第8話 ファイト!-最終話
土曜日の午後、奨学生資格試験の結果が掲示された。待ち望んでいた結果に美亜は食い入るように見つめた。美亜の名前は、奨学生を示した文字の中に、あった。一瞬、何も聞こえなくなった美亜は身動きできなくなり、ただ目だけが意思を持って自分の名前を見つめ続けた。そして次第に感慨が胸に沸き起こってきた。何度も自分の名前を確かめた後、ようやく小さくガッツポーズを決めて、職員室に向かった。書類をもらうためと、あの優しく微笑んでくれた原武先生に報告するために。
気分よく新聞も配り終わり、足取りも軽く家路に着いた。奨学生になったと言えば、母はどれだけ喜んでくれるだろう。そんな期待で一杯だった。
扉を開けてただいまと言いながら足を踏み入れると、そこに男物の靴があるのを認めた。美亜はかっとなったが、今日はゆっくりと、猫が獲物を狙うかのように、足を踏み入れた。
居間に入ると母が父と一緒に座っていた。母は美亜に向かって明るくお帰りと言ってくれた。その笑顔が、最近見たことのない明るい表情だったので、一瞬にして美亜の頭は冷めた。
「美亜、お父さんがね、来週から働くのよ」
美亜の言葉を待つまでもなく母は話し出した。あまりに嬉しそうな母の表情に美亜はただぼんやりと聞いているだけだった。
「ほら、中瀬のおじさん知ってるでしょ。その紹介でね、来週から、小さな事務所だけど、勤めることになったの」
美亜がぼんやりと靖に目を向けると、父は少し俯き加減に頷いた。
「そういうことなんだ。…美亜、色々迷惑掛けたけど、今度はちゃんと働くから」
「そ、そんなの、信じられないね」
美亜は虚勢を張って言い退けた。
「まぁ、信用されないのも、仕方ないけど…。でも、先週の一件の後、警察の人にも、先生にも怒られてね…、それで、反省したんだ。だから、今度はちゃんと働くよ」
先生、という言葉に一瞬美亜は原武先生を思い出した。
「どんな先生?」
「どんなって、担任の先生とそれから主任の先生と、だったと思うけど……」
美亜は自分の思惑が外れたことにがっかりした。と同時に、事件を起こしたことが学校に知れていることに驚いた。にもかかわらず、自分が奨学生に受かったことに違和感を感じた。感じながら、それを黙認してくれている学校に、感謝する気持ちが沸き起こってきた。
「美亜、悪かった。お父さん…自棄になってたんだ…。いつまでも、辞めさせられた会社を恨んでて、次の仕事にも身が入らなくて…それで」
「いいよ。あたいはまだ、信用した訳じゃないから。ホントにちゃんと給料持って来たら、信用してやる」
「美亜」
斜に構えながら父を見つめる美亜に対してみづえはたしなめるような声で言ったが、美亜は軽く舌を出して応えた。それを見てみづえは、また笑顔に戻った。靖もようやく笑顔を見せた。
「必ず、そうする」
「はいはい。まぁ、しばらくは様子見だね」
美亜はそう言いながら、鞄に手を突っ込むと書類を、みづえに突き出した。
「何、これ?」
「いいから、見なよ」
美亜は、怪訝な顔で封筒を開く母の様子を伺いながら、次の瞬間の母の表情を見逃すまいと、じっと見つめた。
グリーンスクール - ファイト! 辻澤 あきら @AkiLaTsuJi
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