第11話 1人になりたい
武具を見つけた俺は、城に戻ってきた。
勇者がいないと3人の武具は見つからないので、後10日もすればまた旅に行くことになるだろう。
とりあえずその間もダンジョンに潜らせてもらおう。
ダンジョンに潜りなおしてから5日、騎士団長が周りの魔物に苦戦し始めた。
もうすぐダンジョンの150階層を超えるくらいだけど、前回はこの辺りから騎士団長とは別れて王女と2人でレベル上げをしていた。
騎士団長には城に残ってもらい、1人でダンジョンに潜りたいのだけれど、先日の件が足枷になっている。
好き勝手レベルを上げられるように首輪を外したかったわけだけど、結果として警戒が強くなっただけだ。
元々あったかどうかはわからないけど、信用を失った。
そうは言っても、このままでは騎士団長が不意打ちを食らっても死なない程度の階層までしか行けない。
王女が核となることを後悔して戻ってきたというのに、やりなおした結果、騎士団長が死んだら意味がない。
しかし、それだとレベルがあまり上がらない。
「俺はもっと下の階層でレベルを上げたいんだが、正直に言って騎士団長は足手まといだ。1人で行かせてくれ」
俺は騎士団長に告げる。
「……それはわかっている。しかしそれだと勇者様に何かあった時に助ける者がいない」
「俺が危険になる程の時に、騎士団長に何かが出来るのか?」
「……盾となり逃げる隙くらいは作ってみせる」
本当にやりそうだから困るんだ。
「騎士団長が死ぬところなんて見たくないんだが?それに騎士団長を守りながら進む方がよっぽど危険だ。効率も悪い。良いことが何もない。別に逃げたりはしないから1人で行かせてくれ」
「……正直にお話しします。王女様より勇者様を1人にするなと言われています。何故かはご自身が1番お分かりでしょう?私が近くにいて隷属の首輪に触るなと命令を出し続けなければ、いつまた首輪を外すかわかりません。ただ、勇者様の身を案じているというのも事実です。勇者様は1人で戦えると申しておりますが、毒や呪い・麻痺等により動けなくなることがあるかもしれません。状態異常を治す薬も私は持っています。勇者様も持っていらっしゃいますが、動けない状態では薬を飲むことも出来ないでしょう?」
「首輪を外したのはペット扱いが鬱陶しかったからだ。別に隷属しなくても魔王討伐には協力してやる。討伐しないと俺も含めて皆死ぬんだろ?俺は元の世界に帰りたいんだ。こんなものがなくても協力くらいしてやる。それから、状態異常になってもこの鎧が勝手に治してくれる。確かに少しの間動けなくはなるが、死ぬ前には動けるようになる。だから問題はない」
「このダンジョンは200階層までしか踏破されていない。その先にどんな魔物がいるかわからない。そういった油断で命を落とすことになるんだ」
騎士団長はそういうけど、前回500階層付近までは降りている。
階段探しがメインとなってしまい、全ての魔物と戦ったわけではないけど、動きがすばやかったり、空を飛んでいたりして苦戦する相手はいても、命の危険に陥る相手はいなかった。
だから少なくてもその辺りまでは1人でも問題ない。
ただ、タイムリープしていることを言わずにそれを説明する方法は思いつかないので、反論することが出来ない。
俺がそのことを知らなければ、騎士団長の言っていることは間違ってない。
「油断しているつもりはない。魔王は1000年前の時点で討伐出来ない程に強かったから封印したんだよな?騎士団長の言うことは分かるし、俺の身を案じてくれているのは嬉しいたが、そんなに悠長にしている時間はあるのか?魔王は封印されていても少しずつは力を増しているんだろ?」
「勇者様が協力的であるおかげで当初の予定よりも順調です。時間が足りているとは言いませんが、危険を冒す時ではありません」
順調といっても、それは封印する場合で考えているからだ。
前回、魔王との力量差は測れない程にあった。
前回よりは強くなるだろうけど、討伐出来るビジョンは見えない。
「俺の考えは変わらない。王女にも伝えといてくれ。あの王女ならレベルを上げに行くことを許してくれるだろうさ。俺がそれで死んだとしても笑ってるんじゃないか?」
騎士団長は王女の命を聞く以上、騎士団長を説得しても無駄だ。
俺は騎士団長との話を止めてレベル上げに専念する。
翌日、早めにレベル上げを切り上げさせられて王の間に連れて行かれた。
笹原くんと星野さんも集められている。
「少し早いですが、進捗を聞きます」
予定の1ヶ月までには後5日あるけど、予定を繰り上げて進めるようだ。
俺のレベルは現時点で150を超えたところだ。
笹原君と星野さんは信じられないようなので、俺は特別な装備を使っていることを説明する。
笹原君と星野さんが頑張っていないから差が開いているのではないことを理解してもらう為だ。
笹原君は46、星野さんは30までレベルを上げていた。
少し早いことを考えれば、大体前回と同じくらいだ。
俺以外は前回と同じような筋道を通っているようだな。
「騎士団長、準備は出来ていますか?」
「いつでも出発出来ます」
「では明朝出発します。説明は任せました」
「はっ!」
王女は退出する。
「何をやらせるんだ?」
わかっているが、知らないはずのことなので聞く。
「専用の武具を探しに行く。勇者様は既にお持ちですが、賢者様と聖女様の武具は勇者様がいないと見つからないと書物に書かれています。なので勇者様にも同行してもらいます」
「わかった。準備しておく。巫女には武具はないのか?」
「あ、あの、僕達以外に召喚された人がいるんですか?」
笹原君に聞かれる。巫女も召喚された日本人だと思ったのだろう。
「王女は巫女だった。俺も先日知ったが、賢者や聖女と同じような存在だって言ってたから、巫女にも武具があるのか聞いたんだ」
「……そうですか」
笹原君は落胆の色を隠せない。
王女の本性を知らない笹原君からしたら、魔王と戦う仲間が増えるかもと思ったら、それがあの王女だというのはショックが大きいだろう。
それにこういった状況では、同郷の人が多ければ多い程、安心するとも思う。
「それでどうなんだ?」
俺は騎士団長に再度聞く
「勇者様の言う通りです。巫女にも武具は存在しますので、武具探しは王女様も同行します」
「それなら馬車は王女と俺達で別にしてくれ。俺は構わないが、2人には王女と馬車の中で長時間過ごすのは苦痛だろう。騎士団長のほうで何か理由をつけて分けてくれ」
どうせ茶番が繰り広げられるのだ。時間がもったいない。
それに、自分の武具を探しに行っている間、王女の本性を知っていて、演技だとわかっていても殴りたくなるほどイラついた。
言わなくても別の馬車になるだろうけど、俺がやりなおしているせいで同じ馬車になる可能性もある。
そしたら2人が可哀想だ。
「なんとかしよう」
騎士団長はそう言った。
翌日、馬車は願い通り4台ある。
王女用と地球組用と騎士団長含め使用人用と荷馬車の4台だ。
そう思っていたのに、何故か俺は王女と同じ馬車に乗せられている。
確かに俺は構わないと言いはしたけど、勘弁願えないだろうか……
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