第14話 絶望と光

女神クロノア様からもう過去には戻れないと言われた。


俺の望みは既に叶えたから2度はないと。


「待ってくれ!頼むからやりなおさせてくれ。これじゃあ2人を無駄に死なせただけじゃないか……」


「私もあなたの望みを叶えてあげたいとは思います。しかし出来ないのです。あなたを過去に飛ばすだけのエネルギーが今の私にはありません」


「前は出来ただろう。なんで今回は出来ないんだよ。叶えたいと思っているなら叶えてくれたっていいじゃないか」

出来ないと言われてわかりましたと納得して出来るわけがない。


「1度目の時も私の力であなたを過去に飛ばしたわけではありません。最高神様より世界を救った者に褒美を与えるように仰せつかり、望みを叶える為のエネルギーとして、最高神様より神力を分け与えられていただけです。私はあなたの望みに合わせて神力を代行して使用しただけなのです」


「……今回だって世界は救っている。俺の望む形ではないがあの世界は救われたはずだ。最高神とやらはなんで今回は神力とやらをくれない?」


「あなたのお気持ちは理解出来ます。しかし今回あなたが救った世界というのは、元々救われていた世界なのです。厳しいことを言いますが、あなたが過去に戻ったことで、破滅の危機を再び招いているのです。今回はご自身の失態をご自身で解決した。そういう判断なのです。なので最高神様より褒美を与えられることはありません。本来であれば1度目の時もあのような望みを叶えることは出来ませんでした。せっかく救われた世界を破滅させる可能性があったからです。それを許可していただいたのは最高神様です。ですから最高神様を悪く思わないで下さい」


「言っていることは理解した。願いを聞いてくれない理由もわかった。だけど納得は出来ない。結局は最高神のさじ加減じゃないのか?最高神が褒美を与えると言えば俺は過去に戻れるということじゃないのかよ」

女神の言うことはわかった。

確かに俺が魔王を封印する前に戻り、また封印することに協力したとしても、あの世界としてはプラマイ0だ。

さらに褒美を要求するのは間違っているのかもしれない。


だけど、引き下がるわけにはいかない。


「最高神様の神力も無限にあるわけではありません。およそ1000年前に魔王が封印されてから溜め続けていた神力を使いあなた達を召喚し、魔王と戦う為に特別な力を与え、残った神力を褒美として望みを叶える為に各女神に与えられました。仮に最高神様があなたに褒美を与えるという判断をなされていたとしても、今の最高神様にはあなたを過去に戻すほどの神力は残っていません」

最高神の意思とは関係なく過去に戻る手段がないということか……。


「笹原君と星野さんの願いはどうなったんだ?亡くなったのだから神力は使われずに残っているのではないか?」

俺は何か方法がないか考えて、思ったことを言ってしまう。

仮に残っていても、それを俺が使っていいわけではないはずなのに。


「賢者様と聖女様の望みは既に叶えられています。幸い本人に直接関係する望みではありませんでしたので無効とはなっておりません。また、仮に使われていなかったとしても、あなたには使う権利がありません」


「それはわかっているが、笹原君達は自身が死んでいたなら生き返りたいと望んだんじゃないのか?」


「それは違います。賢者様と聖女様には死した後にもう一度望みが何か確認しております。その際に生き返ることを願ったのであれば、前の望みは無かったことにすることで神力を回収して、生き返ることになったでしょう。結果としてお二方共、願われたことは変わりませんでしたが……」


「笹原君も星野さんも自分の命よりも大事な願いがあったってことか?」


「そういうことになります。願いを聞けばあなたも納得するかもしれませんが、それを私が勝手にあなたに教えることは致しません」


「……そうか。頼みがある。殺してくれ。1人だけ生きて帰ったところで生きる気力はない。ずっと後悔しながら生きるくらいなら死にたい。これくらいならあんたにも出来るだろ?直接手を下せないなら、地球に帰すときに海の中にでも送ってくれ。嫌なことをさせようとしているのはわかるが、頼む」

俺はクロノア様に頭を下げて頼む。


「……わかりました。これはあなたの望みを叶えた私の罪でもあります。責任をもってその願い叶えさせてもらいます」

女神様は顔を歪めながらも了承してくれた。


「すまない。ありがとう」


クロノア様は俺の頭に手を当てる


「痛みはありません。あなたは悔やんでいますが、私は世界を救ってくれたこと、巫女様を救おうとしてくれたことに感謝しています。来世では後悔のない人生を歩めることを願います」


女神様の手が光り、俺は暖かい光に包まれ意識が薄くなっていく。


これで終わりだ。本当に最悪な人生だったな……。


「待って下さい!」

終わると思っていたのに、誰かに止められた。


俺は声のした方を見る。そこには王女がいた。

それから女性がもう1人。多分クロノア様とは別の女神だろう。


「……なんでここにいるんだ?あんたは封印の核となり死んだはずだろう?いや、そんなことはいい。なんで止めるんだ?俺は死にたいんだ」


「勇者様の言う通り私は死んでいます。今は魂だけの存在です。私は勇者様を止める為に女神様に無理を言ってここに来ました。勇者様は死ぬ必要はありません。私も勇者様達同様に女神様から世界を救ったとして望みを聞かれています。私の願いは賢者様と聖女様を生き返らせてもらうことです。女神様はこの願いは叶えられると仰られました。勇者様は賢者様と聖女様と一緒に元の世界へとお帰りください」

笹原君と星野さんは生き返るのか……。いや、でも……


「笹原君と星野さんが生き返るのは嬉しいよ。だけどあんたは核となり死んだままじゃないか!」


「私は世界を救えただけで満足しているのです。物心ついた時から魔王を封印することだけを考えて生きてきました。それが叶ったのですからこんなに嬉しいことはありません」


「俺にはそれは耐えきれない。これで元の世界に帰ったとしても後悔しかない。結果として1人の女の子を犠牲にして世界を救っただけじゃないか。それが嫌で過去に戻ったっていうのに、結局何も変わってない。あんたは満足しているって言うが、死にたかったわけではないだろう?」


「もちろん死にたかったわけではありません。しかし満足しているというのは事実です。勇者様と女神様の話は失礼ながら聞いていました。先程女神様に確認したら1度目の時に私は望みを言わなかったそうです。1度目といっても私にはその記憶はありませんが……、そのくらい結果には満足しているのです」


「頼む。あんたの願いで俺を過去に送ってくれ。俺にあんたを救わせてくれ」

俺はわがままを言っているのを承知で王女に頭を下げる。


「それはいけません。過去に戻るということは世界が滅ぶかもしれない状態に戻るということですよね?今なら私が犠牲となるだけで御三方共無事に元の世界へ帰ることが出来ます。それに、勇者様が過去に戻り魔王を討伐出来たとしても、もしまた賢者様や聖女様がお亡くなりになられたら、私の望みも使ってしまっているので、生き返らせることは出来なくなってしまいます」

それは俺だってわかっている。


「あんたは俺達が後悔せずに元の世界に帰れるように悪役を演じてくれたんだろ?俺はこの結末に後悔しかない。このまま元の世界に帰ったところで嬉しくもなんともない。だからこれは俺のわがままだ。俺が後悔しないようにもう1度やりなおさせてくれ。頼む!」


「…………。」

王女は迷っている。


「クロノア様、王女様の答えによっては先程の続きをお願いします。笹原君と星野さんが生き返ったとしても、俺はのうのうと生きる気はない」


「それは脅しですか?」

王女に言われる。


「そう捉えてもらって構わない。ただ、俺は本気だ。王女様、俺の立場で考えて欲しい。誰かを犠牲にして世界を救ったとして、あんたはその後の人生を幸せに過ごすことが出来るか?これは残されたあの世界の人も思っていることだ。あんたが救った世界は悲しみに溢れていたぞ」


「勇者様のお気持ちは嬉しく思います。しかし、私が助かる為に賢者様と聖女様を危険に晒すわけにはいきません」

俺の頼みは聞いてくれないか……


「巫女様、私からもお願いします。どうか勇者様にもう1度やりなおす機会をお与え下さい」

クロノア様が王女に頭を下げる。


「クロノア!無責任なことを言わないで下さい」

もう1人の女神がクロノア様を叱責する。


「サライア、私は無責任に話しているつもりはありません。勇者様が過去に戻った結果、もしも賢者様や聖女様が命を落とされたなら、私が責任をもって生き返らせます」


「どうやって生き返らせるというのですか?最高神様から与えられた神力は無いのですよ?」


「私の体を最高神様に捧げます。そうすれば2人くらいなら生き返らせることも可能なはずです」


「……わかりました。女神様、勇者様にもう1度やりなおすチャンスをお与え下さい。これが私の望みです」

王女が望みを言った。


「巫女様、本当によろしいのですか?クロノアはこう言いましたが、クロノアの体を捧げたところで生き返る保証はありません。それに世界が滅ぶ可能性もあります」


「私は私のことをここまで思ってくれる勇者様を信じます。お願いします」


「……わかりました。これで私も同罪ですね。もしまた賢者様や聖女様が亡くなられるようなことが起き、クロノアの体だけで足りないのであれば私の体も捧げましょう。世界をどうにかすることは無理でも、賢者様と聖女様は生きて帰すと約束します。勇者様、王女様の覚悟を無駄になさらないように頼みましたよ」


「王女様、クロノア様、サライア様、俺のわがままを聞いてくださりありがとうございます。かならずご期待に添えてみせます」


体が光りだし、俺は再びやりなおす

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