第2話 レベル上げ

寝たのか寝てないのか分からない状態で朝になった。


「ナオト様、朝食をお待ちしました」

昨日と同じ使用人の女性が食事を持ってきた。


「……ありがとう。そういえば名前を聞いていなかったですね。教えてもらえますか?」


「私はメルです。ナオト様の身の回りの世話をさせていただきます」


「……よろしく」


今日からダンジョンに潜るとのことなので、無理矢理にでも朝食を腹に入れることにする。


腹に入れ終わったところで騎士団長が部屋に入ってきた。


「これからダンジョンに向かう。準備しろ」

俺は騎士団長の後ろに控えていた騎士に訳の分からないまま装備を装着された。


「準備出来たな。それでは出発する」

俺は行きたくもないダンジョンへと連れてかれた。


ダンジョンの前で剣を渡される。

「これを使え。ダンジョンの中では油断は命取りだ。常に周りに気を配れ」

剣の振り方なんて知らない。

学校の授業で剣道があったけど、体育で習った程度で役に立つとは思えない。


騎士団長がダンジョンの中に俺を押し込もうとするので待ったをかける。


「入るのは俺とあんただけなのか?2人はどうしたんだ?」

笹原くんと星野さんがいない。


「あの2人にはそれぞれ別の騎士が付いている。効率よくレベルを上げる為に別行動だ。わかったらナオトは私と魔物を倒しまくるぞ」


「……わかりました」

昨日の発言を信じるなら騎士団長にもこの首輪で俺を縛る権限があるらしい。

断ることも出来ないので、俺は泣く泣くダンジョンに入る。


「早速いたな。まずは肩慣らしだ、あいつを倒せ」

目の前に動く骸骨がいる。


「……あ、あれはなんだよ?」

いきなり戦えと言われて、しかも骸骨と戦えるわけないだろ


「あれはスケルトンだ。装備も良いものを付けているし負けることはない。やれ!」


俺は戦おうとしたけど、足が動かない。


「何をしている!早く戦え!」

騎士団長が昨日に比べて厳しすぎる気がする。

昨日は王女に従っていたから仕方なく厳しくしていたって感じだったが……。


「そう言われても足が動かないんだ」


「なら動かしてやる。前進しろ!」


俺の足が勝手にスケルトンに向かって動き出す。

昨日王女にやられた時と同じだ。命令に抗えない。


「あ、ああうわあああ」

俺は動転したままスケルトンに剣を振り下ろした。


「倒したな」


「はぁはぁはぁ」

倒したのか……。


「今度はあっちだ」

騎士団長の示す方には他のスケルトンがいた。しかも2体。


「少し休ませてくれ。慣れないことをして気持ちがついていけてない」


「泣き言を言うな。いいからやれ!」

また俺の意思とは関係なく足がスケルトンに向かって進んでいく。俺はまたなんとか剣を振る。


その後も俺は操り人形のようにスケルトンに向かわされては倒すを繰り返す。


「ステータスを確認しろ。レベルはどこまで上がった?」


「ステータスオープン……2だ」


「よし、ちゃんと上がったな。2階層に降りるぞ」


「ちょっと待ってくれ。昨日のあんたはこんなじゃなかっただろ?なんでだ?なにがあった?」

意味がわからない。魔王とやらを倒すのに時間が無いのはわかるが、昨日と人格が変わりすぎている。


「……娘が王女に人質に取られた。私がナオトを鍛えきれなければ娘は殺される。言うつもりはなかったが、聞いたからには地獄を見る覚悟をしてもらう。悪いがナオトより娘の方が私にとっては大事だ。どちらにせよ魔王を倒せなければ人質と関係なく皆死ぬのだ。鍛えなければならない」

クソガキに対する怒りは増したが、さっきまでよりは自分の意思で戦おうという気にはなった。


ただ、騎士団長が宣言した通りここからは地獄になった。

さっきまでも地獄のようだと思っていたけど、さっきまでがぬるま湯に浸かっていたと錯覚するほどに騎士団長にしごかれた。


1日が終わり部屋に戻ってくる。

もう体がボロボロだ。早く風呂に入って寝たい。


「あら?随分とお似合いの格好をしているわね。ダンジョンに行ってきたのでしょう?どこまで強くなったのかしら?」

王女に言われる。わざわざバカにする為に俺の部屋の前で待っていたらしい。


「5だ」

俺は答える。


「ぷっ!それだけ薄汚れてたったの5!5って笑かしに来ているのかしら。騎士団長には甘やかさないようにちゃんと言っておかなければいけないわね」

なんであれだけやって笑われなくてはいけない。


俺はこれ以上話してもストレスが増すばかりだと、王女を無視して部屋に入ろうとする。


「何無視してるのかしら?せっかく私がわざわざあなたのためにご飯を持ってきたのに。ほらお食べ」

昨日同様、床にパンを置かれる。


断ったところで昨日と同じ目に遭うことは目に見えているので、俺は手で取って食べようとする。


「なんで犬が手を使っているのかしら?そんな躾はしてないはずよ。ほら戻しなさい。そして跪いて食べるのよ。手間を掛けさせるんじゃないよ」

首輪の力で強制的にパンを皿に戻されて、四つん這いにされた挙句、パンを咥えさせられた。


魔王と無理矢理戦わせようとするのはまだわかるが、なんでここまでされないといけないのか。


「お前は魔王を倒させる為に俺達を召喚したんじゃないのか?なんで俺達に喧嘩を売るようなことをするんだよ?」


「その方が私が面白いからに決まってるじゃない」

こいつ悪ぶれもせずに言い切りやがった。


話をしてもやはり無駄なのだと再認識する。


部屋に入ると、メルさんが食事を用意してくれており、風呂も入れる状態にしてくれていた。


「そんなに汚れてしまって……。お背中をお流ししますのでどうぞこちらへ」

風呂場に案内される


「1人で大丈夫です」

メルさんが言葉通り背中を流すと一緒に入ってこようとするので断る。


それから、眠いのを我慢したまま飯を食べ就寝した。


それから、ダンジョンで死ぬ思いをして、やっと終わったら王女に喧嘩を売られるという日々を過ごし1ヶ月経った。


俺はまた王の間に来ていた。


「成果を教えなさい」

王女にこの1ヶ月の結果を聞かれる。


「63まで上げた。満足か?」

俺は答える。


俺のレベルを聞いて笹原くんと星野さんが驚いている。

2人と会うのも1ヶ月ぶりだ。

会えなくされていたわけではないが、気にかける元気はなかった。


「そうね。満足しているわ」


「今日はえらく素直だな」


「何を勘違いしているのかしら。これは私の育て方が良かった結果よ。あなたが優れていたわけでも頑張ったからでもないわ。さすが私。これであなたがもっと優秀ならレベル80はいけたでしょうね」

俺の頑張りを認めるつもりはないようだ。


反論したところで聞くつもりがないことも、激痛を与えられるだけなのもわかっているので言わないことにする。


それから笹原くんと星野さんのレベルも確認される。

笹原くんは52、星野さんは35になっているようだ。


「まあ、及第点としましょう。騎士団長、準備はできていますか?」


「いつでも出発出来ます」


「では明朝出発します。説明は任せました」


「はっ!」


王女が下がった後、騎士団長に説明を求める。


「次は何をやらせるんだ?」


「武具を探しに行く。どこかに選ばれた者しか扱えない武具が隠されているらしい。それを見つける」


「そんな物、俺達を呼ぶ前に見つけておけよ。俺達が探す時間はないだろ?」

兵士にでも探させておいて、俺達は出来るだけ鍛えたほうがいいだろう


「武具は選ばれた者にしか見つけることは出来ない。選ばれた者が近づくと姿を表すらしい。レベルを上げさせたのは探している最中に魔物に殺されない為だ。武具が見つかった者からレベル上げを再開する。但し、武具を見つけるには勇者の力が必要らしい。だからナオトには全員分の武具が見つかるまで同行してもらう。半年以内には全員分見つける予定だ」


「当てはあるのか?この世界がどれだけ広いかは知らないが、当てもなく歩き回って見つかるとは思えないんだが……?それからなんでそんなことを知ってるんだ?」


「選ばれた者は武具と惹かれ合うらしい。適当に進んでいても知らず知らずのうちに武具の方に進むことになるだろう。知っている理由は文献に残されているからだ。私にも詳しくは分からない」


「そんなんで見つかるのかよ?」 

行き当たりばったりということらしい。勘弁してくれよ


「他に当てはない。見つからなければ死ぬだけだ」


翌日、心配しかないまま出発することになったが、何故かそこには王女の姿もあった。

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