第33話 親愛なるものへ-最終話


                   *


 雲間から太陽が顔を覗かせた。明るい日差しが美生の目を眩ませる。いい天気だ、そう思いながら美生は窓を閉じた。階段を降りると、和枝が店の支度をしていた。

「おばあちゃん、大丈夫?」

「あぁ、まかせときな。あんたは、ちゃんとあっちの方、やっておいで」

「ごめんね、勝手なことして」

「いやいや、いいんだよ」

「理奈は?」

「店の掃除してくれてるよ」

美生が店に出ても理奈の姿は見えなかった。扉が開いているのを見つけて外に出ると、理奈は店先を掃除していた。

「おっ、やってるね」

「あ、お姉ちゃん。そろそろ行くの?」

「ん、ごめんね、店の方押しつけちゃって」

「んん。いいの、楽しいから、大丈夫」

理奈の表情は明るく、美生の不安を打ち消してくれた。しばらく前までの理奈の表情とは全く違っている。

「じゃあ、そろそろ行ってくるわ」

「頑張ってね」


 上岡駅近くの空き地には、フリーマーケットという横断幕が掲げられていた。大勢が賑わう中に美生が入ると、美生を呼ぶ声が聞こえた。振り向くと、商店組合会長が美生を招いていた。美生は呼ばれるままに近づいて打ち合わせの場所に行った。一通り打ち合わせが終わると、今度は高石が呼んだ。

「ミキちゃん、ちょっと来て」

美生は呼ばれるままに学生が集まっているブロックに入って、指示を与えた。てきぱきと指示を終えると、高石は感心したように美生を労った。

「大変ね、こんなに大きなフリーマーケット取り仕切るなんて」

「まぁね。初めてだから、やっぱ大変だよ。でも、学生だけで何かするなんてできないからね、こうやって大人の人に協力してもらうのが一番いいんだよ」

「まるで、上岡駅商店街の元締めみたいだね」

「まさか、あたしはただの一商店主。今日は企画運営係。それだけ」

「充分よ、それだけで。中学生のくせに」

美生は大きく笑った。笑い声は喧騒にかき消され、美生を呼ぶ声で制止された。

「ミキちゃーん、ちょっとここ、どうしたらいいか教えてぇ」

「はーい」

美生は呼ばれる声の方に駆け出した。

 賑わうフリーマーケットの空気は、熱気に満ちて、夏を呼び寄せようとしているようですらあった。

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グリーンスクール - 親愛なるものへ 辻澤 あきら @AkiLaTsuJi

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