層まで行ったら転移陣で帰ろう」


「勇者様、そこに転移陣があります」


「そんなことはわかっている。今日の目標はレベル25だった。そこで満足する人間は本当の意味で強くはなれない。俺は限界を越える。嫌なら1人で帰ってくれ」


「嫌とは言っておりません。勇者様の体を心配しているのてす。それに先程はボス相手に苦戦していたではないですか?70階層のボスは先程のボスよりも強いのですよ?」


「さっきは相性が悪かっただけだ。70階層のボスは空を飛びはしないから問題ない。さっきだって相手がずっと地上にいればすぐに倒すことは出来た。いいから行くぞ」

俺はさらに進む。無茶をする理由はある。

星野さんと組む時に俺は魔物を倒す気がないからだ。


そして俺が弱ければ星野さんのレベル上げをサポートしきれない。

だから俺は無茶をしてでも騎士団長と組んでいる時に1レベルでも高くなっておく必要がある。


俺は70階層のボスを倒した所で帰ることにする。

今のレベルは28だ。やはりどんどん上がりが悪くなってくる。

しかも分かっていたことだけど70階層のボス相手にはかなり苦戦を強いられた。


ダンジョンから出ると、既に明るくなり始めていた。


部屋に戻ると扉の前で王女が寝ていた。

俺の帰りを待っている間に寝てしまったのだろうけど、今の俺と王女の関係で起こすなんてあり得ない。


俺は心を鬼にして無視して部屋に入る。

誰か使用人が見つけてベッドに運んでくれるだろう。


少しだけ寝て、今度は星野さんとダンジョンに入る。


「俺は魔物を倒すつもりはないから、見つけた魔物は基本的に星野さんが倒して欲しい。もちろん危険な時は助けるから頑張ろう!」

俺は星野さんが魔物を倒しながらゆっくりと下の階層へと進んでいく。


「星野さん、10階層毎にボス部屋があって、ボスを倒すと転移陣で地上に帰れるよね?だから1日の目標は10階層下に潜ることにしよう。とりあえず今日の目標は40階層だよ。40階層のボスは危ないと思ったら俺が倒すから戦わなくてもいいからね。星野さんは道中の魔物を倒しながら下の階層に降りることに集中しよう」


「うん、頑張るね」

俺が星野さんを下の階層に連れていきたい理由は下の階層の方が敵が強くなり経験値が多くなるからだけではない。

65階層には星野さんにとってのボーナスステージがあるからだ。

だからそこを目指してもらう。


そして、騎士団長と星野さんの交互でダンジョンに潜り続けて遂に星野さんが65階層に辿り着いた。


60階層付近から星野さんが1人で道中の魔物と戦い続けるには危なくなってきたので、俺も大分手を出している。

もちろん60階層のボスは俺が倒した。


星野さんには65階層を目指していると話をして、危険は承知で付いてきてもらった。


「あれはレッサードラゴンゾンビだよ。星野さん聖魔法が使えるでしょ?当ててみて」

レッサードラゴンゾンビは正直にいってかなり強敵だ。

俺が70階層を目指した時には戦うのを回避したくらいに危険な相手である。


しかし星野さんにとってはそうではない。

星野さんの放った光の玉はレッサードラゴンゾンビに命中して、レッサードラゴンゾンビの身体の半分を消し去った。

身体を半分を失って生きているはずもなく、星野さんは一撃で格上であるレッサードラゴンゾンビを葬ったことになる。


「えっ……」

星野さんはあまりの光景に驚いている。


「やっぱり星野さんにレッサードラゴンゾンビは相性がいいね。こうなると思ったよ。それにレッサードラゴンゾンビは的が大きくて、動きもそこまで早くはない。不意をつかれる可能性も他の魔物より低いと思うし、星野さんにとって良いことしかない。星野さんはこれからはここでレベルを上げよう」


笹原君のレベル上げは順調だし、これで問題はないな。


レベル上げを始めて1ヶ月、俺達は王の間に呼ばれる。


「騎士団長、準備は出来ていますか?」

王女が何の前置きもなく言い出した。

本来なら俺達のレベル上げの進捗を聞くために集めているはずなのに、王女が俺達のレベルを聞くことを躊躇った結果、良くわからないことになっている。


「問題ありません」

騎士団長が答えるが、今はそんなことどうでもいい。


「そんなことより俺達がどこまでレベルが上がったのか聞かないのか?」


「騎士団長から結果は既に聞いています」


「そうか。王女様は知ってるみたいだが、ここにいる全員が知っているかはわからない。だから一応言っておくな。笹原君がレベル59、星野さんがレベル64、俺がレベル52だ。ほら、俺との約束があっただろ?」


「偉そうにしてますが、あなたが1番レベルが低いではありませんか?」


「俺は途中から調べ事があってダンジョンに潜っていない。レベル上げなんてものは後から本格的にやればいい。褒めてくれるんだろ?」


「……主人に褒めてもらいたくてこんなに頑張るなんて見上げた忠誠心。さすが犬ね。褒めて遣わすわ」


「まあ……いいだろう。それで許してやる。俺がレベルを言った時の表情からして、ここにいる者の中にこれよりも良い成果を出せる者がいるようには思えないが……、そうなるとここにいる者は皆犬以下ということだな。ははは、愉快だな」


「ぐぬぅ」「くそ」

周りから悔しがる声がちらほら聞こえる。

演技とは関係なく、バカにされたことに対して感情が抑えられないようだ。


「話を戻してやる。明日から武具探しに行くんだろ?王女も一緒に行くことになるだろうから先に言っておく。俺は王女と同じ馬車にしろ。この2人は別の馬車だからな。2人のレベルを上げた俺に王女様と同じ馬車に乗るという褒美を寄越せと言っているんだ。言いたいことはわかるだろ?」


「何故、犬が知っているんですか?」

王女が動揺している。

犬と言いながらも敬語になっている。


今回は武具の話も巫女の話も何もしていない。

王女からしたら、俺が武具探しに行くことを知っていることが既におかしいのに、自身も同行することを知っているのは不可思議でならないだろう。


どうせ、最初の時のように驚かせようとでもしていたはずだ。


「調べ事をしていたと言っただろう?」

俺はドヤ顔で王女に言ってやった。

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