第6話 やりなおす

日本に還されたのだと思っていたのだけれど、今俺がいるのは白い空間で目の前には綺麗な女性が1人いた。


笹原くんと、星野さんはいない。


「勇者様、この度は世界をお救いくださりありがとうございました」


「あ、はい……ここは?」


「ここは狭間の世界です。勇者様を今のまま地球にお返しするわけにはいきませんので、一度ここにお呼びしました」


「……そうですか」

人間離れした状態で戻らないようにはしてくれるそうだ。


「褒美も与えます。何を望みますか?」

女の子を犠牲にして世界を救ったのに、感謝の言葉を言われ、褒美をくれると言われても何も嬉しくはない。


「あんたは結末を知っているんだよな?」


「もちろんです」


「魔王が封印されたところを見ることは出来ないのか?」

見たところで後悔が増えるだけなことはわかってるのに、見ないといけない気がした。


「気持ちのいいものではありませんよ?」


「いいから見せてくれ」


「わかりました」

女性が返事をした後、頭の中に俺が魔王に負けて気を失った後の光景が入ってきた。


やはりあの時のは見間違いでは無かったようだ。

王女は俺の方を見ながら礼と謝罪をした後、祈りを捧げて魔王を祭壇の中に吸い込んだ。

その後、寂しげな顔で自身も祭壇の中へと入っていった。


何をしたのかは分からないけど、封印したということだろう。


「王女も祭壇に入っていったが、どういう状態なんだ?」


「王女は封印の術式の核となっています」

騎士団長が言っていたのはこういうことか。


「聞いてなかったが、あんたは誰なんだ?」


「私はクロノアといいます。神の1柱です」

やはり神か。


「笹原君と星野さんはどうしてここにいないんだ?」


「笹原様と星野様は他の女神が対応しております」

1柱と言っていたし、他にも女神がいるのか。


「望みがなんだと聞いたよな?あの王女を助けることは出来ないか?このまま帰ったとしても気分が悪い」


「それは出来ません。巫女様をあの祭壇から出した場合、封印の核が無くなり、魔王も一緒に出てきてしまいます。そうなると世界が滅びます。世界を滅ぼす願いを聞くわけにはいきません」

無理か……。


「女神の力で代わりに核を用意して、王女と入れ替えることは?」


「魔王の封印は巫女だからこそ可能なのです。魔王を封印している核は最高神様の力を持ってしても作れません。それから、神が下界に直接手を加えることは出来ません。なので勇者や巫女といった形で力を与えているのです」

あの超人的な力は神から与えられたものだったのか……。


「欲しいものを考えるから時間をくれ」


「わかりました」


俺は別の望みを考えるが、ずっと王女の顔が呪いのように脳裏をよぎる。

俺に暴言を吐くいつもの顔と、最後に見たどこか寂しげな顔だ。


「願いが決まった」


「望みを教えて下さい」


「俺を過去に飛ばしてくれ。王女が魔王を封印する前に、もっと鍛えて、封印ではなく今度こそ討伐する。まだ俺は成長の限界ではなかった。時間があればもっと強くなれたはずだ」


「過去に戻りたいと。それがあなたの望みですか?」


「そうだ。出来るか?」


「あなたの思っている通りには出来ませんが方法はあります」


「あるのか……」

無理目な望みを言ったけど、出来るようだ。

ただ、望み通りというわけにはいかないらしい。


「はい。但し条件があります」


「聞かせてくれ」


「まず、あなたが過去に戻った場合、同一人物が2人いることになりますよね?」


「そうだな」


「それは出来ません。なのであなたには過去の自分に同化してもらいます」


「同化というのがよく分からない」


「過去の自分の体を乗っ取ると考えていただいて構いません。実際には違いますが、そう考えていただいて結構です」


「……なんとなくはわかった。過去に戻れるならそれでいい」


「同化した場合、今のあなたの力に過去のあなたは耐えることが出来ません。なのであなたにはレベル1に戻ってから過去に飛んでもらいます」


「弱体化して過去に戻らないといけないのか?」


「そうです。それからあなたがタイムリープしていることは秘密にしてください」


「……俺にその気がなくても、怪しまれることがあるかもしれないがそれはいいのか?」


「そのくらいは許容します。これは世界のバランスを崩さない為ですので極力守ってください。何の脈略もなく、あなたの立場で知り得ない事を言うのはいけませんよ。何でも良いので相手が疑うなら理由をつけて下さい」


「ああ、わかった」


「それではあなたを過去に送ります。本当によろしいですか?」


「頼む」


俺の体が光りだし、一度意識を失う。


俺は王の間で目を覚ました。

一気に体が重くなった気がするけど、これはレベルが1に戻ったからだろう。


王座の横にはあの時と変わらず王女がいる。


「何を見てるのかしら。穢らわしい」

あれだけ嫌いだったのに、本当は嫌われようと努力していると分かっていると、頑張って演技してるんだなと思い、愛おしくさえ感じるな。


「本当気持ち悪い。もしかして私みたいな子供が好きなのかしら?そんな目で見ないでくれる」

いや、愛おしくはないな。

演技だとわかっていてもイラっとする。


しばらく王女の暴言に耐えていると、笹原君と星野さんが目を覚ました。


それから前と同じような説明を王女から受けて、騎士団長に連れて行かれる。


王女から説明を受ける際、今回は隷属の首輪のことを分かっていたので大人しく聞いていたのだが、説明するために俺を痛めつけやがった。

わかってはいるはずなのに、1度目のことが全て夢か何かで、本当にただのクソガキだと勘違いしそうになる。


助けようと過去に戻ってきたことを後悔しそうになるので、少しはかわいい所を見せて欲しいものだ。


部屋を移動して以前と同じ女性に、以前と同様の説明を受ける。


レベルが1に戻っている以上、前と同じことをやっていたらダメだ。

前回もレベル上げをサボったりはしていない。

そもそも首輪によってサボることは許されていなかったわけだけど、使える時間は変わらないので効率をよくしないといけない。


それならまずは何をやらないといけないのか……。


「明日からダンジョンに潜るんだろ?レベルさえ上げれば魔王に勝てるのか?」

俺は分かっていることを聞く。


「まずはレベルを上げてもらう。これは城の外を旅しても死なないようにだ。その後、それぞれ専用の武具を探してもらう。その武具を使い、ぎりぎりまでレベルを上げて魔王を討伐する」


「城の外はそんなに危険なのか?」


「武具がどこにあるかはわからない。森やダンジョンの奥底に隠されているかもしれない。そうなると魔物に襲われる可能性もあり危険だ」


「……わかった」


俺達の安全を考えてくれているわけだけど、そんなことをしている時間はない。


明日からのダンジョンでのレベル上げを、どうにかして行かない理由を考えて武具を探しに行きたい。


笹原くんと星野さんにまで国に逆らうことをやらせるわけにはいかない。それに、実際に旅をしている間に魔物に襲われることもあったので騎士団長の言う通り危険だ。

2人には以前と同じように頑張ってレベルを上げてもらい、俺は以前の経験を元にやらせてもらう。


2人の武具の場所も分かっているし、ある程度レベルが上がってから探しに行っても、最終的に2人も以前よりレベルが上がるはずだ。


どうにかして騎士団長を納得させる理由を考えないとな。


女性からの説明が終わり、部屋に案内される前に王女が現れた。

以前と同じく手にはパンを持っている。


どうなるのか分かった上で、すんなりと受け入れるのはおかしいので抵抗した結果、またもや口にパンを捻じ込まれることになった。


前と同じことが起きている間は駄目だということだ。

もっと変化をつけないと……

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