7月29日
第18話
次の日の朝、家に手紙が届いていた。シンプルな白の封筒に入っていて、表には少しぶれた字で『保科心咲様へ』と書かれている。御子柴先輩からだ。そう直感した。
「まさか、これだったりする?」
母は小指を立てた。
「そんな訳ないでしょ」
母がからかうのを無視して、私は部屋に戻り封筒を開いた。中にはベージュ色の便箋が入っていた。
保科へ
まず初めに、手紙でこのことを伝えるのを許してほしい。できれば僕も直接伝えたかったが、これが最良だと判断した。
本題に入ろう。僕は君にずっと隠していたことがあった。もし君の勘が良いのなら、僕の様子が変であることぐらいは気づけるだろう。
僕はずっと呪われていたんだ。今これを書いているのは7月21日だから、呪われたのは14日前の7日。未来の僕が君に教えた前提で説明しよう。僕のこの呪いは古来呪法だ。そして僕を呪ったのは、君だ。
君の好意には気づいていた。君は去年の7日に僕を本気で好きになり、異常なほど愛し続けた。1年間、僕を想い続けた。だから君は古来呪法の条件を偶然にも満たしてしまい、僕は呪われた。呪いの内容は『対象の五感を奪う』だ。古来呪法はその呪った側の求めることが反映されることが多い。君は僕をとことん欲しがったんだ。五感さえも。
この手紙が届いているということは、僕は病院に入院しているだろう。僕が倒れたらこの手紙を保科に送るよう、父にあらかじめ頼んでおく予定だ。
君には心配をかけたくなかった。だから僕は平気なふりをしている。今日も違和感なく過ごせたと願いたい。この手紙が届いて君が真実を知るその瞬間まで、心配をかけたくなかった。今は味覚と嗅覚を完全に失っていて、そろそろ触覚もなくなりそうだ。こうやってボールペンの感触がない中で手紙を書くのは難しいね。
なぜ僕は君をここまで気にかけているのか、内省してみたんだ。僕は君のことがとても気になっていた。その友達想いの優しさや、時としてはっきりと物を言うその態度。僕は君に惹かれていたのかもしれない。これは恋慕とも言えるだろう。
もしこの手紙を読んでから会おうとしているなら、覚悟を決めてほしい。その時、僕はもう聴覚も視覚も失っているかもしれない。君が来ても気づけなくて、話せないかもしれない。
だから、伝えておく。僕には会いに来なくていい。君が辛いだけだ。
1年と数か月という刹那の間だったが、僕は楽しかった。普段自分の思いを表に出さないから、こうして文をしたためておこうと思う。
本当にありがとう。
最後の一文は、彼らしくないほどに震えていた。
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