第13話 再戦
魔王が封印されている荒野に到着する。
前回同様、王女により俺達を貶すのが目的と思ってしまうような作戦を言われる。
役割は前と同じだ。
王女が封印を解き、俺が魔王と対峙する。
笹原君は魔法で魔王を攻撃して星野さんが回復を担当だ。
想定通り星野さんのレベルは100を超えたくらいだけど、笹原君のレベルは350程と前回より少し高いくらいだ。
何故かと思ったけど、星野さんと行動を共にしていた為、星野さんのレベルに合わせた所でレベル上げをしていたようだ。
過剰な期待をしてしまっていたけど、前回のレベルでも笹原君の魔法は魔王に傷を付けていた。
それよりも威力は上がっているはずなので問題は無いと思いたい。
王女が祭壇に近づき、封印を解く。
魔王は時間が経つにつれて、本来の力を取り戻していくのがわかっているので、先手必勝とばかりに出てきた瞬間を狙う。
この一撃で終わらせるくらいのつもりだ。
不意打ちなんて、勇者にあるまじき行為ではあるが、綺麗事を言っている場合ではない。
仕留めるつもりだったけど、すんでのところで避けられた。
しかし完全にではない。深手は与えた。
魔王に傷を与えても、時間が経つにつれて傷は塞がっていってしまうので回復させる隙は作らせない。
俺は魔王に剣撃を連続して仕掛ける。
前回と違い、守りに重点を置かなくても今のところ何とかなっている。
魔王が本調子になる前に決着をつける。
俺が守りを多少疎かにしても、星野さんが回復してくれて、笹原君も魔王に攻撃を仕掛けてくれる。
明らかに魔王の傷が塞がるよりも早く、次の傷を与えている。
魔王はどんどんとボロボロになっていく。
いける!
俺はこのまま討伐出来ると思った。
「くわはぁっ」
俺がそう思った矢先、後方から何か声が聞こえた。
振り向くと笹原君が口から血を吐いていた。
笹原君の胸には何かが刺さっている。
刺さっているものがすぐにはわからなかったが、笹原君の体から抜かれて正体に気づく。
尻尾だ。
魔王は俺と戦いながらも、尻尾を地中に隠しながら笹原君を狙っていた。
俺は守りに重点を置き、星野さんが笹原君の回復に専念できるようにする。
しかし、星野さんは笹原君を回復させようとして膝から崩れ落ちた。
俺はそれを見て察してしまった。笹原君は死んでしまったのだと。
笹原君を失い、星野さんは呆然としてしまい動けない。
受け入れがたい現実に俺も立ち尽くしそうになるが、なんとか踏ん張る。
俺は一縷の望みに掛けて、魔王と戦う。
そして全身ボロボロになりながらも魔王の首を落とした。
やった……倒した。
この後、地球に帰る時に女神が願いを叶えてくれるはずだ。
王女と違い、笹原君を助けたところで世界が滅ぶわけではない。
なんとか笹原君を生き返らせてはくれないだろうか。
俺がそんな事を考えていると、首を落としたはずの魔王の体が動き、尻尾が俺に向かって勢いよく伸びてきた。
俺は咄嗟に避ける。
しまった……
そう思った時にはもう遅かった。
俺が避けた尻尾は途中で軌道を変えて星野さんを貫通した。
「人間にしてはなかなかやるな。だが残念だったな。俺はこの程度では死なない」
魔王は転がった頭を掴み、首へと置く。
意味がわからない。
どうしたら魔王を倒せるのかがわからない。
しかし、魔王は無防備で攻撃を受けているわけではない。
ちゃんとダメージは負っているはずだ。
星野さんも亡くなってしまい、回復手段を失った俺はそれでもなんとか差し違える覚悟で魔王の心臓に剣を突き刺した。
魔王は苦しみ、口から血を吐くが死にはしない。
そして俺も殺されると思った瞬間、魔王が祭壇へと吸い込まれた。
女神に見せてもらった光景と同じだ。
「ごめんなさい。私が魔王を倒せるのではと夢を見てしまったせいで、無駄に命を散らせてしまいました。ごめんなさい。ごめんなさい」
姿を現した王女が笹原君と星野さんの遺体を見て謝りながら祭壇の中へと入っていった。
これが俺がやりなおした結果なのかよ。
王女は救えず、死ぬ運命になかった笹原君と星野さんまで犠牲にしてしまった。
俺だけこうして生き残ってしまった。
何故こうなった……。
いや、答えはわかっている。
魔王を本気にしてしまったからだ。
前回、魔王は本気を出していなかった。本調子ではなかったというのもあるが、俺達を痛ぶるかのように遊んでいた。
だから笹原君が攻撃された時も即死しなかったし、最後俺の回復も間に合ったのだろう。
ただ、今回は魔王を本気にさせてしまった。
どうやれば倒せたのかは知らないが、俺は魔王を追い詰めてしまった。
だから魔王は不意打ちのような形で笹原君を殺し、負ける目を完全に無くす為に、動こうとしていなかった星野さんまで殺した。
王女も俺が魔王を圧倒しているから、封印ではなく討伐が出来るかもと思ってしまったのだろう。
多分封印するだけなら初めの不意打ちで深手を負わせた時に出来たはずだ。
気を持たせてしまった結果がこれだ。
全て俺が招いたことだ。
悔やんでも悔やみきれない。
しばらくして騎士団長が迎えにやってくる。
「勇者様、ご無事ですか?」
騎士団長に聞かれるが、俺だけが無事である。
「全て俺の責任だ。すまない」
俺は謝ることしか出来ない。
騎士団長は俺の言うことがよくわかっていなかったが、2人の遺体を見つけて理解したようだ。
「何があったか聞いてもいいですか?」
「……魔王と戦った結果、俺の不注意で2人を死なせてしまった。王女は泣いて謝りながら祭壇に入っていったよ。全て不甲斐ない俺の責任だ。考えが足りなかった」
「自分を責めないで下さい。賢者様と聖女様のことは残念ですが、勇者様は世界を救ってくれました」
「慰めはよしてくれ!……悪い、1人にしてくれないか?」
「今の勇者様を1人にするわけにはいきません。一緒に城に戻りましょう。勇者様はご自身が不甲斐ないと言いましたが、勇者様は私達の予想を超えておりました。勇者様を責めるものなどおりません」
騎士団長はそう言うが、自分で自分が許せないのだ。
騎士団長がなんと言おうと、俺が選んだ結果で犠牲が増えたことに変わりはない。
俺はふらふらとした足取りで馬車に乗り、城へと揺られる。
城へと向かう途中、俺は後悔しながらもどこで間違えたのかを考えていた。
このまま終わらせてはいけない。
助かるはずだった笹原君と星野さんを死なせたままにしてはいけない。
だからもう一度俺はやりなおすと心に決めはしたけど、何を間違えたのかがわからない。
魔王を追い込んで本気にさせてしまったから犠牲を増やしてしまった。これはわかる。
だけど、魔王を倒さないことには王女を救う未来は訪れない。
思考をぐるぐると巡らせた結果、俺は1つの答えにたどり着く。
俺は魔王を討伐しようとしてはいたけど、どうやって魔王を倒すか何も考えていなかった。
馬鹿みたいにレベルを上げていただけだ。
だから魔王が尻尾を隠して笹原君を狙っていることにも気づかないし、後ろに星野さんがいても避けてしまう。
もしかしたら、首を落としても魔王は死なないことを前もって知ることも出来たかもしれない。
どれもたらればの話ではあるけど、これは俺の考えの甘さが招いた結果だ。
王女は魔王を封印する為にちゃんと計画を練って準備をしていたはずだ。
限られた時間の中で俺達の安全を考えながらも魔王と戦えるだけの力を付けさせた。
だからこそ、結果として3人とも生き残り、魔王の封印に成功した。
最後まで悪役を演じきった王女は、俺とは覚悟が違った。
素顔を見せたのは俺が見間違いだと勘違いした最後の時だけだ。
城に戻るまで俺は騎士団長を質問攻めにする。
騎士団長にはわけが分からないだろうが、魔王について知っていることを根掘り葉掘り聞き出す。
それから王女や巫女についてもだ。
城に着いてからも、2人を死なせてしまった以上、心の整理が着くまでは帰りたくないと送還されることを拒み続け、魔王や勇者、巫女、賢者、聖女と関係がありそうなことは片っ端から調べる。
限られた時間を調べ物に費やすのはもったいない。
だからやりなおす前に調べ尽くす。
それにやりなおした後では王女によってこうやって自由に調べることも出来なくなる。
俺が過去に戻るつもりだと周りは知る由もないので、哀れむような目で見られていたが、ついに魔王討伐の道筋が立った。
俺は騎士団長に頼み、送還してもらう。
白い空間にやって来て目の前には女神であるクロノア様がいる。
願いを叶えた本人だからかクロノア様は俺がタイムリープしていることは把握していた。
「頼む!俺をもう一度過去に送ってくれ。今度こそ魔王を討伐して、王女も笹原君も星野さんも全員無事なまま全てを終わらせる」
俺の願いは決まっている。
望みが何かを聞かれる前に俺は言った。
「それは出来ません。あなたの望みは既に1度叶えました。2度叶えることは出来ません。あなたをここに呼んだのは望みを叶えるためではなく、あの世界で得た力を無くして頂き、地球に帰ってもらう為です」
帰ってきた言葉は無情なものだった
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