第12話 限界を目指す
「なんで俺はお前と一緒の馬車なんだ?」
俺は王女に聞く
「いだだだだだ」
首に痛みが走る
「主人に向かってなんて口をきくのかしら。この駄犬は。私と同じ馬車なのは、3匹のなかでレベルを1番上げたご褒美よ。泣いて喜びなさい」
実際は俺を監視下にでも置きたいのだろうけど、誤魔化すにしても褒美扱いは酷いな。
「嬉しくもなんともないんだが?……いだだだだ」
「犬は犬らしく主人が褒めているのだから尻尾を振ってればいいのよ。ほら本当は嬉しいんでしょ?嬉しいならワンとお鳴き」
褒めてなんてなかっただろう。
「……嬉しくないって言ってるんだだだだだ」
「間違えてますわよ。ワンと鳴くのよ。あなたは私の犬なの。わかったかしら?」
「……いだだだだだ」
こいつ、やるまで痛めつける気だ。
よくも演技でここまで出来ると逆に感心するわ。
それからも王女との攻防は続く。
攻防といっても俺が一方的に痛めつけられているだけだけど……
「………ワンと言いなさい」
「……わん」
拒み続けていたら、結局、首輪の力か巫女の力かは知らないが強制的に言わされた。
痛がりながらも王女の方を見ると顔を歪めていた。
そんな辛そうな顔をするならやらなければいいのに。
「なに辛そうな顔してるんだよ?痛いのはこっちだぞ」
俺は王女に言ってみる。
実は無理してました。本当はこんなことしたくないんです。とか言ってくれないかな……
「あなたの顔が見苦しかっただけよ。それにやかましかったの。耳が腐るかと思ったわ」
言うわけないか。
「俺にはためらってるように見えたけどな。前にも、俺は隠し事してるだろって言っただろ?そういうところで違和感を感じるんだよ。どんな事情か知らないが、言ってくれれば相談くらいは乗ってやるぞ」
「気持ち悪い。痛めつけすぎて壊れちゃったのかしら。困ったわね……城に戻ったらお父様に相談しないといけません。痛みが快感に変わってしまった犬の躾はどうすればいいのかしら?おしおきされたくておかしな事を言ってくるけど、私にはこの変態の躾は難しすぎるわね」
せっかくこっちがあの手この手で本音を聞いてやるって言ってるのに、答えはこれか。
この王女、意思が強いというか、肝が座りすぎているな。
封印する時に自分が核となって死んでしまうというのに、見ず知らずの異世界人に気を使って最後の1年をこんな風に過ごすとか、どれだけお人好しなんだよ。
まだ子供なんだからもっとわがままを言えばいいのにな。
「変なこと言って悪かったな」
折れることは無さそうなので、魔王を討伐するまで悪役に付き合ってやるか。
「謝ってもご褒美はあげませんよ。期待しているのがエサなのか、痛みなのか、罵倒なのかはわかりませんが……」
「それはどれも褒美ではないだだだだだ」
否定しようとしただけなのに痛みが与えられた。
「やってしまったわ。思わず褒美を与えてしまったわね。主人を不快にさせて褒美をもらおうとするなんて、なんて図々しいのかしら」
俺はこれ以上の会話をやめる。
これ以上は俺の心が保たない。
俺は進む方向だけを教え、無言のまま馬車は進んでいく。
夜、テントで寝ようとした時に騎士団長に聞かれる。
「勇者様は何故、聖女様の武具の場所までわかるのでしょうか?文献によると武具は選ばれた者と惹かれ合うとあります。勇者様の武具の場所がわかったのは不思議ではありませんが、聖女様の武具まで勇者様を呼んでいるのですか?聖女様ではなく、勇者様を」
そんなの一度探しているからだけど、そんなことは言えないので適当に答える。
「勇者がいないと聖女や賢者、巫女の武具は見つからないとも書いてあったんだろ?それはこういうことじゃないのか?何故か聞かれても、異世界人の俺は、はっきりとした答えなんて持ってないぞ」
「そうだな。すまない、変なことを聞いた」
「疑問に思うのは仕方ない。俺も自分がなんで分かるのか不思議だからな」
女神様は疑われたら何か納得のいく理由をつけろと言っていたけど、何を話しても墓穴を掘りそうだから、勇者だから分かるんだということで大体のことはゴリ押しするしかない。
翌日からも武具集めは順調に進み、聖女の武具を見つけ、賢者の武具を見つけた。
前回同様、笹原君と星野さんは先に城に戻り、レベル上げを再開することになった。
回復メインの星野さんは攻撃手段が限られているので、魔物を倒すことが少なく、時間が増えたとしても、前回同様レベルは100くらいになるだろう。
その分笹原君が魔物を倒すので、前回は300くらいだったレベルを、今回は500くらいまで上げてくれることを期待する。
その後、巫女の武具も見つけ城に戻ってくる。
前回半年くらい掛かった武具探しが1ヶ月ちょっとで終わった。
前回は武具を揃えてから100日くらいしかレベルを上げる時間がなかったが、今回は200日以上は残っている。
流石に階段の位置までは覚えていないけど、200階層以降もどんな魔物が出るかはわかっているので、前よりは早く500階層付近までは潜れるだろう。
あのダンジョンが何階層まであるのかは知らないけど、気持ち苦戦するかしないかくらいのところでレベルを上げたい。
城に戻ってきた翌日から、すぐにレベル上げを再開する。
俺の隣には騎士団長の他に王女もいる。
今は前回踏破した150階層ではなく、110階層にいる。
理由は王女がまだここまでしか進んでいないから、3人で150階層に転移出来ないからだ。
「勇者様、私は150階層まで進んだ所で城へと戻ります。そこからは王女様と2人で進んで下さい。巫女である王女様であれば武具も見つかっているので、勇者様の足を引っ張ることなく問題なく戦えるでしょう。私では以前勇者様が言われた通り足手まといになってしまいますので、大変かと思いますがよろしくお願いします」
騎士団長に耳打ちされる。
大変だというのは、レベル上げで魔物と戦うことではなく、王女からの仕打ちに耐えることを言っているのだろう。
前回、王女がレベル上げには真剣なことは見ているので、ちょっかいを出されるのは最初の頃だけだろう。
途中からは俺にちょっかいを掛けるより、魔物を倒す事を優先してくれるはずだ。
騎士団長と分かれて王女とレベル上げを始めて半月程、今回も予想通りレベル上げに集中出来る状態になった。
俺を犬扱いすることに変わりはないが、レベル上げに支障をきたすことはしてこない。
下の階層を目指す為に、階段を探している間は王女のレベルを上げることを優先した。
巫女である王女は攻撃の手段が少ない。役割としては支援がメインだからだ。
自身も強化することが出来る分、聖女よりは戦えるという程度の違いしかない。
俺が魔物を倒し続けてしまった場合、今度は王女が俺について来られなくなり、1人にはさせてもらえない以上、中途半端な階層でレベルを上げることになると思われる。
それでも前回に比べて断然レベルは上がるだろうが、それで魔王を倒せるとは限らない。
魔王には限界までレベルを上げて挑みたい。
頑張りすぎて、戦ってみたら楽勝だったくらいでちょうどいい。
そして魔王の封印を解く日が近づき、レベル上げは終了した。
俺のレベルは800を超えている。
仕方のないことだけど、200階層からは地図がない為に階段の位置が分からず、500階層辺りからは前回の情報というアドバンテージがないので、進むペースがさらに遅くなった。
前回に比べてかなり強くなった実感はあるけど、まだ成長の限界ではない。
うまく立ち回ったつもりではあるけど、やはり時間が足りないのだ。
これで果たして魔王を討伐することは出来るのだろうか……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます