第7話 レベルを上げなおす

翌朝、俺は騎士団長がやってくるのを朝食を食いながら待つ。


「ダンジョンに向かう。準備しろ」

騎士団長が部下に指示を出し、俺に装備を付ける。


「こんな装備でダンジョンに潜るのか?」

実際には立派な装備だけど、俺はケチをつける。


「その装備はこの国が誇る鍛治職人が作ったものだ。問題はない」


「昨日、俺達専用の武具があるって言ってたよな?それに比べてどうなんだ?」


「もちろんそれとは比べ物にはならないが、今のレベルで考えれば充分すぎる性能をしている」


「ダンジョンに行く前に武具を探しに行かないか?城の外がどれだけ危険か知らないが、あんたら騎士が守ってくれよ。それにこの装備は良いものなんだろ?時間が限られてるならまずは武具を揃えてから効率よくレベルを上げるべきだ」


「……やる気は買ってやるが、討伐までのことはこちらで考えてある。まずはレベル上げだ」

騎士団長は俺の言ったことに驚いたようだが、やり方を変えるつもりはないらしい。


さて、どうするか。


「それで本当に魔王を討伐出来るのか?」


「ああ、可能だ」


「嘘を吐くなよ。1000年前に討伐出来ないから封印したんだろ?なんで討伐出来るとわかる?気休めならよしてくれ」


「……討伐出来るように鍛えるのだ。いいから言うことを聞け」


「鍛えられるのが嫌とは言ってない。効率が悪いと言っているんだ」


「昨日来たばかりの人間に何がわかる。ダンジョンに行く。これは命令だ」


俺は首輪の力で無理矢理ダンジョンに連れていかれる


仕方ない。今日はレベル上げに専念しよう。

なんとか武具を探せるようにしないとな。


俺と騎士団長はダンジョンの中に入る。


「勇者様には魔物と戦ってレベルを上げてもらう。ちょうど見えるところにいるだろ?あいつを倒せ」


目の前にはスケルトンがいる


「あいつは?」


「スケルトンだ。装備のおかげで負けることはないから心配せずに倒せ」


俺はスケルトンの方に走っていき、剣を振り下ろす。


「……怖くはないのか?あれだけダンジョンに行くのを拒んでいたではないか」

騎士団長に言われる。


「ダンジョンに行くのを拒んではいない。先に武具を探すべきだと言ったんだ。城の外が危ないからレベルをまず上げるって言ったな。どこまで上げればいい?」


「……私の一存では決めかねる。1ヶ月後までにレベル50にはなってもらい、その後に武具を探しに行く予定だ」


「それはあの王女の命令か?」


「ああ。その通りだ」


「なら王女と交渉してくれ。そうだな、レベル20までは大人しくレベルを上げてやる。レベル20になったら5日でいいから武具を探しに行かせろ。その5日で武具が見つからなくても、これから1ヶ月後にはレベル50にはなってやるから心配するなとな」


「なぜそこまで武具を探しに行きたい?それからなぜそんなに冷静なんだ?」


「武具が呼んでいる気がするからだ。それに冷静ではない。冷静を装っているだけだ。暴れたところで元の世界には返してくれないんだろ?」


「……武具が呼んでいると言うのか?」


「ああ、だからこの装備でレベルを上げるのは効率が悪いと言ったんだ。下の階層にはもっと強い魔物がいるんだろ?どっちに行けばいい?」


「まずはここでレベルを上げる」


「この装備は良いものなんだろ?違ったのか?下の階層に行ったら本当に危ないのか?そんなに一気に敵が強くなるのか?」

俺と騎士団長では目指すところが違うんだ。

これも王女の優しさで危険に晒さないようにしているんだろうけど、ゆっくりやらせないでくれ。


「……そんなことはない」


「危ないと思ったら止めるから大丈夫だ」


「し、しかし」


「あんたらは俺のレベルを上げたいのか、上げたくないのかどっちだよ!こっちは早く魔王とやらを倒して元の世界に帰りたいんだよ。そのつもりがないならもう帰らせてくれ」


「わ、分かった。下の階層に降りよう」

良し!主導権はとったな。

実際には首輪には逆らえないわけだけど、ある程度は好きにやらせてもらわないとな。


俺はどんどんと下の階層へと降りていく。

前回の初日は5階層まで降りてレベルを5まで上げた。

怯えながらでも全く危なくなかった。

俺が勝手に怖がっていただけだ。


「少し待て!どこまで降りる気だ」

魔物を倒す為、俺が前を歩いている。

いちいち方向を聞くのは面倒だと地図は俺が持っているので、どんどんと奥に進んでいくことが出来る。


「まだ怪我をする気はしないから大丈夫だ」

俺は目の前のコボルトを倒しながら言う。


既に8階層まで降りてきている。レベルは3だ。

階段まで一直線に向かっているからレベルはあまり上がっていない。


「その扉は開けるな!」

10階層のボス部屋の前で騎士団長に言われる。


「この扉はなんだ?」

俺は扉に触りながら聞く。

騎士団長が止めた理由はわかるが、10階層ではレベルを上げるにはまだ敵は弱い。

俺は今日中に20階層まで行くつもりだ。

その辺りから装備だけでごり押しするのは厳しくなってくる。


「その先にはボスがいる。この辺りの魔物より頭一つ強いからまだ戦うべきではない。その扉を開けると倒すまで出られなくなるから離れるんだ」


「わかった……おっと」

俺は了承しつつも、躓いたフリをして扉を開ける。


俺はボス部屋の中に入り、扉はバタンと閉まる。

騎士団長は入り損ねたようだ。


10階層のボスはスケルトンだ。

ただのスケルトンではなく、魔法を放ってくる奴が5体いるわけだけど問題はない。


魔法に当たった所でこの装備が防いでくれるのは分かっている。


そうはいっても痛いのは嫌なので、魔法は出来るだけ避けながら倒す。


倒し終わった所で扉が開く。


「無事か!?」

騎士団長が慌てて入ってくる。


「心配をかけてすみません。大丈夫ですので次に行きましょう」


「……今日はここまでにする。ちょうど転移陣もあることだし戻るぞ」

ボスを倒すと次の階層への階段と地上に戻る転移陣が現れる。

次回はここから再開出来るようになるわけだけど、まだ昼過ぎなので当然断る。


「まだ昼過ぎですよ。帰るには早いと思うが?」

俺はそう言って下の階層へと降りる。

降りた時点で転移陣は使えなくなるので、歩いて地上まで戻るか先に進むかしないといけなくなる。

数時間もすればボスが復活するようなので、その後にもう一度倒せば使えるようになるけど。


「どこまで行くつもりだ?」


「かすり傷を負うところまでは行く。本当に危ないなら騎士団長が助けてくれよ」

俺はそういってさらに下へと降りる。


そして20階層まで降りてきた。

レベルは6になっている。

既に前回のレベルを超えた。やはりあの時は安全を気にしてかなり加減していたようだ。

地獄のように感じたのは俺の精神状態が影響していただけだったな。


「ここから先には近づくな」

騎士団長に言われる。

騎士団長が言う先にはボス部屋の扉がある。


正直、20階層のボスは倒せるけどこうなると思っていた。

躓いて入るなんて方法が通じるのは1回だけだ。


だから大人しくここでレベルを上げる。


相手はウルフだ。正式名称は知らない。

7階層付近にもウルフはいたから、上位のウルフだとは思う。


俺がここでレベル上げをしようとした理由は騎士団長に止められることを見越したのとは別に理由がある。

ウルフは群れで襲ってくる。

なので倒す数が必然的に多くなり、経験値も多くなる。


俺は無心になってウルフを倒す。


「そろそろ本当に止めにしよう。なぜそこまで頑張るのか分からないが、休息も必要だ」

俺はレベルを確認する。12か……。


こんなものだろう。

やはりもっと格上の魔物を倒したいな。

40を超えたあたりから装備の力で格上を倒す事が出来なくなるのはわかっているので、武具の力が早く必要だ。


「わかった、帰ろう」


「聞いてくれて何よりだ。首輪で無理矢理従わせたくはないからな」


「俺も嫌ですよ。腹が減ったし風呂にも入りたいな」


「使用人が準備しているはずだ」


「よし、それなら急いで帰るか」

俺はそう言ってボス部屋の扉を開け放つ


騎士団長はちゃんと置いてけぼりである。


20階層のボスはキラーウルフに取り巻きとしてさっきまで戦っていたウルフが5体。


レベルが上がる前でも倒せるとは思っていたけど、レベルも上がっているので楽勝だ。


俺はサクッと討伐する。


「いい加減にしろ!死にたいのか!?」

騎士団長に怒鳴られた。


「転移陣で帰るものとばかり思ってました。かすり傷一つないので危険なことはなかったです」


「首輪の力で隷属したくないと私は言ったはずだ。次はない」


「すみませんでした」

俺は謝っておく


転移陣で地上に戻り、部屋の前に行くと王女がいた。


「あら?随分とお似合いの格好をしているわね。ダンジョンに行ってきたのでしょう?どこまで強くなったのかしら?」


「どのくらい上げていれば満足なんだ?」

俺は聞くことにする。言ったレベルよりも低いくらいが想定しているレベルだろう。


「ご主人様への口の聞き方を忘れたのかしら?ほら、お座り」

王女は答えずに、俺への躾を優先しやがった。

俺は強制的に座らされる


「ほら、お手」

王女は手を出し、俺はその上に手を添える。


「よく出来ました。ほら今日の餌です」

昨日同様にパンをねじ込んだ後、王女は去っていった。


俺のレベルは聞かないのか?


「武具の件頼んだからな」

俺は騎士団長に念を押してから部屋に入る。


初日にしてはまずまずだろう。

やはり戦闘に慣れているという気持ちの違いは大きいな

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