第10話 解放
「本当にこんな所に武具があるのかしら?」
王女が山を登りながら言う。
ちゃんと俺をロープで繋いだままである。
「この先に武具がある気がする」
俺は答えて、洞窟に向かって歩いて行く。
前回はこの山の近くの村で、洞窟に魔物が棲みついたから助けて欲しいと言われて、武具を探す当てがあるわけでもなかったので討伐する為に訪れた。
今思えば、村の人が騎士団長や王女に頼み事をしている時点で、王女が慕われていると気づいてもよかったのではないかと思う。
多分、王女が悪人のフリをしているのを知っているのは城にいる人だけなのだろう。
まああの時は、王女は害悪だと思ってしまっていたので、違和感を感じることはあっても、実は皆に慕われる良き王女だったなんて気付くのは無理か……。
山を登っていき、中腹辺りにある洞窟の近くにやってきた。
「あの洞窟が気になる。入らないか?」
この洞窟の奥に勇者の武具がある。
「騎士団長、中を見てきなさい」
王女が騎士団長に洞窟の中を確認させにいく。
「魔物がいるかもしれない。気をつけてくれ」
俺は騎士団長に注意喚起する。
魔物が住み着いているのを知っているからだ。
騎士団長がやられる程の相手ではないけど、不意を突かれると怪我をするかもしれないくらいの相手ではある。
騎士団長が洞窟に入っていってしばらくして、俺達の前に魔物が現れた。
洞窟の外に出ていたようだ。
熊と虎を混ぜたような魔物だ。
俺は剣を構える。
しまったな。今の俺には少し荷が重い。
そう思っていたけど、問題なく討伐出来た。
王女が力を隠すのを諦めたのか、力を貸したからだ。
巫女の力で俺は力が湧いてきて、王女自身も戦った。
「ありがとう」
助けられたことに礼を言う。
「ペットを守るのも主人の務めなのだから当然のことをしただけよ」
「なんだか急に力が湧いてきたんだが何か知らないか?」
「主人を守らないといけないと思ったのでしょう?やっとペットとしての自覚が湧いてきたようね」
巫女の事を話す気はまだないようだ。
どうせもう少ししたら教えるのだから、言ってしまえばいいのに……。
「ご無事ですか!?」
騎士団長が慌てて洞窟から出て来た。
「ああ、大丈夫だ。王女は戦えたんだな。知らなかったよ。おかげで助かった」
「無事でなによりです」
騎士団長は王女が力を見せたことに驚いているようだ。
元々今回の旅で力を見せる予定はなかったのだろう。
俺を助ける為に動いてしまっただけのようだ。
本来の王女の姿が垣間見えた気がした。
「洞窟の中はどうでしたか?」
王女はさっきの事は無かったことにするかのように、話題を変える。
動揺が見てとれる。
「はっ!洞窟の中には魔物の姿はありません。洞窟の奥に不自然な空間がありましたが、何もありませんでした」
「そこに武具がある気がするな」
俺はそう言って洞窟の中に入る。
騎士団長の言う通り、洞窟内には魔物の姿は無かった。
さっきの魔物が棲家にしていたせいで、他の魔物が寄り付かなかったのだろう。
自然に出来たとは思えない綺麗なドーム状の空間の真ん中に俺が行くと、隠されていた武具が現れた。
「本当にあったのね……」
王女が素の声で呟く。
俺は武具を付け替える。
力が湧いてくる。やはり破格の性能だ。
「勇者様、異変はありませんか?」
騎士団長に聞かれる
「何も問題はない。この装備はすごいな。騎士団長、手合わせを頼めないか?」
俺は騎士団長に模擬戦をしてもらえないか頼む。
「……わかりました」
騎士団長は王女に確認をとった後、了承した。
俺は騎士団長と対峙して、剣を交える。
体を慣らすように、少しずつ力を込めていく。
「これが本気か?」
騎士団長に確認する
「……はい。その通りです」
俺はまだ力の1割も出していない。
専用の武具の力はやはりとんでもないな。
「そうか。ならもうこれはいらないな」
俺は隷属の首輪に手を当てて解呪の言葉を言う。
ガチャリと首輪が外れる。
これで散歩ごっこも終わりだ。
「なっ!」
騎士団長は驚きながらも、王女を後ろにして剣を構える。
「害する気はないから安心してくれていい。首輪の外し方は前からわかっていたが、外したところですぐにまた首輪を嵌められたら敵わないからな。力を得るのを待っていただけだ」
「この為に武具を求めたのか?」
騎士団長に言われる。
「首輪を外したのは鬱陶しかったからだ。色々と聞きたいことがあるんだが、聞かせてもらっていいか?嫌なら俺はもうお前らの言うことは何も聞かない。城からも出て行く」
「……何が聞きたいんだ?」
騎士団長はずっと自身の後ろに王女を隠したままだ。
「まず、何故そんな顔で王女を守っているんだ?娘を人質に取られてるんだろ?俺が今までの仕返しだと王女を手にかけた方が都合がいいんじゃないのか?」
「……王女様を守るのは騎士団長として当然の行為だ。娘の件は関係ない」
「そういうのはもういい。ずっと隠し事をしてるだろ?それを教えろ」
「……隠し事などしていない。1年もしないうちに魔王の封印が解けてこの世界は滅びる。そうならない為に勇者様を召喚した」
「……王女に聞く。隠し事をしているだろ?さっき洞窟の外で使った力はなんだ?主人を守る為に力が湧いてきたなんてことはないが?」
「はぁ。躾を間違えたのかしら。いいわ、武具を見つけた褒美に答えてあげる。私は巫女なの。賢者や聖女と同じような存在よ。特別な力が使えるの」
首輪が無くなったというのに、悪役を演じるのはやめないんだな……
「隠し事はそれだけじゃないだろ?」
「何を言ってるのかしら?」
「城の連中が何かを隠していることには気づいているんだ」
「ひとつ教えて上げるわ。犬というものはね、主人から離れてしまっても帰ってくるものなのよ。それだけ主従の関係は強いの」
「何言ってるんだ?」
「一時の自由は楽しかったかしら?ほら私の前に来て跪きなさい」
首輪がないのに従うわけないだろ!と思ったが、体は無理矢理動いていく。
「どうなっている!?」
「元々私が隷属するには首輪など必要ないということよ。首輪は騎士団長でもあなたを痛めつけることが出来る様に付けているだけ。どうやって解呪の言葉を知ったかはわからないけど、また付けてあげるわ」
王女はそう言ってさっき外した隷属の首輪をまた俺に取り付けた。
「やっぱりその姿がお似合いね。ほらワン!と鳴いてみなさい」
「……わん」
抵抗したけどダメだった。
やっと解放されたと思ったのに……。
しかも解呪の言葉も変えられている。
これを取ることはもう出来ない。それに取ったところで王女には逆らえない。
「それでいいのよ。主人に逆らうなんて悪い子だと思ったけど、一度だけは許してあげるわ。私はなんて優しいのでしょう」
「俺が逆らえないことはわかった。でも隠し事をしていることは教えてくれ」
「騎士団長も言ったでしょう?隠し事なんてないわ。犬は黙って主人のために動いていればいいのよ」
話す気がないということか。
聞くのではなく、王女が悪役を演じていることに気づいていると言ってしまおうか……
「……。」
流石に気づいているのはおかしすぎるな。
王女が悪役を演じ続けていても、魔王を討伐してしまえばそれでいいか
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