貴様ネコちゃん

白川津 中々

 お、猫がいるではないか。

 出勤途中、朝のクソ忙しい時間に起きた稀なイベント。ネコちゃん。なんと可愛らしい動物だろう。愛らしさに仕事の憂鬱が癒されるな。どれどれ、撫でてやろう。



「触るな」


「な!?」


「触れてくれるな人間風情が」


「なんだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!? 猫如きが偉そうにぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」


「猫如きか……貴様ら人間はいつもそうだ。命は平等だのアニマルライツだのとのたまうが、いざこうして対等に話してみるとどうだ。ヘイト真っ盛りではないか。それで万物の霊長を名乗るとは片腹痛いわ」


「……」


「どうした人間よ黙り腐って。猫如きに言いくるめられ、反論の余地もなしか? なんとも情けな……」


「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


「!?」


「黙って聞いてりゃあごちゃごちゃごちゃごちゃごちゃごちゃごちゃごちゃごちゃごちゃと! 知るかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁそんなもん!」


「ひ、開き直るか人間!」


「そうでぇぇぇぇぇぇぇぇす! 開き直させていただきまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁす! 人間だって所詮は動物でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇす! 好きなようにさせていただきまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁす! おら! 撫でさせろ! そして死ねぇ!」


「あ、馬鹿やめろ……」



 カサ。



 手に伝わる感触は、薄く、ツルツルとしていた。

 目を落とす。そこにあるのは、コンビニのレジ袋。




「……」




 ……レジ袋は何も言わない。風に揺られカサカサと音を立てるだけで、なにも、なにも……




 レジ袋有料化が始まり幾月が経った。しかし、具体的な効果は未だ聞かない。それはそうだ。曖昧な根拠のもと行われた施策に結果など伴うわけがない。そのうえコンビニやスーパーで使われているレジ袋の原材料はバイオマス。大地に破棄しても自然へと帰る素材である。にも関わらず、どうして……


 街中はエコバッグを持ち歩く人々で溢れている。もはやビニール袋がない世界は受け入れられ、それを疑問にも思わない。しかし、世界中が認めても俺だけは認めるわけにはいかない。



 妥当セクシー! レジ袋カムバック! ストレスレスなコンビニエンスを俺は待っているぞ! 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

貴様ネコちゃん 白川津 中々 @taka1212384

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ