第32話 親愛なるものへ-32

 「あたしは、里子に出してください」

一瞬空気が凍りついたように、三人の大人は静止してしまった。

「絶縁でも結構です」

理奈はばっと顔を上げて美生の顔を見上げた。美生の横顔は凛としていて、理奈には姉ではない別人に見えた。

「それから、理奈は、あたしが引き取ります」

 驚愕の発言に、一瞬、誰も返答できなかった。理奈も美生の顔を見上げたまま硬直していた。美生はゆっくりと理奈に顔を向け、そして優しく微笑んだ。微笑みながら頷いた。それを見た理奈の表情は溶けて、笑顔になって、美生に抱きついた。

「そんな、バカなことができるわけないだろ!」

美生ミオ、バカなこと言うもんじゃない!」

「勝手なこと言わないで!」

罵声を浴びながら美生はきっと三人を睨んだ。睨みながら言った。

「誰が、バカなんだよ。バカはあんたたちじゃないか」

冷たく言い放つそのひと言に三人は怯んだ。美生は淡々と続けた。

「こんなに理奈が苦しんでるのを無視して、何を言い合ってるんだ。あんたたちの都合で離婚するのは勝手じゃないのか。よそに女作って家に帰って来ないのはバカげてないのか。あんたたちの都合であたしたち姉妹を引き離そうなんて、バカげてないのか。二人の子のうち一人を選ぼうなんて、バカげてないのか。あんたたちの子だろ。それをモノみたいに、適当に割り当ててそれで、バカじゃないって言うのか。あたしは、あんたたちと絶縁する。里子にもらってくれる家は見つけてある。理奈は、あたしが引き取る。あたしには、この子を引き取って面倒見てやれる財力もある。何より、あんたたちよりも、この子を、理奈を、愛してる」

美生はそう言いながらぐっと理奈を抱き締めた。三人の大人を睨みつけながら。

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