やりなおし勇者は悪役王女を救いたい

こたろう文庫

第1話 悪役王女

日本でサラリーマンをしていた俺は会社に行く途中に穴に落ちた。


途中で意識を失ったのか、目を覚ますと知らない建物の中にいた。

隣には高校生くらいの少年と中学生くらいの少女が倒れている。

2人は変わった模様の首輪を付けており、確認すると俺にも首輪が付けられていた。鏡がないので同じものかはわからないが、多分同じものだと思う。


「やっと1人ね」

女の子の声がしたので、声がした方に顔を向けると高そうなドレスを着た12・3歳くらいの女の子がいた。

顔つきは日本人ではなさそうだ。


隣には椅子に座ったおっさんがいる。このおっさんも高そうな格好をしているし、偉そうだ。


周りを見てみると鎧を着た兵士がズラッと並んでいる。


「あの、ここはどこですか?」

俺は口を開ける。


「誰が声を発して良いと言いましたか?黙ってそこで頭を垂れてなさい」

ドレスを着た少女に言われる。


「…………。」

俺はあまりの言われように言葉を失う。

そして怒りが沸々と湧き上がってくる。


しかし、周りには武装した兵士が多数。

この部屋も見たところ、城の王の間に見える。

そうなるとあそこに座っているのは王だな。隣にいるのは王女か。女王や妃にしては若過ぎる。


俺は自制して怒りを抑える。

しばらくして倒れていた少年と少女も目を覚ました。


「やっと全員起きたようね。あなた達は私に召喚されたの。この国の為に魔王を倒しなさい」

何言ってるんだこの頭のイカれた王女は……。


「ちゃんとわかるように説明してもらえいだだだだだ!」

説明を求めようとしたら体に電気が走ったように痛みが走った。


「あなたには先程も言いましたよね?誰が口を開くのを許可しましたか?小さい脳みそでは一度で覚えることも出来ないのかしら……。それにあなたに言われなくても説明くらいしてあげるわ」

クソ!このガキ絶対説明する気なんてなかっただろうが。


「あなた達に付けている首輪は隷属の首輪よ。効果はさっき見たからわかるでしょう?私の気分で罰を与えられるわ。さっきはすぐに止めてあげたけど、首を消し炭にすることも可能なのだから、そうならなかったのを感謝しなさい」

このクソガキが……魔王を倒せだぁ?魔王より先にお前を討伐した方が良さそうだがな。


「私はこの国の王女であるメグル。あなた達の主人だから覚えておきなさい。ご主人である私に名乗る権利を与えるわ。そこの犬から名乗りなさい」

俺は犬か。マジでぶん殴りてぇ。


「俺は宮島直人だ」

俺は仕方なく名乗る。


「笹原智也です」


「……星野あいり」


「天職を教えなさい。手を前に出してステータスオープンと唱えれば自分のステータスが表示されるわ」

王女に言われたままステータスを表示させる。


俺は勇者が天職らしい。


「勇者らしい」


「やった、ナオト様……」

王女が何か小声で呟いた気がしたが気のせいだろう。


「賢者です」

「聖女……」


「召喚の儀式は成功のようね。あなた達にはこれから1年後、魔王と戦ってもらいます。拒否するなら分かってますね」

王女は自分の首を触りながら言った。


俺は手を挙げる。

「なんですか?そこの駄犬」


こいつは俺にケンカを売らないといけない決まりでもあるのだろうか……。


「なんで魔王を倒さないといけないんだ?それから俺達は魔王とやらを倒したら元の世界に返してもらえるのか?」


「……1年後魔王の封印が解けます。魔王はこの世界を壊して自分の都合の良い世界に創り直すでしょう。そうなればこの世界に生きる全てのものは息絶えます。なので魔王は倒さなければなりません。魔王を倒せばあなた達は用済みなのでちゃんと送還してあげます。残られて暴れられても困りますし」

ケンカを売りつつもちゃんと答えるんだな。

お前らは黙って戦っていればいいんだ!みたいなことを言うかと思った。


「なんで1年後に魔王の封印が解けるとわかるんだ?」


「魔王を封印している結界が弱まっているからよ。なんでも聞いてないで、少しはその小さい頭で考えるなり、調べるなり出来ないのかしら」


ほんとこのクソガキ、可愛くねぇな。

困ってるから助けてとでも言えないのかよ。


「そういうわけであなた達にはこれから1年で魔王と倒せるだけの力をつけてもらいます。騎士団長!」


「はっ!」


「こいつらのレベルを徹底的に上げなさい。そうね……1ヶ月後までに50にはするように」


「王女様、失礼を承知で申し上げます。そのペースでレベルを上げようとしますと、勇者様達が壊れる可能性があります」

騎士団長が苦言を呈した。

王女以外はまともなのか?


「壊れたらそれだけの存在だったというだけよ。あなたは黙って私の命令に従っていればいいの。それに甘やかした結果魔王を倒せなければどうせ皆死ぬのよ。3人いるのだから1人くらいは壊れてもいいわ。だからやりなさい」

良いわけないだろうが!


「はっ!」

騎士団長、もっと食い下がれよ。


「後の説明も任せるわ。隷属の権限も一部与えるから暴れるようなら好きに罰を与えていいわ。もちろん首輪の力に頼らずに屈服させても構わないけど……」

王女はそう言い残して出て行った。


「さて、王女様の命令なので君達を鍛えさせてもらう。と言っても、流石に今日からレベルを上げに行くには準備が出来ていないので、今日はこの世界の事を知る為の時間とする。付いてきなさい」

この騎士団長はまともな人なのかもしれない。


騎士団長に連れられてきた部屋には、1人の女性がいた。


「この方達が勇者様達です。この世界の事、魔王の事、勇者召喚の儀の事、出来るだけ教えてあげて下さい。明日からは時間が取れなくなりますので、今日中にお願いします」


「わかりました。それでは勇者様方、そこの椅子にお掛けになって下さい。事情が飲み込めないまま連れてこられて困惑していると思いますが、まずは私の話を聞いてください。わからないところや、他に知りたいことがあれば言ってください。なんでもお答えするつもりでいます」


女性からこの世界キリギスについて、俺達に関係のあるところを重点的に説明を受ける。

今から約1000年前に魔王の元となる因子が生まれたらしく、その因子を受け取った男は凶暴化し魔王と呼ばれる存在になった。

魔王は生きているだけでどんどんと力を増すらしく、その危険性に気付いた当時の人が封印したらしい。

封印した理由は既に倒すことは出来ない存在になっており、封印するのが精一杯だったようだ。


しかし、封印されていても魔王は微量ではあるが成長し続けているらしい。


そして成長し続けた魔王を倒すには力が足りないので、勇者を召喚することになったそうだ。

その結果、呼ばれたのが俺達だ。


この女性が言うことを信じるならば、あのクソガキは嘘は言っていなかったようだ。

魔王を倒す必要はあると。


この国の方が悪なのではないかと思うくらいの心境ではあるが……。


「それならなんでこんな首輪で縛る必要があるんだ?初めからそう説明してくれればよかっただろう?」


「王女様は他の世界から来たものがこの世界の為に命を賭けるとは思えないと仰られておりました。戦うと言ったとしてもどうせ訓練から逃げ出すだろうと。それから……ペットには首輪がお似合いだと……」

騎士団長は申し訳なさそうに言った。


「魔王を倒せなければ俺達はどうなるんだ?」


「死にます」

まあ、そうか。

勝っても負けても役目を終えたら帰れると言うわけではないんだな。


「後これだけ聞かせてくれ。魔王を倒したとして、あんなのが王族でこの国は救われたと言えるのか?王も傍観してたが、まともな奴はいないのか?」

そもそもなんであんなのが上にいて誰も反旗を翻さないんだ?

より悪である魔王がいるからか?


「国王陛下に意思はない。すでに傀儡となられている。そして我々も王女様に楯突くことは出来ない」

騎士団長はそう言って自分の後ろ首を俺達に見せた


「なんだそれは?」


「君の首に付いているものと同じようなものだよ。効果は首輪ほどはないが、一瞬で動けなくなり、苦しむのは変わらない。消し炭とはならないが、許しが得られなければそのまま死ぬだろう」

救いがなさすぎる。

死ぬ思いをして魔王を倒したとしても、救われるのは腐った世界かよ。


俺は絶望する。地獄と思っていた社畜人生に戻りたいと思うほどに……。


「餌を持って来ましたわよ」

絶望する俺の前に王女が現れて床にパンを置いた。

一応皿には乗っているが……


「何のつもりだ?」


「ペットに餌を与えに来たのです。私ちゃんとペットの面倒は見ますのよ」


「いらん」

もうこのまま殺された方が幸せな気さえしてくる。


「跪いて口を開けなさい!」

王女の命令に逆らうことが出来ない。

体が勝手に動く。


「なんだよこれ」


「言ってませんでしたね。その首輪にはこういった効果もあるのですよ。ほら食べなさい」

王女は俺の口にパンを突っ込んだ。


「もがもがが」

せめて千切るなりして口に入れろや


「騎士団長、こんなことをしている暇はあるのですか?今からでもダンジョンに向かった方がいいのでは?」


「まだ装備などの準備が出来ておりません。それに休息は必要です」


「……仕方ないわね。それなら早く犬小屋に連れて行きなさい」


「はっ!」


騎士団長に連れてこられたのは犬小屋ではなく普通の部屋だった。1人1部屋ちゃんとある。


「こちらの部屋を使ってください。食事も後程ちゃんとしたものを持ってこさせますので」


騎士団長が出て行ってしばらくしてから、使用人と思われる女性が食事を持ってきた。

世界の違いを考慮すれば普通の食事に思える。


明日からはダンジョンに潜るらしい。

もう心配しかない。


俺は王女の顔が脳裏をよぎる度にイラつきながら起き、寝られない夜を過ごした。



作品紹介


「天職が『盗賊』という理由で追放されました。盗みを極めし男はやがて魔王と呼ばれる」

https://kakuyomu.jp/works/16816927859088841470


「クラス転移したひきこもり、僕だけシステムがゲームと同じなんですが・・・ログアウトしたら地球に帰れるみたいです」

https://kakuyomu.jp/works/16816700427057496202


「イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・」

https://kakuyomu.jp/works/16816452220288537950


「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」

https://kakuyomu.jp/works/16816452219725509832


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