第9話 散歩

翌日も騎士団長が迎えにくる。


「ヨシ、行くか」


「勇者様、ダンジョンに潜る前にお話があります」

武具のことかな?


「武具の件が決まったのか?」


「それもありますが、昨日のような勝手な行動はお控えください。強くなられようとして頂いているのはわかりますが、安全も考えた上で私の方でやり方は考えています」


「王女は限界までレベルを上げるように言ってたがいいのか?壊れてもいいとも言ってた気がするが……?」


「壊れてもいいとは言っていましたが、本当に壊すわけにはいきません。勇者様には魔王を討伐して頂かなくてはなりませんので」


「……それはあの王女も同じ意見なのか?」

騎士団長の反応が前回と大分違うのでスタンスを確認しておいた方が良さそうだ。


「私の独断です。王女様は本当に壊れてもいいと思っているかもしれません」

やはり王女は悪者という設定を変えるつもりはないようだ。

俺が強くなって、封印ではなく討伐が可能と思わせれば変わったりするのだろうか?


「そうか」


「それから武具の件ですが、王女様に話をしたところレベルを50まで上げろと言われました。私がレベル50にしろと言ったのが聞こえなかったのかとお怒りでした」


「レベルを50にすれば行ってもいいということか?」


「レベルが50になった時にまた話をさせてもらいます」

確約はもらえなかったのか。


「わかった。その時に頼む」


話が終わったところでダンジョンに入る。

今日は20階層に転移してレベルを上げる。


昨日と違い、騎士団長は俺がどんどんと先に進もうとするのを止めなくなった。

それどころかもっと戦えと言っている。

勝手なことはするなとは言ったが、レベルを上げることには協力的になったのか?

雰囲気が地獄を見せてくれたあの時と似ているが……。


「昨日と大分違うが、何か心境の変化でもあったのか?」

俺は騎士団長に聞く。


「勇者様には関係のないことだ。ほらあそこにも魔物がいるぞ」


「うりゃ。言いたくないことか?」

俺は魔物を倒してからさらに聞く。


「武具のことを王女様に話した時に、私の鍛え方が甘いからペットが勝手なことを言い出すのだと怒鳴られた。無駄口を開く元気もなくなるくらいまで追い込むように言われたよ」


「そんなことがあったのか」

王女が言わせているのはわかっているので、話半分に聞くことにする。


「なので動けなくなるまで戦ってもらいます」


「俺としてはそれでも構わないが、昨日と言っていることが随分と変わったな。昨日も王女から言われていたのは変わらないだろ?」


「……王女に娘を人質にとられたんだ。勇者様が元気にしていると娘が危険かもしれない。聞いたからには地獄を見てもらうからな」

ここでこの話が出てくるのか。

前回は騎士団長が可哀想だと思ったが、実際には人質にされていないだろう。

娘自体が存在しているかも怪しい。


「元々限界までレベルを上げるつもりだったんだ。そういう事情もあるなら、遠慮せずに鍛えてくれ」

そして俺は自分の言った言葉を後悔することになる。


騎士団長はちゃんと俺に地獄を見せてくれた。


もちろん命の危険はなかった。

ある程度危ない相手とは戦わせないようにしていたからだ。

しかし、休憩などは本当に必要最低限しか与えられず、宣言通り口を開く元気もなくされた。


キツイが時間が足りないのは分かっているので頑張るしかない。

まずはレベル50だな。そこでどうなるかだ。

少なくても武具を探す時間はかなり短縮出来るだろうけど、その分で魔王を倒せる程の力を得られるのだろうか……。


それからもレベルを上げる日々が続き、遂にレベルが50になった。

前はここまで来るのに20日以上掛かった。

今回はまだ10日くらいしか掛かってない。


「レベルが50になった。武具の件、今度こそ頼む」

俺は騎士団長に言う。


「話はするが王女には逆らえない。望む答えが得られなくても私を恨まないでいただきたい」

俺が言ったところで、罵倒されて終わるだけだ。


可能性があるとすれば、俺達がいないところで騎士団長が王女に話をした場合だ。

王女も武具があった方がいいとは思っているはずだ。

城の外に出ても問題ないと判断出来れば許可はくれそうな気がする。


「騎士団長を恨みはしない。どうせ俺が言ったところで犬扱いされて終わるからな」


翌日、騎士団長から結果を聞く。


「武具探しに出発することになった。準備は出来ているが、今日から行くか?」

行かせてくれることになったようだ。


「もちろんだ」


騎士団長と馬車に行く。


本当であれば俺以外の武具もこのタイミングで集めておきたいが、城の外が危険と言っている以上無理強いすることは出来ない。


とりあえず自分の武具が早めに見つかるだけでも良しとするしかない。


馬車には王女が乗っていた。

なんでいるんだ?

巫女の武具もこのタイミングで探して欲しいのか?


「王女も一緒に行くのか?」

俺は騎士団長に聞く


「いえ、そのような予定は……」

騎士団長は否定するけど、これはどっちだろう?


「ペットの散歩を主人がやるのは当然でしょう?それとも何か不満でもあるのかしら?」

王女が言う。


自分が巫女だったり、武具のことはまだ秘密にする気か?


「城の外は危険だって言ってたよな?王女を連れ出していいのか?」

実際には戦えることを知ってはいるけど、実際に外で魔物と出会った時にどうするのか知っておきたい。


「……私がお守りします」

戦えない設定でいくそうだ。


「私の盾となる栄誉を与えます」

王女が言う。茶番だ。


馬車は1つしかなく、そこには王女が載っている。

また、馬車をもう一台用意することになるのか?


「私の前に跪きなさい」

王女に呼ばれる。

俺の意思とは関係なく王女の前に向かわされ、膝をつく。


「これでいいわね」

王女が俺の首に何かを付けた。


俺はつけられたものを確認する。

隷属の首輪にロープが付けられて、ロープの先は王女が握っている。


「なんてことするんだ」

俺はロープを外そうとする。


「散歩に行くのだから、ペットが悪さをしないようにするのは主人として当然でしょう?私の許可なくリードを外すことを禁止します」

くそ、外せなくなった。

女の子にロープで繋がれて犬のように外に行くとかどんなプレイだよ。

俺にそんな性癖はないぞ。


「さあ、散歩に行きますよ。この辺りに縛っておけばいいかしら」

王女はロープを馬車に括り付けた。

あろうことか馬車の中ではなく、外だ。


「おい!引きずって殺す気か」


「仕方ないですわね。我慢してあげますわ」

王女は括り付けられたロープを外して馬車に乗り込む。


今回は俺も同じ馬車で移動するようだ。

馬車には王女と俺、それから騎士団長が乗る。


基本的に魔物とは騎士団長が戦うそうだ。

俺に関しては、戦いたくても王女がロープを離してくれないことにはどうしようもない。


「ここに向かってくれ」

俺は地図を見せて、目的地を示す。


「向かわせてください。ご主人様でしょう?」

王女に言い方を訂正させられる


「……いだだだだだ」

言いたくないと思っていたら首に痛みが走った。


「なに?その不満そうな目は。私と散歩に行けるのですから、これほどの褒美はないでしょう?」


「……そうですね。向かわせて下さい」

これから数日、これが続くのかと思うと憂鬱になるな

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