第8話 勇者様

王女視点


「お父様、準備が整いました」

魔王の封印が近いうちに解けてしまう。

このままでは、早ければ1年で世界が滅んでしまう。


そうならない為にも、私は勇者様に頼るしかない。

この世界の為に異世界から無理矢理連れてくることに罪悪感を感じながらも縋るしかない。


「ツライ役回りをさせてすまない。何も出来ない父を許してほしい」

文献を読む限りでは、どれだけ勇者が強かろうと魔王を討伐する事が出来るとは思えない。


なので魔王は封印する。私の命を核として使って。


残された時間は限られている。

勇者様には申し訳ないけど、短期間でレベルを上げて戦えるようになってもらうしかない。


それから、勇者様には私を犠牲に魔王を封印することは秘密にしないといけない。それに親しくなってもいけない。


巫女である私は、勇者様と同じパーティとして魔王の元に行くことになる。

勇者様がお優しい方であれば、私が封印の核となろうとしていることを止めるかもしれない。

それに、私を犠牲に魔王を封印したことを悔やまれるかもしれない。

だから私は勇者様に嫌われるべく、悪役を演じる。

皆に慕われた王女は今日で終わりだ。

これからは悪政を敷く悪い王女に私はなる。

私が悪人であれば、犠牲になったところで勇者様は心を痛めないだろう。


私は召喚の魔法陣に魔力をこめる。


儀式は成功して勇者様が召喚された。


何故か3人いる。

20歳後半くらいの男性と15歳くらいの男性と女性の3人いる。

3人とも勇者様なのかな?


「ごめんなさい」

召喚が成功したことは嬉しいけど、こうして関係のない人を目にすると申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


「隷属の首輪をここに」

私は隷属の首輪を持って来させる。1人分しか用意していなかった。


「ごめんなさい。恨んでくれて構いません」

私は謝りながら、勇者様達に隷属の首輪を嵌める。


「丁重に王の間にお連れして」

目を覚ます気配がないので、王の間へと運んでもらう。


しばらくして、1番年上らしき男性が目を覚ました。


男性は私の方を見ている。


「何を見てるのかしら。穢らわしい」

私は心にもない事を言う。


酷いことを言ったはずなのに、何故か愛おしいものを見るような目で見られた。


「本当気持ち悪い。もしかして私みたいな子供が好きなのかしら?そんな目で見ないでくれる?」

私は嫌われる為に言う。


男性は怒ることもなく、静観している。

いきなり知らないところに連れて来られたのに、何故落ち着いているのだろうか?

普通なら騒ぎそうなものだけど……。


疑問に思っている内に若い方の男性も目を覚ました。

こちらはずっと困惑している。


さらに少しして女性も目を覚ました。

こちらもきょろきょろと周りを見ている。


「やっと全員起きたようね。あなた達は私に召喚されたの。この国の為に魔王を倒しなさい」

私は命令口調で召喚した目的を話す。

後からちゃんと説明する時間は設けているので許して欲しい。


それから3人のステータスを教えてもらう。

「やった。ナオト様……」

勇者召喚が無事成功していたことに声が漏れてしまった。


年上の男性のナオト様が勇者でトモヤ様が賢者、あいり様が聖女だった。

賢者と聖女についても文献に書いてあった。


賢者様は魔法に優れ、聖女様は癒しの力を使えるらしい。

巫女の私と同じく勇者様を支える存在だ。


勇者様を召喚することで、賢者様と聖女様も一緒に召喚されることは知らなかった。


私はずっと勇者様の様子が気になっていた。

ずっと達観している。


聖女様は泣いてしまっているというのに……。


私は確認も兼ねて、説明だということにして勇者様の隷属の首輪に痛みを走らせる。


ちゃんと隷属の首輪は機能しているらしい。


隷属の首輪の効果を説明したというのに、まだ焦る様子はない。

意味がわからない。


私は騎士団長に1ヶ月でレベルを50まで上げさせるように命令してから王の間を去る。


この後、勇者様達はこの世界のことや魔王のことを詳しく教えられることになっている。


説明が終わった頃に私は様子を見に行く。

賢者様と聖女様は元気がないが、勇者様は普通に見える。

勇者様達に嫌われる必要のある私は勇者様を犬扱いして、餌と称してパンを食べさせる。


当然拒否されたので、首輪で動きを縛って口にパンを突っ込んだ。

本当に酷い事をしてしまった。

私は落ち込む。


翌日、勇者様達がダンジョンから無事戻ってくるのを願いながら、隠れて私もレベルを上げる。

レベル上げを早めに切り上げて城で待ち、聖女様が最初に戻ってきたので様子を見に行く。


レベルは2に上がったようだ。


1日でこれだけかと悪態をつきはしたけど、内心は戦いを強制していることに申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


担当している騎士から詳しく話を聞く。

聖女様は戦うことが出来なかったそうだ。

それを騎士が首輪の力で無理矢理戦わせたらしい。


当初の予定通り、騎士の息子を私が人質にしていると話したそうだ。


聖女様は心身共に疲れ果てているそうだ。


私は騎士に、聖女様に無理をさせ過ぎないように、しかし真実には気付かれないようにと難しい指示を出す。


次に賢者様が戻ってきた。


レベルは4まで上がったらしい。


賢者様にも悪態をついた後、担当している騎士に話を聞く。

賢者様は遠距離から魔法で攻撃することもあり、初め以外は困惑しながらも戦えていたそうだ。


問題は最後に戻ってきた勇者様だ。

私が土で汚れた体をバカにして、どれくらい強くなったのか聞いたら、どれだけなら満足するのかと聞いてきた。


そんな事を言う程レベルを上げてきたのかしら?

いくらなんでも10まではいっていないと思う。良くて8というところだ。

だけど、言ったレベルよりも高かった場合、私は満足したことになってしまう。

それはダメだ。

だから、勇者様が言った事は無視して、なんて口を聞いているのかと叱ることにした。


勇者様が部屋に入った後、騎士団長から話を聞いて私は驚く。


「え……、本当ですか?」

勇者様は12までレベルを上げたらしい。


「はい、本当です。私の言うことをほとんど聞かずに20階層のボスまで倒しました」

確かに不可能ではないと思う。

だけど、いきなりこの世界に連れて来られて、出来ることなのかしら?


「危険なことはさせてないでしょうね」

私は疑問に思いながらも、騎士団長に1番大事なことを聞く。


「……私はずっと止めていましたが、勝手に突き進んで行くのです。20階層までであれば、装備の性能だけでも問題はありませんが、これから先になると危険があるかもしれません」


「首輪で痛めつけても構いません。取り返しのつかないことになるよりはその方がいいです。聞きたいのですが、何故勇者様は自ら危険に向かっていくのですか?魔物が怖くはないのでしょうか?」


「私にもわかりません。協力的な事は助かるのですが、異常としか思えません。もしかしたら勇者様は元の世界でも戦いに身を置いていたのかもしれません」


「聞ける機会があれば聞いておいて下さい。それと勇者様が戦いを望むのであれば、怪しまれないようにレベル上げは追い込んで下さい。危険は増すかも知れませんが、レベルを上げることは結果として勇者様の安全に繋がります。わかっていると思いますが、必ず勇者様はお守りするのですよ」


「かしこまりました。それから王女様にご相談したいことがあります」


「なんでしょうか?」


「勇者様が武具を探しに行きたいと言っています。城の外は危ないと言ったのですが、武具が呼んでいる気がすると……。勇者様は大人しくレベル20までは上げるから、5日でいいから探しに行かせろと言っています」

武具は選ばれたものと惹かれあうと書かれていました。

武具に呼ばれているなら、行かせた方がいいのかしら……。


しかし、城の外が危険なことに変わりはありません。


「レベル20というと……」


「このペースなら早くて明日になるでしょう」

そうですよね。


「許可します。ただしレベルは20ではなく50にしましょう。50であれば、当初の予定通りです。それから武具を探しに行く時は私も同行します」


「かしこまりました。勇者様にはそう伝えておきます」


「……私が同行することは今は言わないでください。面白半分で急について行くことにします」


「かしこまりました。王女様も無理をなさらぬように」


「ありがとうございます。私は大丈夫ですので、私の評価が下がるように、もっと勇者様達に悪評を広めてください」


「……かしこまりました」


「引き続き勇者様をお願いします」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る